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157話 地下に眠る軍勢


()()ち人』の訪問から、何度目かの『尊き地平の黄金(プライド・ブロンド)』を届ける日課を終え、俺はいつものたまり場、『輝剣屋スキル☆ジョージ』にて(いこ)っていると、妙な情報を耳にする。



『天候:月夜』になると、巨人の死体(・・)オブジェクト(・・・・・・)が動き出す。


 

 そんな話をジョージがしたものだから、俺は急いで『地下都市ヨールン』へと向かう事に決めた。巨人の死体オブジェクト……昼間や普通の夜などは常時、危害を加える事も何もできない大きな物体で、巨人の腐った死体のような物が散見されるようになったと報告があったらしい。それら謎の物体を調査していた傭兵(プレイヤー)集団が、『天侯:月夜』の晩に、突如として動き出した死体に(おのの)き、戦闘を仕掛けるも全滅させられるという事件が発生したらしい。

 

 俺の予想が正しければ、『東の巨人王国(ギガ・マキナ)』の巨人たちのはずだ。

 彼らは太陽の光を浴びて知性と記憶を取り戻し、月明りが降り注ぐ時のみ動き出せる。条件は一致しているはず……。



『ちょっとちょっとん、そんなに慌ててどこ行くのぉん! あちき達の合作スキル『冬の落とし子』たちのお話もしましょうよぉん!』


 というオカマの引き止めもあって、一緒に行動する事になったわけだけど。




「て、天使ちゅわん……あなた、顔パスなのぉん!?」



 やはり(のど)ちんこをフル露出しながら、俺の後についてくるオカマ。

『妖しい魔鏡』で幽霊の『奴隷王ルクセル』を発見し、『浅き夢見し墓場』から『地下都市ヨールン』までの道のりを案内してもらう間、オカマはヌンチャクをビュンビュン落ち着かない様子で振り回していた。



『じゃあ、ボクたちの真の王によろしくね。キミには感謝しているよ』


 ルクセルはリッチー師匠に解放されて、元の鞘、巨人の王ヨトゥンに仕える事ができて心底嬉しそうだった。

 ちなみに『名声』スキルの『空気を詠む(アイレ・ポエマ)』で、俺との関係性をチェックするとこんな感じだった。



 NPC/モンスター『レイス(奴隷王ルクセル)』

:傭兵タロとの関係性 → 好感度【忠誠】

:かつて『東の巨人王国(ギガ・マキナ)』とその繁栄を共にし、巨人族に仕えた奴隷人の王。



 以前は【友愛】だった関係性も、いつの間にか忠誠って……壊滅の王ヨトゥンに知性を保つため『太陽に焦がれる偽魂(サン・ホムンクルス)』の入ったランタンを一つ置いて行ったのが関係してるのか? 嬉しい事だけど、仮にも王が俺に忠誠とか良いのだろうか?

 まぁいっか。



「それよりジョージ、輝剣(アーツ)『冬の落とし子』については【熟成】させる場所がわかったの?」


 スキル『冬の落とし子』。雪を降らせるといった内容が説明文に書かれていた、錬金術と装飾の合作。輝剣(アーツ)が完成するためには、それぞれの輝剣(アーツ)に適した場に保管する【熟成】を行う場所を、発見する必要がある。


「それよりって……幽霊に墓標の道を作らせて最奥まで一直線、ましてぇん地下への入り口まで案内させるなんて隠し要素、聞いた事ないわよぉん? というか、この地下ってなによぉん、あちきを暗い所に連れ込んで何する気ぃん!?」


 後半のくだりはスルーしておくことにする。



「ゲームなんだし、ダンジョン攻略の裏道ぐらいあるのは普通じゃないの?」


「はぁ、天使ちゅわんの普通(・・)にはもう驚かないわ……あちき達の子供、『冬の落とし子』はね、やっぱりぃん寒い場所で『熟成』させる必要があるらしくてねぇん」


「ふむふむ……」


 俺は『陽精(フェイユ)を宿す種火入れ(ランタン)』を掲げ、地下都市へと続く階段を進みながらオカマの話に耳を傾けた。この太陽光さえあれば、中にいる巨人ゾンビ達は理性を取り戻し、俺達を襲ってくることはないのだ。


「『マウントシェリー』はダメだったからぁん……『呪いの雪国ポーンセント』近辺が適しているかもしれないわぁん。昨日から『熟成』を始めておいたからぁん、適してれば完成してるはずよぉん」



