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153話 錬金術士のプライド


「それで、おまえさんのメインスキルは?」


 工房の奥へと案内がてら、ゲンクロウさんは俺に背中を向けたまま問い掛けてきた。彼はどうやらこの工房内では三本の指に入る名工らしく、若いながらも大活躍をしているようだ。

 

 武器職人とあれば、依頼人が戦闘中に主流で使うスキルを把握するのは当たり前だろう。それぞれの傭兵(プレイヤー)に一番合った武器を作るために欠かせない確認作業。それを最初に聞いてくるあたり、多くの傭兵(プレイヤー)の武器を作ってきた工房なのだと(うかが)えた。



「メインスキルは、錬金術です」


「なんだと?」


 ゲンクロウさんは振り向き、その足を止めた。

 俺を囲むように付いて来ている徒弟(とてい)らしき傭兵(プレイヤー)たちも、その動きに合わせて歩みを止める。

 みな一様に激しい表情をし始めた。



「ふざけているのか? ここは、『()打ち(びと)』だぞ」


 ゲンクロウさんは、少しだけ不機嫌そうに言い放つ。口には直接出さないけれど、錬金術に対しての侮蔑(ぶべつ)が込められている事を理解した。そんなゴミスキルを扱う傭兵(プレイヤー)が、天下の鍛冶傭兵団(クラン)()打ち(びと)』に何の用だと。

 徒弟たちもその意見に、賛同するように(うなず)いている。



「大真面目です。できたら、武器生成の見学などもさせていただきたいなと思っています。錬金術と鍛冶は相性が良いかもしれないと、ジョージが言ってましたので」


 俺は周りの鋭い空気を何とかスルーして、堂々と言い放っておく。

 錬金術に卑下すべき点など何一つないと。



「おいおい、ゲンクロウさん。これは俺たちも黙ってられないんだが」

「お嬢ちゃんみたいなのが鍛冶? 使い物にならない道楽主義者の錬金術使いが、俺達の鍛冶を見に来ただと?」


「鍛冶をバカにしてんのか」

「道楽に付き合うために、俺達の鍛冶スキルを……技術と研鑚の積み重ねで、創り上げてきた集大成をおいそれと見せるわけにはいかない」


「アンタは……鉄を知ってるのか? 鉄の熱さを、堅さを……」


 口々に徒弟たちが険呑な口調で、敵対心むき出しな言葉を浴びせてくる。


「「「鉄の、美しさを知ってるのか?」」」


 徒弟たちの文句がひとしきり止んだ後、ゲンクロウさんはフンっと鼻を鳴らして言った。



「まぁそんな感じだな。錬金術は鉄を(きん)に変えると夢物語る。そんなのは鉄を知らないバカが言う事だと、こいつらは言いたいらしいな」


 そんなアホに見せるモノはないと。

 そう一拍おいて、この工房の三番手は溜息をついた。


「バカにするのも程ほどにしておけよ。さもないと帰ってもらうぞ」



 俺はその言葉にカチンときた。

 バカにしているのはどっちだろうか。

 まだ俺の話も全部聞かず、ただ錬金術と言っただけでこの扱いは酷いと思う。ましてや、ジョージという仲介人を通して紹介してもらっているのだから、こんな態度は仲介役であるジョージの顔に泥を塗るような行為ではないのだろうか。

 

「キミ達はそうだね。鉄だ……鉄が相手なんだろうな」


 今まで敬語で接していたが、この人達に畏まる必要などない。



「キミら鍛冶師たちが鉄や鉱石、金属を相手にしているというのなら……錬金術士は万物を相手にしている!」


 頭一つ、二つ、三つも上背のある男衆をジロリとねめつけるように見回し、ゆっくりと笑みを深める。

 

「それのどこが(おと)っていると? (すぐ)れている点はあれど、劣っていると言われる筋合いはないのだけど」


 そしてハッキリと宣言する。

 挑発的に。


「ガキのくせに調子にっ!」


 徒弟の一人が(わめ)き立てるが、無理矢理その声に言葉を(かぶ)せる。



「それに話は最後まで聞くべきでしょ。仮にも俺は仲介人がいる、一応はお客なわけだよね?」


 ちぃっと不貞腐れる徒弟衆。


「鉄を鍛えるのは、せっかちでもできるのか。イメージでは忍耐力とか、たくさんの大事なモノが必要で、もっと崇高なモノかと思っていたけど。キミたちの態度そのものが、鍛冶の価値を低めてるって気付けよ」


 嫌味を言われた徒弟たちは、顔を引くつかせながらも言い返してくる事はなかった。


「それに、誰も無償で(・・・)武器鍛冶の貴重な行程を見させてくれなんて、言ってないし」


 そうして俺は、陽の光から集束させた金属をチラリと見せた。

 


尊き地平の黄金(プライド・ブロンド)【延べ棒】【中】』×2

【あまねく存在を照らす黄金(たいよう)が、地平へと落ちる瞬間にだけ見せる(やわ)らかな光。それらを魔鏡によって集束された延べ棒。『インク』と合成すると塗料として使用できる。また、このままでも武具の素材となる金属として扱える。誰よりも天高くおわしめす黄金(たいよう)の、尊厳さを(つかさど)る金属であり、その()り方は時に寛容(かんよう)柔軟(じゅうなん)性に富んでいる】



 結局、『湖都(こと)に沈む草原』での夕日採取では『朽ちゆく紅色(ロット・スカーレット)【延べ棒】』を手に入れる事はできなかった。『浅き夢見し墓場』からあの金属を抽出した事からも、夕日に関しては光を吸収する場所によって、生成できる延べ棒が変わるとわかった。



「こ、これは…………」

「見た事もない金属だ……」


(ゴールド)か? いや、しかし、このクリームのような薄い白みを帯びた感じは……」

白金(プラチナ)にしては、黄が濃過ぎるな……」


「しかも、なんだ……淡く輝いてないか?」

「光を放つ金属なんて初耳だぞ。宝石の類でもなさそうだし」


「間違いなく、武具の素材になりえるぞ! ゲンクロウさん、これは?」

「わからない……未知の金属素材だ……」



 さてさて、この金属を見せた結果だけど、徒弟たちやゲンクロウさんの態度は豹変していた。

 もっと詳しく見せてくれ、と声が聞こえてきそうな程に身を乗り出し、凝視している。俺はそれを完全に無視して『尊き地平の黄金(プライド・ブロンド)【延べ棒】』をアイテムストレージにしまう。



「あぁ、ちなみにこの金属は、錬金術で作った金属だから」


 お前らがコケにした錬金術が、今、まさにお前らを魅了する金属を生成したんだぞ。そう暗に伝えると、一同は黙って、親方の待つ場所まで案内してくれた。



 これから交渉する相手なのに、やり過ぎたと少しだけ反省する。

 だけどやっぱり錬金術をバカにされるのも、ジョージの顔を潰すのも許容できなかったのだ。






刀に関するたくさんのご感想ありがとうございます。

大変参考になっております。


ただ、あくまで『ゲームの刀』の話ですので

大目に見てあげてください。

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