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123話 妖精さん


「あ、遊びに来ちゃったの?」


「うんっ! 来ちゃったのー!」


 わ、わぁ……来ちゃったのか……。


 

「そ、そっかぁ……」


 嬉しそうに飛び回るフゥを見て、ソレしか言えなかった。

 部屋の電気を点ける気さえも起きず、暗がりの中で踊るように俺の周りをクルクルする『風乙女(シルフ)』を、ひたすら凝視してしまう。



「タロん? タロんはフゥと会えてうれしくないのー?」


 何の邪気もなく、純粋に不安そうな表情をされたら、そりゃあもうこう答えるしかない。


「うれしいよ。でも、ビックリしちゃって……」


「んふふー♪ 妖精がニポンに来たのはひっさしぶりだもんね!」


 にぽん……日本かな。

 あぁ、なんだか。頭がパンクしそうだ。






「姉……起きてる?」


 俺はフゥを引き連れ、姉が寝ている部屋のドアをノックする。


「なに、太郎? 入っていいわよ」


 許可も得たので、ゆっくりとドアを開ける。


「ちょっと話があるんだけど……」


「さっきのニュースが怖くなって、一人じゃ眠れなくなったの? いいわ、来なさい」


 そう言って、姉はペロリと薄い掛け布団をめくりながら、一緒に寝ようと誘ってきた。パジャマ姿の姉は、うん。俺がもし他人だったらヤバいだろうなーって思うぐらいの色香は放っていた。

 なんというか普段は凛としているのに、ゆるいパジャマのデザインのせいか、今はちょっとだけ幼く見える。けれど俺の身体とは違い、胸の双丘が、くびれた腰が、どうしても視線を吸いつけてしまう。


 って、そんな変な事を感じてる場合でもない。

 フゥにも姉の部屋に入ってもらわないと。


「えーっと……姉。驚かないでって言う方が無理かもしれないけど、その、驚かないで」


「なに、どうしたの?」


「ふ、フゥー、こっちにおいで」


 姉の疑問に答える代わりに、俺は『風乙女(シルフ)』を招き入れた。



「はーいッ!」


 すいーっと滑らかに、天真爛漫な笑顔で入ってきたフゥ。

 そんな元気爆発な妖精を見て、姉の目が点になった。


「わぁ! タロんのおねえさん、こんばんは!」


 中空でぺこりと頭を下げ、礼儀正しく挨拶をしてくる妖精に姉はしばらく茫然自失になっていた。



「は、はい……こ、こんばんは?」


 キョトンとしつつも、小首を傾げておずおずと返答する姉。


 いつもは泰然として、頼りがいのある姉だけど。

 今回ばかりはかなり動揺したらしく、不謹慎ながらも、珍しい態度が見れたと内心でおかしく思ってしまったのは秘密だ。






 まず最初に気になったのはゲームで俺と行動を共にするフゥと、現実(こっち)に現れたフゥは同一人物、生物かどうかって事だ。


「げーむ? なにそれ!」


 俺の疑問にフゥは何もわからないといった(てい)で、逆に質問されてしまった。


「えーっと、クラン・クランっていうVRゲームで……俺は『風妖精の友訊(ゆうじん)』というスキルを使って、フゥを召喚できるんだけど。それで、一緒に色々と冒険をしたり……記憶にない?」


 姉が俺の問いを補足するように、VRゲームとはなんぞやとフゥにわかりやすく噛み砕いて説明していく。

 それを聞いたフゥは目を輝かせ、心底興奮していた。



「なにそれ! すーっごく! たのしそ! タロんと探検!」


「えっと、一緒に冒険した記憶はないの?」


「んん? だってフゥは、げーむなんてしてないよ?」



 姉と俺は互いを見合う。



「じゃあ、どうして俺のところへ来たの?」


 もし仮にフゥが、ゲーム内のフゥと全く関係がないのならどうしてココに来たのだろうか?


「フゥだけ、仲間よりも早く進化したのっ! そしたら、タロんの事を思い出したの!」


「それはつまり、『風乙女(シルフ)』に?」


「うんうん!」



 たしか、ゲーム内でフゥが風乙女(シルフ)に進化したのは、スキル『風妖精の友訊』がLV15になった時だ。

 しかし、現実(こっち)ではもちろんのこと、俺はフゥと接点なんてない。そもそも、今日まで妖精がいるなんて思ってもいなかったし、間違いなく世界がおかしくなっていると感じている。それなのに、現実のフゥは俺に関する記憶があると?


「どんな事を思い出したの?」


「んーっとね、タロんは大事なお友達ってこと!」


「それだけ?」


「うん! それだけー! でも、とぉーってもじゅうようだよ?」


 うん、そこは重要だね。

 色々と……。


「ミソラがいうにはー、たましいのつながりがあるのかもーって! 『会いに行ってきなさい』って言われたん♪ だから来ちゃったん!」


 もちろん、たろんに会いたかっタンタカタン♪ と、姉のベッドの上でステップを踏み、華麗に踊り始めるフゥを見て俺達の疑問点は増えるばかり。

 


