150話 いいえ、刀です
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思ったより、いとも簡単に地面から抜けた『石剣』。
元が精霊であった……聖剣ならぬ精霊剣、精剣の類であるソレを、勇者を気取るように天へと掲げ眺める。
「ん、普通の剣だ……うわっ!?」
突如として、『知恵ある森の石剣』が物凄い勢いで俺の手から離れた。
「な、なんだ!?」
矢のように素早い動きで空中へと飛び立ち、反転してその切っ先を俺へと定め、猛進してきた。
これは、まずい。
戦闘になる事を望んではいたものの、知力が高いから大丈夫だと驕っていたツケがここに出てしまった。
このスピード、そして不意を突かれた完璧なタイミング。
避ける事は不可能だと瞬時に悟る。
ならば――
決定的な遅れを巻き返すべく、すぐ目の前まで飛来して来た『石剣』を一睨みして意識を戦闘モードに切り替える。
装備である『銀狐の尾』による固有アビリティ『尻尾の悪戯』を発動。
瞬間、石剣は大量に発生した銀色の毛と衝突していく。
「危なかった……」
『尻尾の悪戯』というアビリティは、尻尾が迫りくる攻撃と同等の大きさに肥大化し、物理攻撃ダメージ600以下のみ防ぐことができる。ミナがもっている『金狐の尻尾』の方は魔法攻撃ダメージ600以下を無効だ。
けっこうなチートアビリティだと感じた半面、リキャストタイム、再度このアビリティを使えるようになるまで20分もある弱みを持つ。リリィさんの弓矢をことごとく防いでいた銀狐のように、連発はできない。さすがに妖狐族でもなければ、尻尾のレベル? もまだまだだろうし、今後あんな風になれたらいいなと期待を込めつつも、『石剣』の一突きをかろうじて防いだ。針のように硬質化したと見間違うほどの勢いで、バサッと尻尾の毛が伸び、剣撃を弾いてくれたのだ。
しかし、『石剣』の次なる一撃は迅速だ。
間髪いれずに連撃を叩き込んでくる。
あわやという所で、身を地面に転がしてかわす。
その瞬間、さっきまで俺がいた地面は陥没し、いくつもの土塊が宙を舞う。
そんな破壊力を目の当たりにして、一撃でも受けたらヤバいと判断する。
風乙女のフゥを召喚する間も与えられず、次々と攻撃を加えてくる『知恵ある森の石剣』に俺は防戦一方どころか、逃げ惑うことしかできない。
予想以上に強敵だ。
それでも俺は諦めず、身をかわしながら『溶ける水』を隙あらばまき散らし、その度にジュッと溶けるたような音を発する『石剣』を見て、効いていると確信する。
そんな攻防が5分以上続いた頃。
そろそろ俺の集中力も切れかけていた。
剣先を揺らし、時々フェイクを仕掛けてくる『石剣』の攻撃を避け続けるにも無理があった。
「ぐっ」
ついに『石剣』が俺を捉え、その長い剣身が上半身へと叩き込まれる。
直撃は危険、そう判断した俺は、咄嗟に右手から小太刀『諌めの宵』を抜き放ち、その攻撃に合わせて横薙ぎに刃を当てる。
金属がぶつかり合うギャリッっと嫌な音が響き、それでも敵の攻撃の勢いは殺せず、無様に地面を転がりながら吹き飛ばされる。
HPは90から一気に5へと激減してしまった。
しかし、タダ攻撃を受けただけでは終わらない。『石剣』との距離が開いたという事は、それだけコチラが攻撃を重ねるチャンスが生じたという事だ。
『石剣』に距離を詰められる前に、俺は手持ちの『溶ける水』を惜しみなく使う。すると『石剣』は、ついに酸に負けたのか、白い煙を上げてその動きを止め、ストンと地面に突き刺さった。
:『知恵ある森の石剣』を討伐しました:
:写真に『堅き意志の灰色』が宿りました:
「つ、強かった」
素材採取はこの辺できりを付け、そろそろジョージの店で色の抽出がてら、アビリティ『塵化』を色々試すとするか。
精神的に消耗した俺はミケランジェロへ帰ろうとする。
そんな俺に、無情なログが流れた。
:小太刀【諌めの宵】の耐久値が0になりました:
「ん? ちょっと待って……」
嫌な予感がする。
:小太刀【諌めの宵】は武器破壊により、消滅します:
ログの内容に、俺は焦って小太刀を両手で持つ。
必要ステータスが力1の割に、そこそこ攻撃力のあった俺の相棒は、光の粒子となり消えようとしていた。
「マジか……」
姉から譲り受けた武器が、ゲームを開始した初日からずっと使い続けた俺の唯一の近接武器が、崩壊するだって?
いや、確かに武器の耐久値がゼロになると消滅するとは聞いていたけど、そこまで耐久値は下がっていなかったはずだし、『石剣』の一撃を受けたぐらいでコレはシビアすぎる判定じゃ……と、そこまで思考して気付く。
試しに『塵化』を小太刀に発動していたのを忘れていた。耐久値を下げたまま、採取に来てしまっていたのだ。
修理しておくのをうっかり忘れていたのだ……。
「って、あれ?」
:愛用度が100を満たしています:
:使用者の知力が300以上という条件も満たしています:
:小太刀【諌めの宵】を輝剣化させることが出来ます:
:実行しますか?:
「なん、だって!?」
輝剣。それはスキルを習得するためのアイテム。
武器を輝剣化できるなんて初耳だ。
愛用度……? そんな数値、武器のどこにも表示されていないけど、隠し要素って事か? この数値名から察するに、一定期間使い続けると上昇する項目なのかもしれない。そして流れたログから判断するに、武器が壊れた時に輝剣化が可能になると。ただし、愛用度100以上が条件なんだろう。
俺は迷わずに『輝剣化』をタップ。
すると、ジョージの店頭に陳列されている『輝剣』同様に、水晶に突き刺さった短剣が具現化した。
そして、その輝剣のスキル名は――
『刀術』だった。
一般に、刀スキルを保持している傭兵は未だに見つかっていません。
木刀などは『両手剣』スキル。
小太刀などは『短剣』スキル、と判断されている節があります。
エルフの武志が出現するまでは『刀スキル』はないものだと思われてました。
『刀』スキルがあるかもと期待はしても、木刀や小太刀は知力ステータスが必要という装備条件や、攻撃力の低さから装備する者は皆無に等しい状況です。