130話 救援は女神
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冷やし中華、久々に食べたな。
特製ねりからしを使って風味がどうのと姉は言ってたけど、俺にはよくわからなかった。けど、とにかく姉が作ってくれる料理は、いつも美味しいのだ。
ごちそうさまでした。
「ふぅー」
そんな満腹感に満たされた俺は、再びクラン・クランへとログインする。すぐに『小さな箱の主』を使って、いくつかスライム箱を生成して具合を見る。今の所、一箱でスライムを生み出せる限界量は4匹という結果に終わった。
「あ、そういえば」
フレンドリストを確認すると、ミナは……まだ戻って来てないか。
トワさんは……まだ、インしてたのか。
『トワさん、戻ったよ。素材集めは順調?』
なんとなしに、フレンド機能で連絡を取ってみる。
そういえば、この機能の使い方を教えるの忘れてたなー。なんて、ぼんやりと考え、しばらくすると……妙に切迫した声音でトワさんが返答をしてきてくれた。
『ど、どうしたらいい? 追いかけられてる、のっ』
む?
なんだか嫌な予感がした。
もしかして、ミケランジェロから出てモンスターにでも遭遇……してないな。フレンドリストを見る限り、トワさんの居場所はミケランジェロと表記されている。
となると……。
『もしかして、傭兵にPvP仕掛けられてる!?』
『う、うんっ! ど、どうしようっ』
PvPが怖いならオチる、という選択肢もある。
ただ、クラン・クランは安全地帯でキャラをログアウトさせないと、その場で突っ立った状態になってしまう。つまり、無抵抗でキャラを見かけた傭兵にキルされ、アイテムや素材、エソを奪われる事になってしまう。
『トワさん、今どこに?』
『わ、わからないっ。路地裏みたいなとこに、きゃっ!』
まずい。
間違いなく、PvPが発生している。
しかも路地裏とか、人目につかない場所ってことは神兵の見回り管轄外エリアかもしれない。
このゲームは町中でさえも、自分が踏破したことのない箇所はマップに表記されないのだ。今のトワさんは、もしかしたら未踏破領域に追い込まれて、あてずっぽうに逃げ回っている可能性が高い。
クラン・クランを始めたばっかりなのに、早くも傭兵に襲われるなんて……キルされて、嫌な思いをして欲しくない。
相手が何人いるかはわからないけど……ここは助太刀したい。
『トワさん、今からパーティーを申請するから。受けて』
『ぱ? ッティ? うんっ』
パーティーを組んだ状態であれば、都市内マップにパーティ―メンバーの位置がハッキリとマーカーで表示される。
『俺が来るまで、なんとか逃げ続けて! なるべく大通りを見つけるようにして! お店の中や教会内が安全地帯だから、見つけたらすぐ入ってオチれば大丈夫!』
『がんば、るっ』
よし。
急いで、マップを確認すると……うわ、トワさんはかなり寂れた通りにいた。しかも、進行方向から察するにどんどん治安の悪そうな場所へ誘導されているようだ。
ちなみに俺は先駆都市ミケランジェロにいる比率が高いだけあって、この都市のマップは網羅している。
もたもたしていられない。
多少、目立ってしまおうが関係ない。
俺はミソラさんからもらった『空踊る円舞曲』を着込む。
蒼色のドレスが重力を軽減してくれ、俺の身体をフワリと浮かせてくれる。
「風乙女よ、我が手で踊れ……友訊の呼びかけに応えよ!」
「はぁーい! たろりん♪」
スキル『風妖精の友訊』を発動して風乙女のフゥを召喚する。
よし、後は一秒でも早くトワさんの元へ移動するのみ。
「なんだ……?」
「妖精だ!」
「おい、あの子って噂の……」
「『始まりの天使ちゃん』、じゃないか?」
何かしていた周囲の傭兵たちの視線が急にこちらに集まってしまう。
なんだか恥ずかしい名前で呼ばれた気もした。けれど今は、そんなのに構っていられない。
「フゥ、お願い。なるべく急いで俺を飛ばして」
「あいあいさー♪」
フゥが風を発生させる度にMPが消費されるのは、把握済み。
ならばあとはMP回復アイテムである、『森のおクスリ』を握りしめればいいだけ。
「いくよ!」
「はぁーいっ! たろりん、飛んでけ~♪」
フゥの掛け声とともに、背中から力強く押し上げてくる風圧を感じ。
視界に映る建物がどんどん流れ、近づいてくる。
「おっと」
一度に飛べる高度はそこまで高くない。
家屋の壁を蹴ったりして、飛翔の軌道修正をかける。
「フゥ、もっと高く、お願い」
「うん! フゥもお空大好き~!」
ミケランジェロに立ち並ぶ建築群の屋根を超え、俺は上空へとこの身をフゥに委ねた。
間に合ってくれよ……。
◇
「あっはっはっはぁ! はぁー楽しいなぁ、どこまで逃げる気だぁい? 初心者ァ!」
ひどく耳障りで、愉快そうに問いかけくるローブ男。
私は彼の質問を無視して走り続ける。
「こらこらぁ、無視はいけないなぁ。初心者が上級者に、そんな態度をとっちゃぁいけない! 教育が必要かぁ?」
目の前で二つに分岐する道。
わたしは左へと進行方向を変えようと、身体を捻る。
だけど、私が進もうとした道を塞ぐように、突然一人の眼帯を付けた傭兵が現れる。
びっくりして、思わず立ち止まってしまう。
「あっはっはっはぁ! 教訓、その1! PvPは一対多数でもできるんだよぉ初心者ちゃん」
「そして、教訓その2。俺は『隠密』スキルで気配を消していた。突如、目の前に現れたように思っただろ? そこの物影に隠れてただけだ、ぎひひひ」
眼帯男は短剣を舌で舐めながら、ぼそぼそとこちらを嘲笑ってくる。
どうしよう……この人も、後ろから追いかけてくる傭兵と仲間ってことなんだ……。
「教訓、その3! 戦闘中は動きをとめちゃダメぇ!」
「きゃっ」
急に左肩に軽い衝撃が走って、よろめいてしまう。
「恰好の的になるよぉ?」
振り向けば、ローブ男が左手で剣をぷらぷらさせながら、右手で小石を弄んでいる。そのままニヤニヤと、嫌な笑みを顔に張り付けてゆっくりと歩いてくる。
あの石を投げたの?
