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125話 円卓会議


 クラン・クランにインした俺は、姉とすぐに『輝剣屋スキル☆ジョージ』へと訪れた。

 姉に言われた通り、信用できる傭兵(プレイヤー)へすぐ連絡を入れ、重要な話し合いがあるからここに来てくれとお願いしたのだ。


「あぁん、これは知り合いの木工職人ちゃんにぃん、作ってもらったのぉん♪」


 店主であるジョージは、俺の視線に応えるように上機嫌で説明してくれる。


「たしかに上質なものだな」


 姉のピリピリした空気を意ともせず、オカマは家具の素晴らしさについて語り続けている。きっと、オカマなりに気を回しているのかもしれない。正直、傍から見てても姉が醸し出す空気は鋭い。これから集まるメンバーに姉の覇気を全開で当ててしまったら、みんな委縮してしまい、うまく会議ができなくなってしまう。


「姉、みんなには優しくね?」

「わかっている……」


 ちなみに姉の信頼できる傭兵(プレイヤー)たちには、今回とは別の時間を設けて会議を開くらしい。『まずはタロの身辺から固める』と、尋常でない気概を俺に見せてきている。

 その態度が高圧的と取られないか、内心ではらはらしながらみんなを待つこと数分。


 リアルの時刻は深夜0時を回ったところ。

 にも(かか)わらず、ここに集まってくれた傭兵(プレイヤー)は七人もいた。

 


「ステキな円卓と椅子でしょぉん? せっかくだから、こぉーんな時に使わせてもらおうかしらってねぇん♪」


 オカマが木製の家具を称賛し、自由に使ってねぇんと着席を(うなが)してくれる。もちろん、店のドアはクローズ状態で店閉めにしてくれている。


 そうしてまず一番に座ったのは俺の姉。

 PvPを得意とする有名傭兵団(クラン)『首狩る酔狂共』の団長(リーダー)であり、プレイヤー名はシン。


 やはりそんな姉がいるせいか、集まってくれたフレンドは心なしか緊張している様子だった。


「えっと、失礼します」

「す、座るぞ」

「はい……」

「は、はぁーい……」


 姉の次に傭兵団(クラン)『百騎夜行』の面々が遠慮がちに席についていく。

 ユウにコウ、そしてゆらちー。

 そしてシズクちゃんだ。彼女はリアルモジュールでキャラを作成していない、つまり現実の変化を認識していない。けれど、あえて呼んだのだ。彼女の意見は世界が変わってしまったと、まざまざと痛感できるし、今の(・・)常識を学ぶためにも。



「どうして、こんなに空気が重いのかしら? つまらないお話でしたら、(わたくし)オチますわよ?」


 と、高飛車な発言をするも、姉の一睨みでサッと着席したリリィさん。

 

「タロ(うじ)からの連絡だから来たのでありんすが……まさか『首狩る酔狂共』のお姉さまもおいでますとは……」


 そして和装の裁縫職人、アンノウンさんがしずしずと腰を落ち着けた。

 みんなが座ってから俺も席に着いた。

 

 残念ながらミナとは連絡を取れなかった。

 というのも、彼女が年齢的にこんな夜更けにインしてるはずもないのだ。


 それでもこれだけのフレンドが急遽集まってくれたのは嬉しい。



「みなさんにはタロを介して集まってもらい、感謝しています」


 開口一番、姉がお礼を切り出した。

 そこから、現実世界がゲームに侵食されている事、ほとんどの人達がソレに気付けていないこと、我が家に妖精が遊びに来ている、など現状に危機感を覚えていると報告していく。


 妖精の出現に関しては、やはり全員が驚いていた。

 その驚愕するポイントはこの場にいる人それぞれで違うだろう。

『現実に妖精なんかが現れた!? ねぼけてるの!?』陣営と、『ついに、日本に妖精さんが帰って来てくれた!?』陣営だ。 



「今の話に違和感を持った人がいましたら、挙手を」


 やっぱりシズクちゃんが手を上げていた。


 あれ、と思ったのはアンノウンさんだ。

 たしか、アンノウンさんはあんな妙齢の女性キャラだけど、中身は高校生と言っていた気がする。となるとリアルモジュールじゃないはずだけど、どうして挙手しないのだろうか。


「あの、今のお話のどこにおかしな所があったのですか? 妖精さんも昔はいたって有名なお話ですし……キリスト教なんて知りません。それに『虹色の女神(アルコ・イリス)』教会は由緒正しい宗教ですよ……このクラン・クランが、それらをモチーフにしてゲームに実装しただけでしょう?」


