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151話 刃を求めて


「刀術か……」


 俺は手に入れた輝剣(アーツ)を見つめ、独りごちる。


(とう)(じゅつ)

【武器、(かたな)系統全ての基盤となるスキル。素早い剣技で相手を翻弄(ほんろう)する】


 ふむふむ。全ての基礎となる、という事は……。

 錬金術に魔導錬金という派生スキルがあったように、この『刀術』から派生するスキルが存在しそうだ。そして、スピード系なアビリティが取得できそうで、これは俺になかなか合っているスキルかもしれない。


 正直、嬉しい。

 カタナ! 刀ってかっこいいと思う。

 錬金術には負けるけど、やっぱり日本男児として刀という武器には一種の憧れのようなモノを抱いていたりもして。

 とても、とても嬉しい。

 嬉しいのだけど!


 肝心の刀術を振るうための、刀系統の武器を消失した俺にはこのスキルを利用する手段がない……。


 どうにかならないものか。

 姉に小太刀(こたち)(いさ)めの(よい)】の入手場所を聞くか、でもあげたものを壊したなんて知ったら……怒られそうだし……。


「はぁ……」


 ちょっぴり切ない気持ちに同意してくれているように、クラン・クランの世界の空が茜色に染まっていく。



「夕焼けか……ついでに『妖しい魔鏡』で、色でも採取しておこうかな」


 前に夕日を鏡で集束させた時は【朽ちゆく紅色(ロット・スカーレット):延べ棒】という金属が取れて、5000エソという高額で売れたから、稼いでおこう。『賞金首と競売(ウォンテッド)』で小太刀が取引きされていたら、武器を買うお金の足しにするべし!


「それと……やっぱりスキル関係の相談ってなると……」


 スキルのプロフェッショナルでもあり、輝剣(アーツ)を生成して販売しているジョージに、刀術スキルについての相談をすることに決める。


「そもそも輝剣(アーツ)を自力で傭兵(プレイヤー)が作れちゃうって……装飾スキル持ちの職人からしたら痛手じゃないのか?」


 自分達で作成し売りだすはずの商品が、武器が壊れただけで手に入ってしまうのだから。

 輝剣(アーツ)の商品価値が下がるのではないだろうか。




「て、て、天使、ちゅわん……この、スキルを、ど、どこでぇん?」


 ジョージは俺が『(とう)術』の輝剣(アーツ)を見せた途端、全身を小刻みに震わしながら、よたよたと後ろへと下がって行った。

 いつもの口をポカーンと開けて、のどちんこがコンニチワではなかった。

 新しい驚き方だ。


 そのままジョージは俺から距離を開け、スッとお店のドアを閉めてクローズの掛け看板を設置。さらに素早い動きで、ガラス窓全てにシャッターを下ろした。

 

「あちきとしたことがぁん……動揺しちゃったわぁん……これじゃぁ、ダメね」


 もりもりとアフロを(さわ)り、黒光りする自分の顔をなでるオカマ。

 どうでもいいけど、ジョージって落ち着こうとするといつもアフロをいじるよな。あのマリモが精神安定剤になっているのかな。



「まず入手方法を聞く前に、天使ちゅわんからの情報であちきが得られる利益の半分を天使ちゅわんに譲渡するわぁん。これでいいかしらん?」


「いや、俺は利益とか別に」


「ダメよぉん。パートナーとはいえ、この辺はキッチリしておかないとねぇん」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 対等に扱ってくれる事には素直に嬉しかったので、ジョージの切り出した交渉に乗り、俺は刀術を入手した経緯を話していく。



「そぉんねぇん……やっぱりぃん、武器が壊れての生成だったのねぇん……」


 オカマは俺の話を聞き終えた後、神妙な顔で唸った。


 ジョージの説明(いわ)く、スキルの習得方法は主に二つ。

 まずは輝剣(アーツ)の使用。

 次に武器スキルに関してのみ、一定時間、その武器を使い続けると自然にその武器に関するスキルを習得できるというモノ。

 つまり片手剣を振るい続ければ、自然と『片手剣』というスキルがスキル欄に浮かびあがるという。どれぐらい使えばいいのかは武器によって異なり、その基準は明らかになっていない。


 これが一般的なスキルの取得方法。

 それから更に一段階レアで強力なスキルの取得方法となると、一定のスキルLvを上げて使いこむと発生する、派生スキルだ。錬金術でいう所の魔導錬金がコレに相当する。


「武器が壊れた途端、輝剣(アーツ)が生成できたって話はいくつか耳にしているわぁん。どれもかなり秘匿されている情報なのだけどねぇん」


 そして最後が、今回俺が体験した『武器が壊れた時、輝剣(アーツ)化できる』という現象だ。さすがスキルを専門としているだけあって、ジョージは【愛用度】の存在を認知していた。


