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141話 告白


 というわけで、戻ってきました毎度おなじみ『輝剣屋スキル☆ジョージ』。


 新たな場所の発見と、報告&打ち上げ会を兼ねて、姉やジョージたち、アンノウンさんなどと情報交換をするためだ。


「報告、御苦労だったな。事前に『百騎夜行』の面々から連絡が入っていたから、スムーズに理解できた。現状は特に問題なさそうだけれど、この隠しエリア『天守(ろう)』は内密にしておこう」


 姉であるシンの締めくくりを以って、会議はお開きとなり、それからは各々が自由に雑談へと花を開かせていく。



「そそるでありんす……そのデザイン性、犬耳や猫耳など応用せしめるには如何(いか)に……」


 アンノウンさんはミナと俺の姿を目にして、興味津々のようだ。やはり裁縫職人として、装備を作る身の上、作成過程が気になるようだ。

 しかし、これは裁縫でどうこうできる代物ではないような気がする。毛だし。


「古きより、人間(ヒト)は動物の毛皮などを服飾に活用してきたでありんす。できない事はないでありんすよ」


「あらぁん? だったらぁん、アンちゃぁん! あちきには犬耳尻尾をつくってよぉん♪」


 それだけはやめてくれ、ジョージ。

 というかマリモみたいなアフロ頭じゃ、けもみみなんて埋もれるのがオチじゃないのか?



「ねね、タロちゃん。油揚げ食べよ?」

「あっ、私も使うです」


 おっと、せっかく手に入れた『スキル祝福(ギフト)油揚(あぶらあ)げ』を使用するのを忘れていた。

 さっそくトワさんとミナと一緒に活用してみる。



祝福(ギフト)によりスキル解放が行われました:

:どのスキルにポイントを振りますか? 習得済みの中から一つ、選んでください:

 

 そんなログが流れ、首をかしげる。


「あれ? これって、スキルポイントが3ポイント手に入るって書いてあるのに、一つのスキルにしか振れないみたい?」


 俺の疑問を代弁するようにトワさんが呟く。


「専用スキルポイントってやつか」

「うん? 3つもポイントがもらえるんだから、どちらにしろ、いいアイテムだね?」


 そんな俺達のやり取りに晃夜(こうや)夕輝(ゆうき)も入ってくる。



「ま、俺はどのみち『錬金術』一択だけどな」


「ムチスキルとモンスター調停士(テイマー)で迷うなぁ」


「わたしは、どの魔法スキルにしましょうか」


 そんなこんなで、それぞれがポイントを振っていく。

 俺に限ってはスキルポイントにけっこうな余裕があるので、錬金術以外でもいいかなと思ったけど、やはり本命に注ぎ込んでおいた。


:錬金術スキルがLv33に上昇しました:

:アビリティ『塵化(じんか)』を習得しました:

特殊派生(エクストラ)スキル『魔導錬金』を習得しました:


 ん!?

 塵化と……魔導錬金!?


 俺はログを最後まで見る間も惜しんで、スキル欄から説明文に目を流す。



 アビリティ『塵化(じんか)

【素材を分解することができる → 細分化・粉化・液化など】

【錬金キット『フラスコ・ビーカー・和紙』のいずれかが必要】

【消費MP10 (錬金キットを使用すれば消費MPは半減する)】


【真の錬金術士はあらゆる物体を(ちり)と化しても、万物創生に活かすであろう】



 これは……素晴らしいアビリティだ……。

 より細かい素材を発生させ、より高度な錬金ができるようになるという事か? しかも従来の素材に選択肢、いわば新しい素材の抽出が可能になるわけだ!?

 ん、錬金キットを使用すればMPが半減、ということは使わなくても発動できる場合もあるって事か?


 その答えはすぐに出た。

 特殊派生(エクストラ)スキルの『魔導錬金』だ。



スキル『魔導錬金』Lv1

【特定の錬金術アビリティを発動する時、MPを消費して錬金キットなしで発動する事ができる】


【智を極めし者にのみ、その形状の意味が、創造される物の真を理解できる】



スキル『魔導錬金』Lv1

アビリティ『叡智の集結ルービック・アーキテクト・タイプ四角形(キューブ)


【MPを消費して、その場で錬金キットなしで『合成』と『塵化』の錬金術アビリティを発動できる。生成したアイテムの容体は四角形(キューブ)だが、解除してアイテム本来の見た目に戻すこともできる】


 

 こ、これは……戦闘中でも素材さえあれば、アイテムが生成できるという夢の錬金術ではないか!


 しかも、しかもだ……四角形(キューブ)

 ルービックって事はあの、カシャカシャっと模様や色をそろえるキューブって事か!?


 いてもたってもいられなくなったのでさっそく、発動してみる。



「お、タロッ!? なんだそれ」

「なになに? またうちの錬金術士殿が何かやらかす感じ?」


 親友たちが傍に寄って来て俺の様子を観察し始めるが、気にしない。


 右手をそっと前に出し掌を広げると、その上に黒に近いグレーの無機質な立方体が出現した。大きさは手のひらサイズ。宙に浮かび、非常にゆっくりと回っている。



:素材を選んでください:


 ログに従い、アイテムストレージから『浄化水』と『スライムの核』を選択するように念じる。



 すると、キューブの一面が四つに割れたかと思えば、緑と青の色に識別されていく。同時にMPが10消費されたが、今の俺はお狐装備のMPブーストで、けっこうなMP保有量になっているから、あまり気にならない量だ。



:それぞれの面の色を、一色に統一するようキューブを完成させてください:



