134話 堕ちた大地
「『同調者』って称号? っていうのかな。良く分からないんだけど……この効果で、モンスターの考え? えぇと、接触したモンスターの思考を1回限り、読み取るって書いてあったみたい」
ビッグ・スライムの考えが読めたのは、どうやらトワさんが所持してる称号のおかげのようだった。
「へぇ……レベル2でもう能力付きの称号かぁ。うらやましいね」
「トワさん、その称号どうやって手に入れたか聞いてもいいか?」
夕輝と晃夜はポヨンポヨンとスライムに揺られながら、真剣な眼差しでトワさんに質問を浴びせていく。やっぱり俺がもっている『老練たる少女』同様、能力有りの称号は貴重なようだ。
「んん……それが最初からあったの……」
「噂に聞く、『天賦の才』ですわね」
「最初から備わってるってやつですかー」
お、おう。
俺の『老練たる少女』もランダムタレントって言うのか。初めて知った。
「あれって発現条件、謎らしいよね」
「トワさん、何か心あたりないのか?」
「いつも現実じゃ……周りに合わせてばっかりだからかな……?」
一同はなんとなく突っ込むのを止めた。
トワさんの様子が微妙に暗かったのもあったので、俺は話題を変えるべく周囲を見回しながら、それとなく現状に突っ込みを入れる事にした。
「ところで、俺達はどこに向かって移動してるんだろう」
荒野って程、殺伐とした景色ではないにしろ、赤茶けた色合いの地面が多いエリアへと移動していっているのは確かだった。
「あー……それな」
「ん、待って……あれって『霊獣』の類じゃない?」
「おい、あれって『火車の猿人』だぞ……」
夕輝たちが指さす方向には……車輪に両手両足でつかまりながら、大道芸人ばりにゴロゴロ転がっている猿のような集団がいた。
四肢から紫の炎をちらつかせ、物凄いスピードで移動している。
眼とか回らないんだろうか。
「うわ……あいつら速度も脅威的だし、炎攻撃もしてくる高レベルモンスターじゃん」
「車輪を壊しても、トリッキーに動き回る人間大の火拳持ち大猿を相手にしなくちゃで、かなり強敵って話だよね」
「それが6匹もですか……」
「ちょっと厳しいですわよね……」
「でも、なんだかこっちに向かってくる気配がしないな」
不思議な事に、他にも一癖も二癖もあるようなモンスター達が徘徊してるものの、コチラを襲おうとする素振りすら見せない。
なぜだろう。
「もしかして、スライムに乗っているからか?」
「ボクたち、スライム騎乗士的な?」
夕輝たちの考察通り、確かにスライムの上から降りたら襲ってきそうで怖い。
上に乗っている限りはモンスターの一部として認識されているのなら、物凄い発見だ。トワさんの称号でかなり希少な情報を得られた。
「トワさんの称号のおかげだ。すごいな」
「へへー」
俺がトワさんに感心すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
その隣でミナがぶすーっとした顔でトワさんを見つめていたのが、少し気になる。トワさんもソレに気付いたようで、何やら彼女に笑顔でコソコソと話し始めた。
「ミナちゃん、大丈夫だよ」
「へ?」
「タロちゃんの事、好きなんでしょー?」
「そ、そ、そんなことは、いえ、天士さまの事はお友達として、すごく大切で、す、す、す……」
「大丈夫だからね。わたし、他に気になる人、たぶん好きって人がいるから……今はちょっと、知らない事を一気に知っちゃって困惑してるけど、たぶん、うん……すごくモヤモヤしてるけど、まだ気になってはいる、かな」