「刀術スキル……条件が知力300以上って、それじゃあ誰も輝剣(アーツ)を生成できないわけだわぁん……そもそもぉん、小太刀なんて使ってる変わり種なんてぇん、天使ちゅわん以外に見かけた事ないものねぇん」


「需要の低い武器で、愛用度を貯めて、武器を壊す。そんな物好きな奴なんて、いないもんな」


「あちきの目の前にはいたけどねぇん」



 わざと武器を破壊して輝剣(アーツ)を生成できるかどうか、いちいち試すのもリスクが高すぎる。武器もタダではないのだ。

 その点も踏まえて、輝剣(アーツ)屋が食いっぱぐれる要素は低い。

 俺の心配は杞憂に終わったようだ。



「で、天使ちゅわんはそのスキルどぉするのぉん? 使うの? あちきのお店で売却? 売るなら利益は100%天使ちゅわんのモノにするわぁん。次回からはあちきが売値の1%ほど程いただくって形で、約束を結びたいのだけどぉん」


「売るとしたら、いくらぐらいになるの?」


「どれだけ強いスキルかわからないけどぉん、希少性を考慮して50万エソはくだらないわねぇん」


「ごじゅっ!?」


 そんな大金、出す傭兵(プレイヤー)なんているのか!?

 とんでもない金額に驚き、思わず喉をゴクリと鳴らしてしまう。


「うーん……50万エソ、か……」


 でもやっぱり、このスキルは自分で使ってみたいという思いが強い。

 となると、まずは武器が必要になるわけで。



(かたな)系統の武器ってあるの?」


「今の所は傭兵(プレイヤー)が扱える物は発見されてない、と思われてるわぁん。まさか天使ちゅわんが使ってた小太刀がねぇん……」


「他にもあるかもしれない、か」


「それもそうねぇん」


 刀スキルを使用するとしたら、やっぱり小太刀【諌めの宵】を買うか、入手しなおすしかないようだ。



「刀を作れる人とか、いないもんね?」


 ダメ元でジョージに確認してみる。


「んん~、う~ん……いるかもしれないわねぇん」


 なんですと!?


「やだんっ、天使ちゅわんったら、そんな熱い目であちきを見ないでぇん♪ こっちまでホットな気分になっちゃうわぁん!」


 自分を自分で抱くオカマを見て、俺は全力で冷えた視線を送っておいた。


「あちきがぁん♪ いい鍛冶職人を紹介するわぁん」


「え、いいの?」


 そんなステキな台詞がオカマから発せられ、俺の熱は再び燃え上がる。


「内容が内容だしぃん、大切な天使ちゅわんの事案だからぁん、あちきも全力だわぁん!」


「ジョージ、ありがとう!」


「いいぇん! 刀術スキルに関する、とぉーっても貴重な情報を信用して教えてくれたんだものぉん! コレぐらい当たり前よん! 今のあちきが紹介できる、最高の大物を紹介するわよぉん♪」


 おおう。

 大物とかちょっと緊張するな。

 でも職人で有名って事はそれなりの武器を手に入れる事ができるかもしれないってわけで、俺は期待の眼差しをジョージへ向ける。



「『千年鍛冶の大老侯』よぉん」


 おおう?

 どこかで聞いたような称号だな。

 誰から聞いたっけ?


「あのナイスミドルが刀を作れるかわからないけどぉん、間違いなく今のクラン・クラン内では一番、いい武器を作れる傭兵(プレイヤー)よぉん」


 一流の装飾職人であるジョージが言うのだから、腕は間違いないのだろう。それに『千年鍛冶の大老侯』なんて大層な名で呼ばれているわけだし。



「す、すごい……一番なのか。そんな人が俺なんかを相手にしてくれるのか?」


「あの金属バカにわぁん、ほらぁ、天使ちゅわんが鏡? から作ってた金の延べ棒あったでしょん? あのへんをちらつかせて、自慢してあげればぁん、何でも教えてくれると思うわぁん」


 た・だ・し! とオカマは俺との距離を詰める。

 俺は同じ歩数、後方に下がっておく。


「天使ちゅわんが生み出した金属、製造方法は秘密にしなさいな」

「お、おう」



 そうして俺はクラン・クラン内で頂点と噂される、鍛冶傭兵団(クラン)の工房へと足を運ぶ事になった。


 刀を求めて。




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挿絵(By みてみん)

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