慌てて私は自分のHPを見てみると、34から24に減ってる……。
「教訓、その4! ざこーい素材もたまには武器として使えるぅ! ただし、それはザコにだけしか有効じゃないけどなぁ? 俺のステータスのおかげで、こんな石でも、ゴミ傭兵をキルするだけの道具にはなるってことだぁ?」
私はすぐに立ち上がり、右の道へと駆け出す。
ネット内にはいろんな人がいて……タロちゃんたちみたいに親切にしてくれる傭兵もいれば、こーいう遊び方でゲームを楽しむ人もいるんだ……。
正直に言うと、怖いよ。
どうして、こんな弱い者いじめができるの……。
きっとあっちはすぐに私を倒せるはずなのに、わざと逃して私の反応を見て楽しもうとしてる。
あんな人たちの思い通りになりたくないから、すぐにゲームからログアウトして辞めるって手段もあるけど……せっかく集めた素材が、何か取られちゃうかもしれないって思うと……悲しいし、悔しい。
それに、タロちゃんが『俺が来るまで逃げ続けて!』と言ってくれたから、もう少しがんばろうかなって思える。
そうして、後ろから石コロを投げつけてきたり、急に私の近くで姿を現しては短剣を楽しそうに振り回す傭兵の攻撃を必死に避け、おっかなビックリしながら逃げ続ける。
「はぁっはぁ……次は、どっちに行けば……」
また二つの分岐点に差し掛かり、左を選ぼうとする……だけど、今度はニメートルぐらいの壁が地面からもりもりとそそり立って、またしても私の進行方向を阻んできた。
どうして、なんで?
これってなに?
そんな不思議な現象に感動している場合でもないし、あんなのよじ登ってる時間なんてない。
「教訓その5。ワタシのように魔法スキルがあれば、このような土壁が作れますよ」
壁の向こうからくぐもった声が聞こえた。
きっと、ローブ男の仲間だ。
わたしは仕方なく、また右の道を選んで走る。
「あっはっはー! 愉快、愉快だねぇ、さぁどこまで逃げれるのかなぁ? がんばってねぇ初心者ちゃん」
三対一なんてずるい。
でも、これがクラン・クランってゲームなんだね……。
うん、ひどいし、辞めたい。
もう諦めちゃってもいいような気がしてきた。
だって、ただのゲームだし。
倒されて、負けて……こんな人たちと、またどこかで会うと思えばやっぱり怖いけど……タロちゃんやミナヅキちゃんみたいな、親切な傭兵もいるってわかっただけで、今日の冒険は収穫があったのかな。
もう、終わりにしてもいいんじゃないかなぁ……。
そんな暗い気持ちが、私の胸に広がっていく。
「トワさん! 大丈夫!?」
だけど。
唐突に、そんなネガティブな思考を一瞬で吹き飛ばしちゃうような、凛とした声が頭上で響いた。
私はその聞き覚えのある声に反応して、天を仰ぎ見るように声主を探す。
眩しい……まるで、暗澹と沈んでしまった私のモチベーションを照らしてくれるような、陽の光を背から纏った少女が――――
銀髪の美少女が、空の青よりも透き通った蒼色のドレスをはためかせながら、上空からゆっくりと降下してくる。
そんなタロちゃんの姿は、童話とか昔話に出てくるような天使のように綺麗で、可愛らしかった。
「おまえら、一対三とか卑怯だな。俺とも戦ってくれよ」
だけどタロちゃんの顔は、すぐに好戦的で勇ましい女神のような凛々しいモノへと変わる。
タロちゃんは年下の女子なのに、ちょっぴりかっこいいと思ってしまった私は変なのかな。
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