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127話 スライムを作ろう!


 輝剣屋スキル☆ジョージにて。


「『セイレーンの宿り木』かぁ……これは、錬金術になかなか使える」


 俺はジョージからもらった素材が出してくれた成果に感心していた。

『装飾スキル』でオシャレな家具も作れるジョージは、同じく家具や庭具を作成できる『木工スキル』持ちと懇意にさせてもらっているようだ。


 姉が主催した会議で、職人同士の連携と情報共有を密にという方針もあって、ジョージが知り合いの木工職人から譲ってもらった大量の素材を俺にくれたのだ。悪いからいいよ、と断ったのだけど『いろんなものを作って、いろんな情報をあちきに譲ってねぇン♪』とオカマに押され、流れで受け取ってしまった品物だ。



『セイレーンの宿り木』

【人間の女性の姿を持ちながら、下半身は鳥、そして翼を持つ生物セイレーン。そんな彼女たちが好んでとまる木枝。彼女たちは森に飽きると、下半身を魚の姿に変え、海へとさえずりに行く】

【透明度38】



 この素材、『生命を育む箱』を作る素材にかなり適しているのだ。

 透明度が高いのはもちろんのこと、『焼きごて』で『焼印(ストンプ)』を施した際の熱量が異様に長い。


 熱量【45秒】と、押しつぶして板にしてから、次の板を作成して繋げるまでの時間に余裕があるのだ。

 前回の『生命を育む箱』作りは、この熱を帯びる時間が短すぎて失敗したと言っても過言ではない。


 だけど、今回は違った。

 サクサクと他の【透明度】の高い素材を積み上げていき、最後に『セイレーンの宿り木』をぽんっと置き、『焼印(ストンプ)』で押し潰しては新たな板を生みだして、接合を繰り返していく。

 こうして五面を繋ぎ合せ、今、俺達の眼の前にはフタのない透明な茶色い箱が完成していた。



『生命を宿す木箱』

【耐久度60】

【容量8】


と、リッチー師匠からもらった『生命を灯す種火入れ(ランタン)』とは性能面で酷く劣るものの、初めて自力で生物を作り出す土台を用意できたことには、感慨深いものを覚える。

 ちなみにジョージにはお返しとして、この『生命を育む箱』を作る際に失敗作として出来た『なりそこない』と『赤子のお肉板』を譲っている。


『なによこれぇん……小人死体のホルマリン漬け? こぉんな不気味な家具は初めて見たわぁン……それに気味の悪い板……見たところ木製の素材であるところは間違いないようだしぃん、知り合いの木工ちゃんに譲ってみるわねぇん!』

 

 と、駄作を渡したわりにテンション高めだった。



「セイレーンですか……むかし、海で恐れられていた怪物の一種ですよね」


「そうなの?」


 俺の隣で錬金術を見守るミナが、セイレーンについて説明してくれた。

 ちなみに輝剣屋スキル☆ジョージには、今は俺とミナの二人だけしかいない。



「はい。よく船乗りの間で噂されていた生き物らしく、美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難にあわせるそうだとか。歌声に魅惑されて、セイレーンに喰い殺されてしまうこともあるそうです」


「ほー。そんな話もあるんだなぁ」


「現実に出ないといいですけどね……」


「そうだなぁ……」


 会議の翌日にミナに確認してみたところ、やっぱりミナもリアルモジュール組であり、現実の変化は認識できている。ただ、俺に言われるまでキリスト教の消失や、エルフと妖精が出現している事は知らなかったようだ。というのも、ミナはこの夏休み中、ほとんど家から出ない生活をしているそうで、テレビもあまり見ないらしい。



「うーん、天士さま? この箱のようなもので生き物を育てるのですか?」


「そうなんだけど、今までの成功事例は一種しかないから……難しいかも。成功したときもリッチー師匠から譲り受けた、最高級の素材が元だったし」


 だからと言って、全く錬金術の研究が進まなかったというわけではない。

太陽に焦がれる偽魂(サン・ホムンクルス)』を作り出して、わかった事は【肉体】・【血液】・【属性】となる三つの素材を欠かさないこと。そして【飼育】、つまりエサとなる素材によって、生みだされる生物のステータスが変化するのではないかと推論を立てている。


