128話 銀髪シスターちゃん?
今回は茜ちゃん視点です。
八方美人。
誰からも悪く思われないように、如才なく振る舞って付き合っていく。
私という人間を表すなら、この言葉が一番だと思う。
「あかねー、もうすぐ彼氏の誕生日なの! だから今度の日曜日、一緒にプレゼント選び手伝ってくれない?」
「うん、いいよー」
ニコッと笑って、クラスメイトの美紀ちゃんにそう答える。
本当は美紀ちゃんのプレゼント選びなんて興味もないし、できれば日曜日は一人でゆっくり過ごしたい。
「よかったぁ。あかねと行けば、ハズレないこと間違いなしっ」
「やだ、プレッシャー」
でも、美紀ちゃんはクラスメイトだから。
私が毎日通う空間、教室にいる存在だから。
「じょーだん♪ 来てくれてありがとね」
「うーうん、わたしも丁度、見たいものあったし」
こうやって友達風の人間に、合わせて生きる。
「えーなになに?」
「んー? 服とか?」
「えっ! じゃあ、あたしも一緒に見る!」
「うんうん!」
誰にでも愛想よく振りまいて、自分の好感度を上げておくの。
そっちの方が、学校生活を送るのに精神衛生上いいから。
明るく、優しく、平等に。
文化部の子とも、運動部の子とも、地味な子たちとも、派手な子たちとも。
でも、注意点が一つ。
それは男子には、あまりしちゃダメってこと。
なるべく、良くするのは女の子だけ。
じゃないと、余計な敵を作っちゃうから。
『茜は可愛いからねー』
『男子に人気だよねー』
『そんなに男に気に入られたいの?』
主に女子たちからの敵視。
それが中学生の時に学んだこと。
こうして外面は明るく装って、実はビクビクとしながら高校生活を過ごすのが私。
今日も不自然な優しさを纏って、偽りの自分を演じて、一日が終わる。
我慢と気遣いで、自分の安寧を守る。
保身の学校生活。
そんな牢獄じみた感想しか持てない学校生活に。
一人だけ、例外的な気持ちを抱かせてくれる男の子がいるの。
それは、仏訊太郎くん。
彼はわかりやすく、まっすぐに、一生懸命に私に接して来てくれる。
私を『気遣い上手』なんて、クラスメイト達は褒めてくれるけど、その実ウソで塗り固めてるだけ。そんな私と違って、訊太郎君は純粋に私だけを求めて行動してる。
その、なりふりの構わなさに引きずられて、いつもは出さない、セーブしてるはずの自分の本音、一部がどんどん彼の前では引き出されてしまっていく。
本当はバカみたいな会話をして気を紛らわしたいし、心から笑いたい。
そんな時、彼は進んで道化を演じては寒いボケとかして、ツッコミ待ちをしてくる。もう耐えられなくて、笑ってしまう。
才色兼備、なんて言われてる私だけど、実は英語がすこし苦手。
訊太郎くんも英語には弱くて、一緒に宿題の答え合わせをするようになって。私が教えることが多いけど、人に教えるって自分も良く分かってない部分を相手に理解してもらえるように言葉を選んで、頭の中で整理して、ソレがいつの間にか文法の理解を深める事に繋がるって気付けたりもして。
おかげで成績は右肩上がりです。
ありがとう、訊太郎くん。
『好きな男はどんなタイプ?』って男子に聞かれるとき、耳をそばたてているのは男子よりも女子。私がなんて言うか聞き取ろうとしてるんだと思う。自分の好きな人が該当してないかとか、横恋慕されるんじゃないかって警戒してるのかも。
だから無難に性格が合えばとか、見た目は特にないって、誰にでも当てはまるようで当てはまらないような受け答えをしてた。でも、訊太郎くんの前では好みを素直に言ってしまった。
髪型は短髪がいいなって。
「うっわぁー、あの地味男くん、ぜーったい茜に気があるよ」
「朝比奈くんとか日暮くんだったら、まだしもー……あの地味男くんじゃねー、茜も困っちゃうよねー」
全然、困らない。
どうして、そんな酷いこと言えるの?