 輝剣(アーツ)に関する話をしながら、知性なき巨人たちの亡骸が彷徨う廃墟となった『地下都市ヨールン』を俺達は進み続ける。そうして、太陽の子供たち(ホムンクルス)が踊るランタンの光頼みで、ぼんやりと白光りする巨大な神殿へと無事に辿り着く。

 種火入れ(ランタン)に照らし出され、武具を装着した特別な巨人たちは静かに片膝を付き、俺達を迎え入れてくれる。



「巨人たちは、そのカンテラの光で、大人しいのよねぇん……も、もう天使ちゅわんのやる事にわっん、驚かないわんっ」


 わんわん犬みたいな口調にしても、可愛さの欠片もないからな。

 ランタンの角度によってはチラチラと覗くオカマの喉奥にはなるべく視線を向けないよう意識しながら、ここの巨人達を統べる『壊滅の王ヨトゥン』に対面する。



「オォ、太陽ヲ司ル天使殿……ヨク参ラレタ……」


 高層ビルよりも高い巨人の王は、ひざを突きこちらを見降ろしてくる。相変わらずの大迫力だ。


「元気だった?」


 ヨトゥンを見て『大丈夫なのぉん!?』と、後ろで小さな悲鳴を上げるオカマをスルーして俺は彼と向き合う。



「太陽ヲ司ル天使殿ノオカゲデ、コノ通リ……」


 神殿の中央には、聖遺物でも扱うかのような荘厳な台座があった。そこにちんまりと俺の置いていった『陽精(フェイユ)を宿す種火入れ(ランタン)』は鎮座していた。それを、電柱よりも太い指で示すヨトゥン。



「それならよかったよ。ところで確認したい事があるのだけど、地上にヨトゥンさんの仲間が出張してたりしない?」


「アァ、此処(ココ)カラ()デテ、探サセテイル」


「何を?」


 ヨトゥン(いわ)く。

 俺が置いて行った『太陽に焦がれる偽魂(サン・ホムンクルス)』のランタンを利用して、巨人たちに一定時間の太陽光を浴びせるようになったと。すると、太陽の光を浴びた時間の長さによって、知性や記憶を保つ時間が増える事が判明したそうだ。確かに一瞬しか光を放たない『閃光石』で、ヨトゥンは一分弱は理性を保っていた。とするならば、太陽の光を浴びた秒数の40倍以上は生前の知性と記憶を保っていられるという事になる。


陽精(フェイユ)を宿す種火入れ(ランタン)』の効果は永続だ。いくらでも太陽エネルギーを補充できたのだろう。


 十分な量を摂取し、それで地下から外に出る事が可能になったと。体質上、月明かりがないと巨人たちは動けない。だから少しずつ、天侯が月夜の時を頼りに地上を闊歩していたという。もちろん昼間は太陽の光を浴び放題というわけで理性は保てているようだ。



「無論、魂ノ解放ノタメ……宿敵デアル竜ヲ見ツケ出スタメ」


 リッチー師匠の錬金術によって、死にながらもゾンビとして蘇生し、魂の救済なくして繋ぎとめられている巨人たち。復讐に基づく『闇月の騎士』契約によって巨人達は『宿敵を滅ぼすまで、その生を維持し続ける』という内容も呑んでいた。そのため、怨敵であるリッチー師匠を滅した今でも、自分達の国を攻め滅ぼした竜を滅ぼさない限り、彼らに安寧の休息はない。


 だから、どこかで生息しているであろう竜族を探しているそうだ。


 ちなみに傭兵(プレイヤー)を襲った件に関しては、与り知らぬとの事だ。自衛としての暴力は振るうが、自ら人間に害を成す巨人は理性がある限り、『東の巨人王国(ギガ・マキナ)』にはいないとのこと。ジョージから聞いた情報通り、傭兵(プレイヤー)側から手出しをしなければ安全なモンスターなのだろうが……今はまだ圧倒的に巨人たちの方が強いけど、傭兵(プレイヤー)たちのレベルが上がっていくにつれ、本格的に傭兵(プレイヤー)側の巨人狩りなどが始まったら不安だ。



「ヨトゥンさん、俺も幻想郷(ファンタズマ)の存在と位置を確認できたよ」



 真の故郷である幻想郷(ファンタズマ)が雲海の下にあったと伝えると、ヨトゥンはかなり喜んでいた。しかし、未だに行き方はわからない。さらに今、全員で故郷に帰れたところで、魂が解放されないのならば無意味。せめて敵の生息場所を特定し、戦争の準備を一段落付けてから、故郷に戻りたいとのこと。