 シズクちゃんの意見に、みんながシィンと静まり返った。

 特に同じ団員であるユウやコウ、ゆらちーは沈痛な面持ちだった。

 仲間と意識の差が生じているのは辛いのだろう。


「とまぁ、世間一般での常識はこのようになっている。わかりやすい意見をありがとう、シズクさん」


 姉は重苦しい空気を清算するように、キッパリとした口調でシズクちゃんをフォローする。


「えと、」


 そこで俺は挙手をする。

 それを見た姉が発言を許可するように頷く。


「あ、アンノウンさんはシズクちゃんと同じで、リアルモジュールじゃなかったと思うんだけど……この件に関してどう感じてます?」


 気になっていたことをアンノウンさんに尋ねてみる。

 すると彼女は目を伏せ、気まずそうに答えた。


「みなさんが思ってる違和感に関しては、なんとも……ただ、自身で確認したいこともありしんす……まだ、結論は……」


 まぁ、急にリアルモジュール以外の人々が世界の変異に気付けていない、しかも自分はその一人だなんて言われたら受け入れがたい話だろう。


 ジョージなんかは、先程から口をポーンと開けっぱなしだし。

 久々にオカマのノドち○こを見た気がする。


「ジョージ……乙女のプライバシーに踏み込むのは悪いと思ってるんだけど、さっきも姉が話した通り、けっこうすごい状態だから……よかったら、ジョージのキャラクリについて教えてもらってもいい?」


「あ、あ、あちきは……」


 さっきまでのるんるん気分なジョージは微塵もなかった。

 

「リアルモジュールじゃないわん……」


 そうか……やっぱり認識を共有できないのは残念だった。

 というかジョージはてっきり、リアルも色黒オカマなパンチパーマかと思っていたけど、きっとコレよりも酷い感じで派手なんだろうか……?


「シズクちゃん、アンノウンさん、ジョージ……俺達が言っていること、信じられないかもしれないけど、本当のことなんだ……現にここにいるユウやコウ、そしてゆらちーと姉はリアルモジュールでキャラを作成し、この現実の変化に戸惑っているんだ」


「私もですわよ、タロさん」


「うん、リリィさんもリアルモジュールだったね」


 俺の真剣な言葉にキャラクリ組はしばし黙った。

 しかし、それも長くは続かず、決心した表情でハッキリと告げてくる。



「百騎のみんな、それにタロちゃんがそう言うなら、信じてみる……」


「そうでありんすね」


「天使ちゅわんの事は信じるわぁん」



 三人はこちらの言い分を信じてくれるようだった。

 ホッと胸をなでおろす俺に代わり、姉が再び会議の手綱を握る。


「では、今までの傾向からある種の仮説が一つ、ここに生まれる」


「というと?」



「まずゲーム内でのステータスが、現実に影響しているという点だけど……私やタロを見て欲しい。わたしはこのメンバーの中で最もレベルが高い。つまりステータスが一番高いはずだ」


 1レベル上がるごとにステータスポイントは100振れる。

 つまり、姉はレベル17だから1600ポイントはステータスに注ぎ込んでいるはず。


「たしかに……」


「わたしのステ振り比率はだいたい、素早さ4割、MP2割、力2割、あとは魔力や魔防、防御にランダムで振っている。けれど、17Lv分のステータス、1600ポイント分が現実で全て反映されているようには思えない。少し身体が軽くなった程度よ」


「つまり……?」


「レベルの高さではなく、一定のレベルまでしか現実でのステータス帰化は解放されてないのでは? という結論に至るわ」


「なるほど……レベルキャップ解放制みたいだな……」


 晃夜(こうや)が納得顔で頷いている。

 俺にはサッパリわからないのだけど……。


「そしてタロは知力にステータスを振っているのに、ごらんの通りだ」


 姉はクスリと俺に柔らかい笑みを向ける。

 それを見て、一同の硬直した態度が少しだけ軟化したように感じた。


「タロ、簡単に言うとボクたちの現実でのステータスは……うーんと、ゲームでのレベル3ぐらいに相当してるかもしれないってこと」


 よくわかってない俺に、夕輝(ゆうき)が噛み砕いて補足してくれる。


「だから、シンさんのようにゲーム内でレベルの高い人も、タロのようにレベルの低い人も、ステータスが現実に還元されてる値は変わらないってことだよ。二人とも300ポイント分だけってことかな? 正確は数値はわからないけれどね」



 なるほど。

 だから超人的な人間がわんさか現れるっていう事態は、今のところ回避されているってわけか。


「現時点で仮に3レベルまでのステータスが反映されているとして、何をきっかけにキャップが解放されるかわからないな……」


「それもある程度予測済みよ」


 晃夜(こうや)の疑問に姉は迅速に答えた。



「ゲームの攻略が進む度に、現実での侵食も進むわ」





新作始めました!


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特大級のハイファンタジーです。

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良かったら覗いてみてください。


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[気になる点] ミソラさんは味方に出来そうな? (まあ、300オーバーの作品の100話だが!)
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