って、ノドまで出かかった言葉をなんとか呑みこんで、私はがんばって笑顔を作る。
「うーん? そっかなぁー。私なんかに気があるなんて思えないけど」
「茜はにっぶいねー」
別に鈍くはないよ。
貴方が、『茜と一緒にいた方が男子受けがいいから、うちらのグループにいる』って事を、隣で楽しそうに『私たち親友だよね』って言い合ってる由香から聞いてるよ。
それをわかった上で、仲良しなフリをしてるのだから。
疲れる。
疲れた。
どうしても、窮屈に感じてしまう人間関係。
そんな事もあって、訊太郎くんと仲良しの晃夜くんと夕輝くんに薦められたゲームを思い出す。
クラン・クラン。
当時はあまり興味がなかったけど、自由きままに自分を出せる場所を探していた私は、買ってしまった。
なにせ、あの訊太郎くんもプレイしているって聞いたから。
夏休みに入ってしまい、訊太郎くんとはあれ以来会えてない。
ゲームをスタートした私は、すぐに自分もクラン・クランを始めたと訊太郎くんに連絡を送ろうとして、スマホを持ったその手を止める。
訊太郎くんはきっと、あの件を気にしてる。
きっと羞恥心にさいなまれ、私とは話したくないかもしれない。
焦って、拒まれたら元も子もない、よね……。
もうしばらく時間をおいてから、訊太郎くんと連絡を取った方がいいのかな。
それに、これはオンラインゲームだし……1から10まで面倒を全部見てもらうなんて、迷惑はかけたくない。
ある程度、自分の力で進めてみてから、訊太郎君に連絡をするのが一番いいかも。
『実は私もクラン・クランやってるんだ。夕輝くんや晃夜くんから、訊太郎くんもやってるって聞いて連絡してみたの。あそこの攻略を一緒にしてみない? ここがわからないの。こっちの方がいいのかな?』
とか、共通の話題さえあればなんでもいいの。
うん、不自然じゃないし、訊太郎くんだって話に乗りやすいはず。
『よかったら、一緒に遊んでみない?』
そしてあの、私が唯一本音で過ごせる相手、訊太郎くんと一緒に遊べたら……なんて思うと、今からでもワクワクしてしまう。
学校と違って、周囲の雑音なんか気にせず二人で過ごせる。
ゲームごしでなら、彼も気兼ねなく話せるかもしれないし。
それなら、せっかくだし彼をビックリさせたい。
自分のキャラクターはこだわらないと。1時間ぐらいかけて、膨大な種類のパーツの中から好みのモノを慎重に選んで、ようやくキャラクタークリエイションを完成させる。
「これでいっかな?」
私は桃色の髪をした、自分なりに精一杯可愛らしいと思える自分の分身を見て満足する。
そして、早く訊太郎くんに会いたいなーと思いながら、クラン・クランの世界にログインしたのでした。
◇
ここがゲームの世界、なんて思えない程に町は活気づいていて。
道行く人たちは、誰もが意気揚々としている。
わたしは初めて見る景色に圧倒され、自然と心が踊ってしまう。
西洋風な街並みだけど、たまに奇抜な建物もあって色々と目を引かれるものがある。
「うわぁーすごいなぁ……」
ここに訊太郎君がいるかもしれない。
でもここはゲームの最初の町で、名前はたしか先駆都市『ミケランジェロ』だっけ。
もう先に進んじゃって、いないかもしれない?
「あ、れ? あの子って……」
訊太郎君の事を考えながら、すこしだけ期待しながら町の中を散策していると、見覚えのある美少女が地面に伏しているのを見つけた。
一度見たら絶対に忘れない、月光のように輝く銀髪。
同じ女子として、同じ土俵に立とうとすら思えない、愛らし過ぎる容姿。
学校にいたシスターちゃんだ。
夏祭りでも少し見かけたけど、もしかして本人なのかな?
現実の容姿をキャラクターにそのまま反映させるって、説明にあったリアルモジュールとかいうやつなのかなぁ。
彼女が偶然にも同じゲームをプレイしている事にもビックリだったけど、リアルと同じ姿でゲームをプレイしている事にもビックリ。
身バレとかって危なくないのかなぁ。
それにしても、なんだろ。
物凄くドンヨリとした空気で、何かブツブツ呟いている?
んー……きっと何かあって落ち込んでいるのかもしれない?
そう思ったら、自然と声をかけてしまっていた。
◇
「トワさん……少しだけ一緒にあそんでみませんか?」
それから、なぜか銀髪シスターちゃんは私を誘ってくれた。
訊太郎くんとは、まだ会えないけど。
銀髪シスターちゃんも少し気になってはいたし……せっかくのオンラインで他のプレイヤーと遊んでみたいという思いもあった。それに、まさかの偶然な出会いに感謝もしていた。
あの謎めいた銀髪シスターちゃんを、深く知る機会かもしれない、と思った私は彼女と一緒に遊んでみたくなってしまった。
ブックマーク、評価よろしくお願いします。