 この事から、より【容量】の多い『生命を育む箱』の方が、強力な生物を創り出せるに違いないと予測している。

 前回は容量が12という師匠の特注品ランタンであったけど、今回は容量8という自作品。



「高望みは無謀にも程がある……それなら、基本に忠実に……」


 慎重に選び出した素材は、この三つ。


 まずはみんなご存知、スライムのレアドロップであるスライムゼリー。

 こちら【肉体】素材に該当する、青いプルプル丸玉だ。


 次に【血液】に該当するのは『川虫の涙』。

 これもジョージから譲ってもらったもので、木工職人さんがよく木材を清める時に使用する素材らしい。森に流れる小川に生息している、光る虫から採取できるようだ。リアルで言うところの(ホタル)みたいなもので、木工職人たちは汎用性の高さに感謝を込めて『森の宝石』と呼んでいるそうだ。

 妖精やミソラさんたちが隠れ住む、れっきとした『宝石を生む森クリステアリー』の存在を知ったら驚くだろうな。


 次に【属性】に該当する素材だが、スライムのノーマルドロップである『スライムの核』を選んだ。属性は青。説明文を見る限り、『液体と相性が良い』とも表記されている事から、成果は十分に期待できる。

 最後に【飼育】素材に該当するであろう、我らが万能薬『ようせいの粉』。


「そう、全モンスターの原初でもある、スライム生成を試みる!」


 ようは最弱モンスター作りなら、俺でも可能だろうという目論見で錬金術に着手したのだ。



 ◇



「……す、素晴らしい! やっぱり錬金術は至高だ。これでモンスターを使役することができるかもしれない!」


 結論から言えば、スライム製造は成功した。

 各種の素材を投入し、木箱の容量が残り【1】になった時は焦ったけど、【飼育】素材、『ようせいの粉』は容量を1しかくわないので、1回分のエサを与えることはできた。



「お魚さんがスライムになるのですね!」


 ミナは心底、俺の偉業に感動しているようで、子供のようにきゃっきゃとはしゃいでいる。というかミナって子供だもんな、うん、癒される。


 ミナの指摘通り【肉体】【血液】【属性】を投入し、しばらく様子をみると、前回同様に小魚が生まれた。『川虫の涙』が透明無色だというのもあって、本当に水槽で飼っている魚のようだった。


『ようせいの粉』をパラパラと与えると中の魚たちは競ってエサを貪り、次第に互いを食べ合い……最終的に三匹の魚が、丸いゼリー状のスライムへと進化したのだ。



:スライムが出来上がりました:

:『生命を宿す木箱』が『擬態の木箱(トラップ・ボックス)』に進化しました:


 ログを読んだ俺は、ミナの手前、訳知り顔で偉そうに呟く。


「ほほう?」



擬態の木箱(トラップ・ボックス)』(スライム三匹)

【タイプ・木箱】

【町などでよく見かける木箱。調べると素材などが入っていたりする。傭兵(プレイヤー)が触れると発動する】



:箱には、【木箱】や【宝箱】、【石箱】、【金箱】などのランクによって発動条件が異なります:


 ふぅん。箱にもランクなんてのがあるのか。

 さらに『鑑定眼』を発動して、よく調べてみる。


:『擬態の木箱(トラップ・ボックス)』は作成者以外、詳細を知ることはできません:

:作成者によるアクセスを認知:



『スライム』

HP22 (通常より+15)


【特性】

なし


【アビリティ】

なし


【補正】

全ステータス+15




「むむ、何やら通常のスライムより強力な個体を作ってしまったようだ。ふっふっふ。しかも、それが三体とは!」


「スライムさん、見たいです! 進化しちゃってから、すぐに普通の木箱みたいになっちゃたので、中身が見えないです」


「ふふふふ……そうだなぁ、お披露目タイムといこうか?」


「はい!」


 モンスターを創り上げた、という感動を堪能する。このアイテムでやれることを想像すると、早く試してみたいという思いが強くなる。だけど、その興奮は、とある疑念によってふと冷めていく。


「天士、さま? どうしましたか?」


「モンスターを生み出せたなんて素晴らしいんだけど! だけど……」


 これで、現実で魔物が作れるようになっちゃったらどうしよう、という不安も同時に湧いてきたのだ。

 


