136話 天守におわす、お狐さま ★
「あー悪い……待たせたな」
「う……、油断も隙もない敵だったね」
戦利品について女子勢と雑談していると、ようやくダウンしていた夕輝と晃夜が復活した。
「お、おう?」
「ん……?」
二人が俺を凝視している。いや、正確には俺の頭に付いているであろう二つのフサフサに、視線が集中している。
「…………」
俺は一瞬だけ、本当に一瞬だけピクリと動きを止めたものの、奴らの視線を全てスルーする。
頬がチリチリと熱を帯びていくけど、隣でホカホカと俺の獣耳を眺めているミナの気持ちを考えると、ここは耐えるしかない。
親友たちが何かを言いたそうにしているのはわかった。
俺と同じくけもみみを付け、上機嫌で『天士さまー♪』と腕に絡んでいるミナを見て、どういった経緯でこうなったのかは察しているのだろう。
だけど、やはり夕輝たちは俺の狐耳姿を見て、何かに耐えるようにソワソワとしている。
そんな親友たちの態度に、俺は素知らぬフリを貫き通す。
「さ、さて……二人も起きたし、雲山を登ろうと思うんだけど? 二人の意見はどうだ?」
「え? あぁ、俺は構わないが」
「ん? ボクも先に進む事には賛同だね」
二人は未だに俺の頭の上にある耳を、不躾に眺めている。
見るな。おい、察してくれ。
と心中で何度も呟きながらも、無言で問い掛けてくる親友たちの目を無視しておく他ない。
「じゃあ、みんな。警戒して行こー……」
先の戦いで、状態異常のアビリティを使ってくる相手もいると認識できたわけだし、敵意のあるNPCがここには存在するとわかった事で、俺達は警戒度をぐんと上げて先に進む。
傾斜の激しい雲山を登り、いくつもの鳥居をくぐっていく。
「わたし、さっきの戦いでは何もできなかったなぁ……役に立てなくてごめんね……」
道中、不意にみんなへと謝罪気味な発言を漏らすトワさん。
「そんなことないよ。トワさんの称号がなければここに来れなかったし、ほら、レベルも上がったし、ステータスポイントやスキルポイントをふっていこ?」
親友達の耳に対する言及を避けるため、俺は進んでトワさんにスキルポイントの振り方や、レベルポイントの注意点を説明していく。
「う、うん……えっとスキルポイントはムチスキルに振ろうかな。タロちゃん、ありがとね」
「いえいえ。俺なんかゴミスキルって言われてる錬金術をがんばってるから。なんとなく、トワさんの気持ちわかるし。でも、トワさんの称号は本当に役立つから、ずるいよ」
「あはは、そうかな?」
チラリと晃夜を見れば、今にも獣耳への突っ込みをしたそうにウズウズしていた。あれは、うん、まずい。そう思った俺は、続けてトワさんに話を振り続ける。
「うんうん。ほら、スライムたちはなんて言ってるの?」
未だに付いて来ているスライムは全部で六匹。うち二匹は既にトワさんは触っている。
つまり、スライムたちの考えが読めるチャンスは残り4回ってことだ。
「ええと、待ってね。『お腹が空くの辞めさせて』って言ってるかな」
タフ・スライムは飢餓を司るスライムだったはず。その進化系のビッグ・スライムも同様だけど……トワさんを通じて把握できた言葉を検分するなら……。
ほら、夕輝たちも俺の頭ばっかり見てないで、考えろよ!
「ふむ? というと、この雲山にスライムたちが飢えてしまう原因でもあるのだろうか?」
「そうかもしれませんわね。タロさんとミナさんの耳では、何か聞き取る事ができないのかしら?」
おっと、リリィさん。
今、その話題は鬼門だぜ。
出しちゃいけない、触れちゃいけないデリケートな部分なんだぜ。
「い、い、いや、ミナは別に聞こえないよな?」
「はいです!」
元気いっぱいなミナ。
それに続き、ついに親友たちが動きだした。
「ところでタロ。おまえ、その頭についてるのって何だ?」
「もしかして、けもみみかな?」
二人は、笑いを堪える様にして尋ねてきた。
くっ……。
やっぱり突っ込んできたか。
奴らはこの獣耳が、女子たちの間でどういう扱いを受けているのかを分析し、イジっていい要素なのかどうか様子見をしていたに違いない。
さすがコミュ力高しな男子は違う……。しっかりと、女子勢を敵に回さないよう、地雷を避ける本能を生まれながら持っていると言う訳か。
「あ、あぁ……けもみみだ……」
「ずいぶん可愛いものを付けてるな」
「ふぅん、タロはそういうのが好きなのかな?」
ぐっ。そんなわけあるか!
