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124話 それぞれの夜

今回は、夕輝と晃夜視点です。


 今日はビックリする出来事が多過ぎだったなぁ。

 花火大会が終わって家に帰り、さっさと寝る支度(したく)を整えたボクは、ベッドに寝転がりながらそんな感想を内心で漏らす。



訊太郎(じんたろう)が、銀髪の少女にねぇ……」


 ふぅと、胸につかえていた緊張を吐き出すように、息をつく。



 ゲームですっかりあの美少女っぷりを見慣れたつもりだったけど……実際に現実(なま)であの姿を目にしたら、なんだろうなぁ……とにかく可愛すぎて、形容しがたい複雑な気分になっちゃったなぁ。



 でも今まで通り、訊太郎は訊太郎として接することはできるし、問題はないかな。

 だけど、どうしても……あの幼い女神とか、天使を彷彿させるような姿を目の当たりすると、女の子になっちゃったんだなぁって意識させられてしまう。



「まぁ、でも。今度はボクが守る番なのかな……色々と……」


 いつも何だかんだ、訊太郎には面倒事を押しつけてたから。

 ボクの許容範囲を超えるような、他人の頼み事を断わらせる役目を甘んじて背負ってくれた訊太郎。彼には、けっこう守ってもらってきた。



「正直、あの姿で泣かれたらねぇ……」


 訊太郎がすごく思い悩んできたのは、蒼宝石(サファイア)の瞳から零れ落ちていた涙を見て容易にわかった。精神的にだいぶまいってたのかなぁ……と心配になる半面、ボクはある種の決意もしていた。


 二度と訊太郎にあんな顔はさせたくないね。



 あーいう姿に突然なってしまったのだから、訊太郎はこれからきっと、苦労すると思う。周囲の人間の反応や、環境、学校、いろいろとね。

 その時は少しでも親友として傍にいて、力になりたい。



 それには自分を自制しないといけないよね。

 中身が訊太郎(じんたろう)だってわかってても、あの可愛らしい泣き顔を見てドギマギしている自分がいたなんて……そんな風に感じてしまった自分に、嫌悪感すら抱くさ。


 訊太郎はこんなボクを望んではいない。

 今まで通り、男同士の友情を信じて、それを求めているんだ。



「ボクが、ボクたちが、訊太郎を守らないと」


 不意に、ボクの声に反応したかのようにスマホが振動した。

 タイミングがいいなと思いつつ、ベッドの脇に置いておいたスマホを手に取る。


 画面を覗きこめば、ソレは訊太郎からのラインだった。






「ア゛ーー……心臓が飛び出るかと思ったぜ……」


 そんな独り言を呟いてしまう程に、親友である訊太郎の変化を直接見た俺は、驚きに満ちていた。もやっとした気持ちを落ち着けるためにも、二段ベッドの上段でダラっと肢体を伸ばし、そして寝返りを打つ。



 今までは、所詮ゲームのアバター。

 可愛いキャラつかってんなこの野郎としか思っていなかった。

 バグにしたって面白過ぎるだろ、と。


 中身は訊太郎で、だからこそキャラの外見なんかさして気にすることなく、気軽にからかいを含めて接してこれた。

 とくに他意もなく、ネカマとして捉えていた。



 だが、フタを開けてみたらどうだ。

 訊太郎(じんたろう)が、天使みたいな銀髪の少女になってるなんてな……。



 花火大会で会ったアイツは、紛れもなく女の子だった。

 しかも年端もいかぬ、ゲームのキャラと全く同じ小学生中学年ぐらいの。


 そして超が付く程に美少女だ。あんなのが現実にいるのかってぐらいの美貌で笑えたぜ……親友がある日突然、神様だって言われても素直に頷きそうになる容姿になったとか、ほんと何の冗談だよ。


 中身は確かに訊太郎のままだが……あいつの綺麗な声が、あいつの綺麗な瞳が、こちらに向くたびに、変な緊張をしてしまう。



「はぁ……」



 訊太郎は俺達の態度が変化するのを恐れて、黙っていたのだろう。


 だから、今まで通りの対応を自分に言い聞かせ、あの場では何とか冷静に訊太郎に接することができた。


 だけどな。



「早い話、難易度が高いぞ……訊太郎(じんたろう)!」


 今じゃすっかりポーカーフェイスの腹黒な夕輝(ゆうき)なら、この手の芸はお手の物だろうけど。

 俺にはなかなかどうして、顔に出ないようにするのが難しい。

 意識すると、しかめっ面の一辺倒になってしまいそうだ。


「あれ、兄さん? まだ起きてたの?」



 そんな俺の独り言が耳に入ってしまったのか、二段ベッドの下で寝ていた弟がひょっこりと顔を覗かせてくる。


「あぁ、何でもない。起こしたのなら悪かったな」


「うーうん、大丈夫。ぼくの方は、クラン・クランをプレイしてただけだから」


「そうか……」


 そう言って、弟が目につけているであろうコンタクトレンズを見つめる。

 そしてふと、違和感に気付いた。


 たしかに、おかしい。


 こんなちゃちなコンタクトレンズで、あの壮大なゲームをプレイできるなど、全くおとぎのような次元の話だ。



 俺達はいつから、このゲームを自然に受け入れるようになってた?

 VRゲームであるにも拘わらず、仮想と現実を同時に認識しながら、ゲームが楽しめるなんて……現時点で人類が到達できる技術であるはずがない。



 神か?

 神のような存在がいるとして、これは神の仕業なのか?

 だとしたら、何が目的でこんな事を?


 わからないことだらけだ。



 だけど、これだけはわかる。


 訊太郎の怯え、震え、苦しんだ表情(かお)


 あいつは泣いていたんだ。

 ずっと俺達に言えず、不安な気持ちから逃れるようにゲームへ没頭し、ずっと泣いていたんだ。



 たとえ……コチラが内心では動揺しそうになってしまう程の美少女になってしまったとしても、訊太郎は訊太郎だ。

 

 性転化病はクラン・クランと何か関係がある。

 俺はそうにらんでるし、夕輝も同じように思ってるだろう。



 俺の親友を苦しめた元凶を暴いて、それ相応のけじめをつけてもらう。

 



「早い話、俺は、俺達は……一緒に乗り越えきゃいけない事が山積みってわけだ」



 そんな俺の声に応えるかのように、枕の横に放置していたスマホが振動した。


 こんな夜中に誰だ? と、いぶかしんだが、ソレが訊太郎からのラインだとわかってすぐさまアプリを開いた。



 内容は……。


『緊急会議をするから来てくれ! クラン・クランの〈輝剣屋スキル☆ジョージ〉に集合! うちに妖精が来てて、姉と話し合ったんだ』



 ……は?

 妖精って現実(こっち)でか?







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