ぽよんぽよんっとスライムの揺れる音に邪魔されて、二人の小さな声はかき消されてしまう。何を言い合っていたのか気になったけど、ミナの顔が安心そうに和らいでいたので、何かトワさんが良い事を伝えたに違いない。
「『火車の猿人』がいるって事は……ここって西の辺境地じゃないか?」
「あ、『焼け堕ちる大地』だっけ?」
「焼けて強制的にキル画面へと落とされる、つまりキルされる大地」
「そう、それだよ。いや正式名称は『呪火の大地』だった気がする」
おっと。
晃夜と夕輝がしたり顔で解説を始めたので、これはシッカリ聞いていないとな。
「火山地帯でも熱帯地域でもないのに、やたら炎熱系の技を使用してくる高レベルモンスターの密集地とも言われてるんだよね……」
「推奨傭兵レベルは、攻略組の間で20台後半って噂されてるぜ」
「この辺のモンスターが強力過ぎて、この先に進めないって話だったけど……」
「見間違い……じゃないな。あそこに赤いドラゴンみたいのもいるしな」
見れば、羽こそ生えてないものの、全身をびっしりと堅そうな鱗におおわれた四つん這いのドラゴンらしきモンスターがのっしのしと歩いている。かるく、家ぐらいの大きさだったのでビビる俺達。
「ひぇー……」
周りでうろついてるモンスターのレベルが桁違いだ。
しかし俺達は今、なんの障害もなく突き進んでいる。
つまり……どの傭兵も辿り着いた事のない、未踏破エリアに突入しているというわけで……。
「これはシンさん……タロの姉に報告しなくちゃいけない事が、山積みになりそうだな……」
「タロ。情報収集、頼んでもいいかな?」
「おう、言われなくとも」
どんな些細な事でも、見落とすわけにはいかない。
何が現実で具現化するかわからないのだ。
そうとわかれば、俺は『古びたカメラ』を片手にパシャパシャと写真を撮り始める。
『災厄の跡地』【写真】
【元々、幻想郷の末端にある地域だった。今では世界樹の恩恵を受け取れず、枯れた大地となりつつある】
ん?
幻想郷に世界樹……?
『火車の猿人』【写真】
【元は幻想郷に生息していた『古き森賢人』。神獣が残した蒼炎の呪いにより、体質が変化してしまった。四肢から繰り出される炎は、呪いの力を帯びており非常に強力。沈んだ大地に戻れず、怒りと焦燥を胸に同郷者以外の生物を襲うようになってしまった】
:火車の猿人の魂が抜き撮れました:
:討伐すれば『疾走する紫色』が写真に宿ります:
……沈んだ大地、ねぇ。
『赤竜鱗の大蜥蜴』【写真】
【元は幻想郷に生息していた『守護トカゲ』。神獣が残した炎は今もくすぶり、大蜥蜴へと変質させてしまった。下位の竜種と同等の力を持ち、火を吹く。故郷を懐かしみながら、今もなお守護の役目を果たそうと、落ちた大地に侵入しそうな輩を屠り続けている】
:赤竜鱗の大蜥蜴の魂が抜き撮れました:
:討伐すれば『荒ぶる赤熱色』が写真に宿ります:
……落ちた大地、か。
この赤茶けた地域が、『幻想郷』だったって事は確定?
たしか、幻想郷って巨人たちの故郷じゃなかったっけ?
急に大地が沈んでしまって、妙な霧、もとい雲みたいのが立ち込め……降りようと崖を下っても、そこから戻ってくる仲間がいなくて、仕方なく移住したって話だったよな。
「これは……もしかすると……」
あらゆる写真の説明文には、一つの共通点がある。それは『神獣の災厄が残した傷跡』だ。
彼の獣が残した炎は色濃く残り、この地に生きる生物の生態系に強く影響を及ぼしている、らしい。
うーむ……これは思ったよりも話が大きくなりそうな予感しかしない。
そもそも神獣って何だ?