「コノヨウナ……呪ワレタ姿二成リ果テテハ、明確ナ敵ノ存在ヲ証明シナイ事ニハ、カツテノ同胞達モ我ラヲ信用デキヌダロウテ……」


 ヨトゥンは自身のゾンビと化した肉体を嘆きつつも、希望を失くしてはいなかった。彼らの在り方を希望と表現するのは間違っているかもしれない。しかし、復讐に揺らぐ仄暗い炎が、その身と魂を焦がす事はあっても、絶望に濡れぬのならばマシと言えるのかもしれない。



「俺も力になれそうなら、協力するから。こっちは行き方について調べてみるから……元気出して?」


 大樹の純巨人(ピュア・ギガント)人間(おれ)

 両者の膨大な体躯の差も、ヨトゥンのしょぼくれようを間近で見ていれば、自然とそんな距離感は消失してしまう。


「慈悲深イ……我ラガ故郷ヲ見ツケ、共感シテクレタダケデナク……」


 そう言って、ヨトゥンは不意に壁を殴りつけた。

 突然の蛮行に驚きつつも、敵意は感じられなかったので警戒はしなかった。

 ガラガラと白亜の石が崩れるのを、へたり込むオカマと無言で眺めていく。


()マワシキ元(アルジ)サマノ、リッチー・デイモンドノ資料室ダ……太陽ヲ司ル天使殿ノ役ニ少シデモ立テバ良イノダガ……」



 ガラガラと崩れていった壁の向こうには、確かに資料室らしき空間が広がっていた。

 古びた書架が何個も並び、何に使うか不明な錬金キットの山、そしてビーカーやフラスコ、様々な容器に詰められた素材群。

 


「師匠の遺産……」



 めっちゃ宝庫だった。


 ついでに瓦礫も貴重な『月光石』だったので大量に採取しておく事を忘れない。そういえば、この神殿って『幻想郷(ファンタズマ)』にある『月光石』を積み重ねて建築されたっぽいんだよなーと思いながら、いざ資料室に足を踏み入れてみると――――


 錬金術に必要なアイテムがビッシリ貯め込んであった。



「こ、これは……月の疑似生命体(ホムンクルス)を作れるかもしれない!?」



陽精(フェイユ)を宿す種火入れ(ランタン)』の素材でもある、『生命を灯す種火入れ(ランタン)』や『天翼人(クロラ)の血』、『幼子の肉』などがたくさん保管されているだけでなく……『月に死す白金(しろがね)色』という初見の色も発見した。


 これは間違いなく、『月に(ルナ)焦がれる偽魂(ホムンクルス)』の素材になりうる可能性を秘めている。


「こ、これは……!?」


 乱雑に捨てられるように、放置されていた装備まであった。やばい、やばいぞと内心で何度も叫びながら、どんどん(ふところ)に収めていく。

 

「天使ちゅわん、あの扉は何かしらねぇン」


 そして更に、資料室の奥にはひっそりとたたずむ扉があった。何かの光る紋章が刻まれたその扉は、何をしても開かなかったけど、これはまだまだ秘密がありそうだ。


 よし、ここには定期的に来るとしよう。



 いろんな素材をくすね、師匠の資料室を出た俺は、ヨトゥンに別れの挨拶を交わし、半分腰を抜かしたジョージを伴ってミケランジェロへの帰途に着いた。



 ちなみに去り際にヨトゥンを『名声』スキルで観察したところ……関係性が『崇拝』から『神格化』へと変わっていた。


 ……故郷の場所を教えたからかな?



 なんだか、どんどん過度な評価をされている気がして怖くなったりもするけど、今のところ悪い関係ではないのだから、ネガティブになる必要はないと自分に言い聞かせておく。




「天使ちゅわん……あちきは疲れたわぁん……」


「俺もだよ。いろんな発見があって嬉しかったけど、興奮しすぎて疲れちゃったかも」


 

 そうして『輝剣屋スキル☆ジョージ』にて、オカマと二人でホッと一息ついていると、フレンドチャットが飛んできた。



『……刀、できたぞ……』



 それは『千年鍛冶の大老侯』、マサムネさんからの朗報だった。



ブクマ、評価よろしくお願いします。

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