外そうとすると悲しそうな顔をするミナを前に、誰がこの装備を外せるだろうか。
晃夜と夕輝の目は笑っている。
アレは絶対、面白がっているし俺の内心も理解してるのだろう。
けもみみを付けている少女を見る分には至福だけど、それが自分ってなるとやはり恥ずかしい。高校一年の男子としては複雑すぎる境地。
「はいっ! 天士さまと私のお揃いなのです!」
けもみみ女子を見るのは良いけど、付けるのでは話が違うんだよ、ミナ。
だが、無邪気に喜んでいるミナを前にそんな態度は表に出せない。
「あぁ、うん。ミナと一緒なのは嬉しいよ」
僅かに震えながら、辱めに耐える俺。そんな俺に、親友ふたりはニヤニヤしながら近付いてくる。
「よかったなぁ、てんしさま?」
「うんうん、似合ってるね。てんしさま?」
今にも吹きだしそうな顔でそんな事を言ってきた。
こいつら。
俺がこの姿を、クラスメイトに晒す恥ずかしさをわかってイジってきてるな。
「お前ら……さっきの戦いで、真っ先に居眠りこいたブタ野郎だよな?」
俺はむくれ、次いで二人を睨めつける。
「お、おう……すまん、調子にのった。その、お前の獣耳姿がな、良い感じだったからよ」
「ごめんって、あまりにも似合ってたから、ついね? 気にする事ないのに、チラチラと顔を真っ赤にしてこっちを何度も見られたら、ソレはイジりたくもなるよ」
ククッと笑いつつ、親友ふたりは即座に降参したと謝ってくる。
「んー、タロちゃんは何で不機嫌な顔してるの? せっかく可愛い耳装備を付けてるんだから、ニコって笑ってごらん?」
「ひゃいっ、ト、トワさんんッ!?」
急にトワさんが俺のけもみみ部分をなでなでし始める。
「ん~、やっぱり見た目通り、ふかふかサラサラできもちい」
何故か耳を触られると、非常におもかゆいというか、足の裏をかかれている感覚が生じた。なんだ、この敏感耳は!
ぐっ、アビリティ感知力も高ければ、触覚機能も優れているとでも!?
そしてなんだ、この、次第に眠気を誘うような心地よさは……。
「うっ、ちょっと、トワさん、くすぐったいよ」
「んー何かな何かな? ここがいいのかニャー?」
やばい、ふにゃあになりそうだ。
何なのだ、この感覚は。
「トワさん、天士さまが嫌がってます! やめてください! それにニャーではなく、お狐で、ふにゃっ!?」
「はいはい、ミナちゃんもなでなでしてあげますよー」
「ト、トワひゃん、耳はダメですっ」
そして俺とミナは、トワさんにあえなく降参したのだった。
◇
「やっと着いたね」
「早い話、ここが頂上か」
警戒してた割には誰とも遭遇することなく、雲山のてっぺんに着いた俺達。
いや、あまり警戒をしてたとは言えない惨状だったけど。アレはなかった事にしよう、うん。
「何かしら、あれは……」
リリィさんが言ってるのは、目の前にある巨木と雲が螺旋状に絡み合って上に伸びている建物らしきモノ。ここからの高さにしておよそ30メートル以上はくだらない。
そんな超が付く程の巨木は、どうやらこの雲山の下から生えているようで、蔓が絡まるように白雲と融合している。
「ねね、あれって雲に見えるけど、なんだかフサフサしてない?」
トワさんの指摘に目を凝らせば、確かに雲に見えた白い部分は、毛のように僅かに風になびいていた。
「ん? 誰か降りてくるな……」
「うわぁ、もしかしてボスかな」
シュルシュルと白い毛の部分だけをつたって、巨木の周りをクルクル回るように、ゆっくりと何者かが降りてきている。
その容貌は白髪の若い巫女。
袴も純白、たなびく長髪も白雪のように儚い。
そしてやはり、頭部には獣耳。
だけども、先程の金髪銀髪の双子少女とは違い、こちらは成人してそうな女性の姿だった。
彼女は静かにこちらまで近づいてくる。
そして、やや切れ長の瞳をうっすらと開け、こちらを値踏みするような目付きで俺達を睥睨した。
「おやおや、此処にお客人とは珍しき事なり」
白髪の獣耳巫女はバサリと尻尾を揺らす。よく見れば、その白色尾は二股に分かたれている、いや二本あった。
「先程はうちの、金狐と銀弧の一尾たちが、お世話になったり」
口調や身に纏う雰囲気は至って穏健だ。だけど、その鋭い目だけは決して笑ってはいない。
「空羅刹さまの神徒として、挨拶に来たなり。ようこそ、二尾の寺閣『天守楼』へ」
どうやら彼女が、ここを取り仕切っているNPCのようだ。
佐藤賀月さまに、タロの狐耳イラストを描いて頂きました。
とってもとっても可愛いのです。
友人とはいえ、
急な依頼でしたのに、対応してくださり誠に感謝しております。
ありがとうございます。