名称からして、かなーりやばそうな雰囲気があるんだけど。
「おい、まさか……あの煙の海みたいのに突っ込む気じゃ!?」
「そうみたいだねぇ」
晃夜の叫びで、俺は写真を眺めて思考するのを一旦中断し、前方に目を向ける。
「……雲海?」
そこには、すっぱりと大地が消失し。
かわりに白い煙の大地が出現していた。否、もくもく、ふわふわと、風で波打ち姿を変える、無形の海が広がっていた。
「あの、このまま進んだら危険そうじゃないですか?」
「そうですわね……そろそろスライムたちから降りる頃かしら?」
ミナとリリィさんの意見は尤もだ。
だがしかし、俺は知っている。ビッグ・スライムの【写真】に表記されていた特性を。
『弱点属性は青だが、タフ・スライムに比べて耐性が高い。水などに触れると、その身は弾かれるように反発し合う』
つまり、俺の予測が正しければ。
雲は水蒸気の塊。つまり、元は水だ。
ビッグ・スライムたちの移動が止まる気配はない。
それが示すのは、もしかしてあの雲みたいな白い煙の中でもプカプカと反発し合い、浮き続けるんじゃないか? という結論だ。
さらに、写真の情報を組み合わせれば、おそらく……あの雲海の下には、幻想郷……沈んだ大地が隠れているのではないだろうか。
雲が俺達のいる地表と変わらない高度で発生するなんて聞いたことはないけれど、下に沈んだ大地とやらがあるのならば……ゲームの世界でならありえる話。
「えっと、ミナちゃん。その子に触れさせて。わたしの乗ってる子はもう触っちゃったから、一度きりしか内面が読めない『同調者』は効果を発揮しないの」
トワさんがそう言って、ミナの乗っているビッグ・スライムに手でタッチする。
「このまま進むって言ってる! みんな、降りないと危ないかもっ! あの白い煙が何なのか、わからないし!」
「いや、待って! このまま乗って行こう!」
俺はトワさんの提案を遮る。
「え!? でもっ」
「たぶん、大丈夫かもしれない! 信じて!」
そんな俺の発言に、ゆらゆらとスライムの上で座る親友達は、肩をすくめながら苦笑し出す。
「あーあ、我らが錬金術士殿がそう言うなら、そうするか」
「ここは、お姫様の言う通りにしようか」
「天士さまのお言葉は絶対ですから!」
「タロさんが信じてと仰るなら、仕方ありませんわね」
女子、二人もどうやら賛同してくれた。
「え? えっと、みんな、このまま進む気なの? タロちゃんの信用度って……すごいんだね。じゃ、じゃあ、えっと、私もこのまま行くね?」
困惑気味ながらも、トワさんも直進コースに参加してくれた。
さてさて、結果が如何なる事になるのやら。
ドキドキするなか、俺達はスライムに騎乗し続け――
地面がなくなり、白い雲みたいなエリアにトプンと着水するような音とともに落ち……俺達はスライムの赴くままに、ドンブラコ~と雲の上を流されていく。
「…………」
「……」
この不思議な現象に、みんなは無言になる。
どうやら、煙を突きぬけて下へと真っ逆さまという最悪のパターンはなかったようだ。
俺は内心でホッとしつつ、とりあえず『スライムから降りたりしないで』とだけ注意しておいた。
◇
「あれ? あそこにあるのって鳥居?」
雲の波に揺られて数分が経ち、妙なモノが見え始めた俺は、前方を指差しながらみんなに言う。
「なにかしらね」
「神様のいる世界に来たみたいです」
見事と言うほかない立派で大きな入道雲。
まるで山のようにそびえ立っている。
そんな真っ白な雲山に一本の道を示すかのように、神社で良く見かけるような赤い鳥居が何本も立ち並び、頂上まで続いていた。
そしてスライムたちは、一番低い位置にある鳥居の前で止まった。
「おい、タロ。ここの雲、堅いぞ」
晃夜がスライムに乗りながら、地面、もとい雲に掌を乗せ、体重をかけるようにして触れている。
「あれ? さっきまで掴むことすらできなかったのに、ほんとだ。もしかして降りれるんじゃ?」
夕輝も同様に、足をちょんちょんと付けている。
どうやら、この鳥居周辺の雲ならスライムから降りても大丈夫なのか?
そう結論をだし、俺達は真っ白な雲の上に建つ鳥居の前に降り立った。
「ありゃりゃ!? 人間どもが入りる!」
「わりゃりゃ!? 九尾さまの加護はどうしちゃったり!」
うん?
神道系の純白な袴を着た少女が二人。
金髪と銀髪という相違点以外、全く顔の作りが一緒な双子? が鳥居の向こう側でわたわたとコチラを見ては驚き合っている。
しかし、こちらも彼女たちを見て驚く点があった。
それは、頭の上にもっふもふそうな、猫耳のようなモノが生えていたからだ。しかもお尻の部分には、ふさふさ毛の尻尾まである。
けもみみ巫女!?
アルファポリスさんにて新作を始めました!
タイトルは【転生者殺しの眠り姫】です。
主人公たちを殺す、不死の軍勢を率いる銀姫の物語となっています。
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