140話 すれ違う想い
「クラン・クランって隠し要素? みたいのがあって、本当に冒険しているみたいだね」
強力なモンスターが闊歩する『呪火の大地』を、ビッグ・スライムの背に揺られながら安全に進む。狐巫女たちが住まう『天守楼』からの帰り道、トワさんがこのゲームについての感想を言ってくる。
ひとしきり三人で巫女服になってわちゃわちゃ騒いだ後、俺達はミケランジェロに戻るための帰路へと着いていた。
「俺も最初はビックリしっぱなしだった。楽しいでしょ?」
ぽよんっと揺れるスライムに乗りこなし、トワさんに同意する。
「うん!」
「私は……隠されてる事が多過ぎて、ちょっと分かり辛いです……」
後ろから付いてくるミナの声は少しだけ、くぐもっていた。
まぁ、ミナは小学生ぐらいだもんな。
ちょっとこのゲームは難しいと思う。
「隠されてる事かぁー……」
暮れなずむ空を見つめるトワさんの目が、ふと細められていく。
夕日に照らされたその横顔は、少しだけ寂しそうだった。
なんとなく気になってしまい、ちょこっと踏み込んだ質問をしてみた。
「何かあったの?」
そう尋ねると、トワさんは作り笑いだとわかるレベルの笑顔を浮かべる。
こちらに心配かけないようにと、気を張っているようにも見えた。
「えっとね、気になる人の知らない一部を見ちゃって……ちょっと落胆ってところかな?」
「あー、気になる人っていうのは……その、つまり、」
好きな異性って事かな?
「まぁ、うん。たぶん、好きかなって思える人?」
ストレートだな、この人。
「え! どんな人なのですか? トワさんの好きな方って!」
なぜか身を乗り出してまで、妙に食いつきのいいミナ。
唐突なガールズトークが勃発してしまったようだ。
「えっとね……いつも一生懸命な人かなぁ……正直って感じ? 誠実って言うのかな、よくわからないけど。でも、そんな人がね、私の知らない所で想像もしないような事をしてたり、してて……」
「その内容が、トワさんは嫌だったのですか?」
「うん……なんていうか、ちっちゃくて可愛い子が凄い好きらしくて? 追いかけてるみたいな……」
チラッと俺の方を見て、不意に目を逸らすトワさん。
そんな彼女に、ミナは神妙に何度も頷いていた。
「お父様が言ってました。そういう人は、子供の女の子を襲う怖い怪獣、ロリゴンだと……」
「ん……うん、ロリゴン? そうだねっ」
クスクスと笑うトワさん。
ロリコンか。まぁそうだな、好きな人がロリコンやショタコンだったらと思うと……茜ちゃんが少年を愛でる様子を想像して、ん、これはこれでいいんだが。将来、俺との息子に愛情を注ぎ、可愛がる茜ちゃんの姿とか、うーん最高ッッ!
って、は!?
なんてばかばかしい、けがらわしい想像をしてしまったんだ!
そもそも子供の前に結婚だし、その前に付き合えるかだし!
その前に……性別が……今の俺は……身体が女子だし……。
そう思うとユウジって、変化をもろともせずにブレない所は尊敬できるよな……。内容は褒められたもんじゃないけど、タダの美少女好きな変態なわけだし。でも、そういう他人にキモがられるリスクを冒してまで、自分の好きなモノを貫き通す姿勢は、見習うべきかもしれない。
今は女子の姿になってしまったからと言って、くよくよせず、茜ちゃんにこれまでと同じく、好きって気持ちをぶつけていきたい。
内心ではそう思えても、なかなか行動に移すのって難しい。
未だラインで連絡すら入れてないわけで……。
やっぱり拒絶されたときの事を思うと怖いしな。普通に高校生で、同性愛とかハードルが高い気がする。
「あとね……実は、その人に秘密で観察して、その、ロリゴンだって知ったの。勝手に悪い事をしちゃったなって」
おや、トワさんでもそんな大胆な行動を踏み出すことがあるのか。
これは相当に相手の人物が気になってるのだろうなぁ。
俺だって、茜ちゃんの知られざる秘密を、この目で見れる状況になったら迷いなく覗いてしまうだろう。
ここは無難にフォローを入れておくべきか。
「んー、でもやっぱり気になる人の事だったら、全てを知りたくなっちゃうからなぁ」
「あ、やっぱタロちゃんもわかる?」
「うんうん」
茜ちゃんの事なら何でも知りたいし。
それが例え、落胆するような内容だったとしても。
「あーぁー……タロちゃんが、私の好きな人だったら良かったのになぁ」
「ぶほっ」
何のためらいもなく、こっぱずかしい台詞を唐突に向けてくるトワさんに、俺は激しく動揺してしまう。
「だって、王子様みたいに助けにきてくれたし、色々教えてくれて。こんな初心者の私でも役に立ってるって励ましてくれて。今も、こうやってお話も聞いてくれて、優しくしてくれるし」
「は、は、はい……」
なんという、褒め尽くし。
これも女の子同士の成せる技なのだろうか。
確かにクラスの女子はやたら仲良さそうに互いの事を好きと言ったり、抱きつき合ったり、同性ならではのスキンシップに目を見張るモノがあったけど。
「もちろん、ミナちゃんも好きっ! とっても可愛いし、ほらちょっとタロちゃんの事で、拗ねてたでしょ?」
「もうっ、トワさんっ!」
ミナもなんだか自然な感じで、両頬を染めながらチラリとこっちを見てはトワさんとジャレている。
おおう、やはりそういう類のモノなんだな。
落ち着くんだ、俺。
今の俺の見た目を対象としてなら、よくある事なんだ。
別にトワさんにとっては特別な事じゃないんだ。
好きとか言われて動揺するな。いや、好きな人だったら良かったな、か。
ふぅ、危うく思いこみの激しい残念な男子になる所だったぜ。