「天士さま……まだ起こってもいない事を、そう悩んでも仕方ありませんよ?」


「あぁ、うむ」


 ミナは十歳そこらの割に、察しの良い子だった。



「少なくとも、この子たちを誰かが使ってきたときのケースを考えて、研究しておきましょう」


 そう言って、はにかむミナの笑顔は……うん……非常に良い。

 このミナヅキこそが、俺なんかよりよっぽど天使なのだろうと心中で呟く。


 最近、妙に身体を密着させてくるとか、インしている間はずっと傍にいるとか、色々と気になってしまう点はあるけども。いや、やっぱり子供ではあるけど、異性でもあるわけで、いや意識しているわけじゃない。ただ、彼女の純粋さをいい事に、自分は年上としての節度を持って接しているのだろうかと、ロリコンでないとかあるとか、自己分析をしている…………場合でもない。



 ミナの言う通り、俺でさえ『スライム』を作れたのだから、この先誰かがこのような生物を作り出し、現実(あっち)で使役してくる可能性もゼロではないはず。



「そうだな! ミナ、行こう!」


 作ったスライムを見る。

 そうと決まれば、店内でモンスターを出すというのもジョージに失礼かと思い、俺達は屋外に出ることにした。

 

 

 外では何人かの傭兵(プレイヤー)たちが行き交っているだけで、特に問題もなかった。なので、俺はさっそく『擬態の木箱(トラップボックス)』をストレージから取りだす。

 説明文を見る限り、発動するには『設置』して『触れる』だけでいいらしい。


「いくよ、ミナ?」


「はい、天士さまっ」


 ミナの眼は期待に膨らみ、それはもうキラッキラに輝いていた。

 俺だって人の事は言えない。

 にっこにこだ。

 やっぱり自分でモンスターを造り、それをお披露目というのはワクワクする行事なのだ。



「これを置いて……そぉれ!」


 ちょんと指先で自作の木箱に触れてみる。

 すると――――


 ボフゥンっと白い煙が出たかと思えば、スライムが三匹現れた。



「おぉ! どうだ、ミナ!」


「はい! スライムです!」


「よし、スライムくんたち! さっそくだけど、これから一緒に散ポゥッ!?」


 お腹に軽い衝撃を覚え、俺は後方へとよろめく。

 一体、何が起きた?

 

「グハッッ!? ちょっ、え、ゴフゥッァ!」


 立て続けに身体のいたる部分で衝撃が走る。

 その原因は、なんと強化されたスライムたちが、あろうことか俺に体当たりをかましてきたのだ。


「なんだっと!?」


 更なる追撃を容赦なく叩き込んでくるスライムたち。



「て、て、天士さま!? 天士さまを攻撃しちゃダメです!」


 ミナが慌ててメイスをふるい、俺も体勢をすぐに立て直し、小太刀を薙いではスライムたちに応戦していく。



「ちょっと、なんで俺を襲う!?」


 苦労して造り出したモンスターを相手に、やむを得ず反撃をみまっていく。まさか自ら作ったモノを自らの手で壊すという、大いなる精神的苦痛を伴う戦闘を余儀なくされてしまった。


 そうして数十秒が経ち。

 


「はぁぁあ……」


 深い、深い、深い、不快、溜息がこぼれた。

 なんで、どうして……我が子を経験値の糧にしなければならないんだ。

 こんな虚しい思いを味わうなんて……。



「創造主に盾突くとは……つかえない……」


 両の手を地に付き、ガックリとうなだれてしまう。

 傍から見たら街中で(・・・)モンスターと戦いを急に始め、一人で落胆する変な傭兵(プレイヤー)だ。


 くっ……。

 苦労してモンスターを生成できても、これでは錬金術スキルつかえねー……と、馬鹿にされるのがオチだ。


 だけど、まだ完全に使えないモノだと判明した訳ではない。

 箱にもランクがあるようだし、いつか花開く時が来るかもしれない。


 それによくよく考えてみたらこのアイテム名、気になる。

 トラップボックス。つまり、これは……ダンジョンなどで遭遇した傭兵(プレイヤー)と、PvPへと発展した場合、逃げている間に……仕掛け、モンスターを発生させる類のアイテムではないだろうか?


 となると、これはまさか、使い方次第で輝ける!?