 ん、やはりか……。

 錬金キットなしで『合成』がその場で出来る分、そんな簡単には行かないって訳か。


 俺は無言でキューブを見つめ、それぞれの面を睨む。

 どうやら指向性機能がついているのか、俺の思った通りに面が動き、カシャカシャと立方体は色の組み替えを行っていく。

 

「あらぁん、天使ちゅわんはまた不思議な事を始めたわねぇン」


 傍から見たら、右手で謎の四角い物体を浮かばせ、自動でカシャカシャ動かしているように見えるのだろう。


 しばらくして、キューブの面を全て同じ色にそろえる事ができた。



:キューブが完成しました:

:『翡翠(エメラル)ポーション・四角形(キューブ)』が完成しました:



 薄い緑色の光を帯びた四角形。

 俺はそれを掌の上に浮かべたまま、夕輝(ゆうき)に尋ねてみる。


「これ、何に見える?」


「え? なんだろ、綺麗なキューブ?」


 ふっ。

 これは、なかなかに面白い錬金術だ。


 俺が『解除』と念じると、四角形(キューブ)は本来の見た目である『翡翠ポーション』へと変化した。


「えっ、ポーションだったの?」

「そうだ」


 親友の驚き具合に、にやりと笑う。


 考察するに、まず素材の数が多い程、キューブのそろえなくてはいけない色の数と種類が増えるのだろう。今回は二種の素材だけだったから簡単に、それほど時間もかからずにできたが……戦闘と並行して発動するには、かなりの慣れが必要だろう。


 しかし、『合成』を錬金キットなしで実現できるのはかなりの強みになる。アイテム切れになった際、非常に役立つはずだ。

 しかも、生成するのは全てキューブ状なため、その外見から効果は計り知れない。創造した者だけが、発揮する効果を知りえる。これはアイテム効果を相手に悟らせることも防げるし、傭兵(プレイヤー)からしたら、奇妙なキューブは不気味に思えるかもしれない。PvPにおいてブラフやハッタリに有用だ。


 くくくくっ。

 素晴らしいぞ、このスキルは。

 

「フフフッ……」



 こうして俺はしばらく、この新しいスキルで遊び倒した。



 ◇


「あ、そういえば」


「ん?」


 いろんなデータを取り終えた俺の傍で、晃夜(こうや)夕輝(ゆうき)に話を振った。

 俺は何となく、その会話に耳を傾ける。


「明後日、学校の登校日だよな」

「あ、そっか。どうするの?」


 夕輝はチラリと俺を見る。それに続いて、晃夜も『どうするんだ?』と無言で語りかけてきた。



 ……。


 …………完璧に忘れていた。

 

 明後日は夏休みのうちに、一日だけある登校日だ。



「えーっと……お話中、悪いのだけど……ちょっと会話が聞こえちゃって」


 と、何故か遠慮がちに、二人の会話に入ってくるトワさん。

 なぜかヒソヒソ声だ。


 どうやら、二人以外に聞かれたくない内容を話そうとしているのかもしれない。


「学校のお話、してたよね?」


 トワさんが夕輝たちに確認をしている。


「ん、別に大丈夫だが」

「ああ、うん。実はボクたちリア友だから、ちょっと学校行事の話をね」


「あーえっとね」


 なぜか気まずそうなトワさん。


「なんだ?」

「トワさんもボクたちと同年代って雰囲気だよね」


 二人は少しだけ怪訝な顔になりつつも、トワさんが喋ろうとする先を促している。



「その、ね。えっと、二人は夕輝(ゆうき)くんと、晃夜(こうや)くんだよね?」


「おう!?」

「ええっと……」


 突然、ユウとコウの本名を言い当てた彼女に親友たちは驚く。

 当然、話の成り行きに聞き耳を立てていた俺も驚いた。


「言うのが遅れちゃってごめん! わたし、宮ノ内(みやのうち)(あかね)なのっ。クラスメイトの宮ノ内(みやのうち)(あかね)


「は?」

「え?」


「へっ!?」


 トワさんの正体が(あかね)ちゃんだって!?



「えとえと、二人がリアルモジュール? のままで、すっごくビックリして、確認していいのかわからなくて……」


 まごまごと早口で申し訳なさそうに喋り続けるトワさんは、俺達の様子に気付いていない。いや、違う意味で驚いてるのだろうと、勘違いしているのかもしれない。


「迷ってるうちに、こんな事に……もっと早く言うべきだったよね、ごめん。学校の話をしてたから、切りだすにはちょうどいいかなーなんて。訊太郎くんは、今はいないから、あとでちゃんとコッチでも言うつもりなのっ!」


 トワさん、が、茜ちゃん……?

 俺はふるふると震え、晃夜(こうや)夕輝(ゆうき)を見る。

 

 驚愕しつつも、無言を貫く親友たち。

 そして二人は慌てたように俺を見つめる。



『どうするよ、訊太郎?』


 眼鏡をクイクイしている晃夜。

 

『えーっと、これはボクたちどうすればいい?』


 珍しく頬がヒクつき、ひきつった笑みを張り付ける夕輝。


 俺たちは目だけ会話をするしかない。

 返す俺の言葉は……。



『ふ、普通に、そのまま、いったんオチます』



 動揺しきった、変な返答しかできなかった。 


 登校日まで後二日。

 さらに目の前にいるトワさんが、(あかね)ちゃんだと判明したこの事態に、俺は困惑と驚きで固まってしまう。


 狐耳なんか付けていながら、まさかトワさん……(あかね)ちゃんに化かされていたなんて。





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