 ミナの『天士さま、次のモンスターも倒しましょ! 大丈夫です!』とちょっとズレた励ましもあって、落胆するにはまだ早いと気持ちを持ち返す。

 前を見て、立ち上がろう。

 そして、またスライムを作ろう。


 そう思って、顔を上げる。

 


「あれ? あのーそこのキミ、大丈夫かな?」


 すると、妙に視線を吸い寄せられる女性傭兵(プレイヤー)が心配そうに、こちらを見て声をかけてきた。

 別に容姿がすごく整っているとか、奇抜な装備をしているとか、変わった所なんて何一つない。ただ、なんとなく気になる。それだけだ。

 そんな彼女が、地面に四つん這いになっている俺に手を差し伸べてくる。



「あ、えっと……」


 俺がその手を取って立ち上がろうか迷っていると、ミナが妙に機敏な動きでその傭兵(プレイヤー)と俺の間に割って入った。


「誰ですか、あなたは」


 ちょっとだけ口調が鋭いミナさん。

 まぁ、あれだよね。この世界、傭兵(プレイヤー)相手に油断できない環境だもんね。



「あ、えっと……私は……トワっていいます。今日、クラン・クランを始めたばっかりなの」


 確かに装備もレベルも低そうな傭兵(プレイヤー)だ。

 背丈からして俺と同年代、16歳前後のその少女は、ミナの警戒心むき出しな態度に困ったような笑顔を浮かべている。

 


「すごく、その子が落ち込んでそうだったから、つい声をかけちゃった。ごめんね」



 (あかね)色に近い、薄くて柔らかいピンクの髪を揺らし、謝る少女。

 まるで(きり)(かす)む夕日のような色合いだなーと、綺麗な髪色だったので思わずボンヤリと眺めてしまう。

 まるで、この手で掴んでも消えてしまうような、そんな儚い色だ。


「あ、いえ。こちらこそ、心配をかけてしまってすみません」


 俺はすぐに立ち上がり、ぺこりとお辞儀をする。


「うーうん、こっちこそ余計なおせっかいだったかな? じゃあ、私はこれでっ」


 と、やはりそそくさとコチラを気遣うような笑顔を張り付け、彼女はその場を去って行こうとする。

 しかし、俺はその笑顔にどこかひっかかりを覚えた。


 彼女は見るからに初心者で、右も左もわからないクラン・クランを一人で歩いていたのだろう。だから他人に構っている暇があったら、早くゲームに慣れるよう自分だけを優先すべき段階なのに、偶然にも落ち込んでいた俺の様子を目にして心配をしてくれた。


 なんだか彼女の顔を見た瞬間から、放っておきたくなかった。


 見た目が似ているわけでもないのに。

 俺の脳裏には宮ノ内茜ちゃんが自然と浮かんでしまっていた。

 誰にでも明るく優しく接して、クラスの太陽でもある宮ノ内茜ちゃん。

 彼女の在り方に通ずるモノを、感じ取ってしまっていた。



「あの良かったら、トワさん……少しだけ一緒に遊んでみませんか?」


 だから、気付いた時には、俺の口からこんな台詞が吐き出されていた。

 俺の突然の勧誘に、彼女は桃色の髪を揺らして驚いていた。そして、春先に咲く桜のような、柔らかな微笑みをもって頷いてくれる。


「まだ始めたばっかりの、私でよければっ!」


 現実(リアル)の方じゃ……。

 とてもじゃないけど(あかね)ちゃんと、顔を合わせられない。

 だから……茜ちゃんを少しだけ思い出させてくれる、トワさんと一緒に冒険をしてみたくなってしまった。


 茜ちゃん、どうしてるのかな。

 そろそろライン、送らないとだよな……。


 




 ご察しの通り……。

 タロはとんでもないモノを作れました。

 街中で、モンスターが出せちゃう代物です。

 クラン・クランでは基本的に街中でモンスターが発生することは、ほぼありません。


 そして、ご察しの通り……。

 トワは、はい。


 キャラクター名募集に関して、メッセージや感想、誠にありがとうございます。どれも、本当に良いモノばかりですごく迷いました。

 中には細かい設定や、理由なども書いてくださった方もいて、とても感激しました。


 今回は、『黄昏 コドク』さまと『ドMダー』さま考案の、茜=日没後の薄明かり=トワイライト、ということで『トワ』ちゃんと決定させて頂きました。

 ありがとうございます。


『チカ』や『ノア』など『ルビア』や『みゃーの』、アカネ、ミカネ、うちわ、ミケ、カネミ、ノーティア、ミア、セン、ミィーア、クナイ、トンボ、フツネ、シュノ、みねうちのあやか、ミアカ、などなど。


 ものすごく、ものすごく悩みましたが、永久『トワ』という響きが遠恋っぽくていいなぁと。

 

 たくさんのご意見、ありがとうございます。

 また、読者のみなさま、拙作を読んでくださり感謝しております。


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ちなみにリアルモジュールですか
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