「ミソラさんも現実(こっち)にいるのか……」


「フゥちゃんの言ってる事を信じるならば……太郎、クラン・クラン内部で起こった事が多少なりとも反映されて、現実(こっち)に現れた生物にも影響を及ぼすって事ね」


 姉は結論を出したようだ。


 それから俺は次々に疑問に思った点をフゥに尋ねていった。

 なぜ俺だけがフゥに質問をするかといえば、姉が何を聞いても『ごめんなの、タロんいがいには言いたくないの!』の一点張りだったからだ。


 まず、フゥの住処(すみか)は『お空』という事だった。

 ゲームと同様であれば、ミソラさんの魔法で『宝石を生む森(クリス・テアリー)』が隠されているはずだ。それとなく聞いてみると、うんうん、とフゥは頷いていた。


 次に、テレビのリポーターが口にしていた日本人の贖罪(しょくざい)の意識についてだ。

 一体、日本人が何をしでかした事になったのだろうか。


 ゲームとのそれらしき繋がりを思い浮かべるのならば、先駆都市ミケランジェロ周辺の歴史だろう。古き時代、妖精と共生していたのがテアリー公のご先祖さま。そこへ、欲におぼれた人間の王が、妖精の作りだす結晶に目をつけて侵略したと。その際に、加勢するはずだった周辺の人族は、こぞって狂王に屈し手助けをしなかった。その罪を悔恨し、忘れぬように『妖精の舞踏会』を開いていたって設定だったはず。



「ニポンだけじゃない、人族、ぜーんぶこわいっ!」


「と、言うと?」


「いちばん、こわいの、えいごの人族っ!」


 フゥが言うには、人族から姿を隠すようになったのはおよそ2000年程前から始まったらしい。森の守護者であったエルフと一緒に、結界魔法を駆使して自分達だけの郷、『妖精の楽園(フェアリー・サークル)』を築いたそうだ。しかし、それでも普通に森の中で、人族と共生する集合体もしばしばいたようだ。


 日本でもごくわずかに人知れず生息していたのだが、1900年代前半にはみな『妖精の楽園(フェアリー・サークル)』に移り住んだらしい。

 どうして妖精たちが人族を恐れるのかと言えば、やはりソレは妖精が生み出す宝石が原因だった。

 ゲームでは特別な結晶だったけど、現実(こっち)では宝石なのか。

 その、妖精が生みだす富を巡って争いが絶えなかったようだ。


「えいごのとこ、いーっぱい木を切った。いろんなものつくってた。だから、えいごのとこの森の妖精たちは住むとこ、なくなったのん」


 辛抱強く聞き出すと、どうやらイギリスの事らしい。

 しかも産業革命期の話らしかった。

 わずかに残っていた英国の妖精たちもここで姿を消したそうだ。


「イギリンはまだいい。でも他のえいごのとこ、もっとこわい。おふねで来たとおもったら、さいしょから住んでた妖精どんどん殺していったの」


 これも細かいところまで質問すると、アメリカの話だった。

 先住民である妖精たちの宝石を奪い尽くし、出さぬならもっと出せと殺し尽くしたそうだ。先住民迫害と言えば、インディアンはどこにいったとツッコミたくなった。


「アメリンのお話はあまりしたくないん……」


 なんてこった。

 人類の歴史が、妖精って要素が加わっただけで、だいぶ変わったしまったように思える。大筋は変わってないけど、なんというか、こうもファンタジーな解釈で世界に妖精が定着しているとか、やばいと思った。

 


「どこもかしこも、宝石よこせ、せんそーてつだえ、ばっかり! だから、妖精はかくれたのん」



 そこは日本も例に漏れず、エルフの武志(タケシ)を模倣して武士と名乗る連中が群雄割拠して、熾烈な勢力闘争を繰り広げ続けた。

 

 その中でも『オダっちはいい人族!』とフゥが織田信長()しだったのが気になった。

 詳しく聞いてみると、織田信長はニポンで数十匹しか残っていない妖精と親しい仲であったらしい。妖精に知識を授かり、その知恵で世界は広いという事実を知り、妖精の宝石で富を蓄え、鉄砲を買いあさり武力を整えた。そして、誰でも自由に商売が行えるという『楽市楽座』など、商業の特権を持っていた当時の豪商たちを納得させる際にも、妖精たちの宝石は役に立ったようだ。


 妖精と仲良く(たわむ)れる織田信長さんとか、シュールすぎるぞ……ホトトギスの例え詩があるように『鳴かぬなら、殺してみせよう妖精さん』とか言い出しかねなそうなのに、妖精とは仲睦まじかったのか。



「でも、にぽんもアメリンとせんそー? で森もたぁーくさん切っちゃうし、妖精の力を借りようとしたから、こわい!」


 太平洋戦争の事ですかね。

 そのへんで日本を完全に見限った妖精は、一匹残らず姿を隠したようだ。

 

 ここまでのフゥの話からわかるように、政府は一般市民には妖精が残っている事を隠していた節がある。なにせテレビのリポーターは遥か昔に妖精はいなくなったと言ってた。

 でも実は、肝心な場面で政府の要人なり国の代表が、少数ではあるけど密かに残り続けていた妖精の力を借りるべく、協力を要請していたのかもしれない。



「ねぇ、太郎。だいぶ妖精さんたちの事は理解できたのだけど、そうなるとコレは非常にマズイんじゃないかしら」


 そう言って、姉はフゥを指す。


「マズイと言うか、驚きの連続で頭がパンクしちゃいそう……」



「わたしも同じ気持ちだけど、太郎、わかってるの? さっきのテレビリポーターが言ってた内容を検討するに、この子、フゥちゃんは国宝(・・)ものよ」



 確かにリポーターの興奮っぷりを思い出してみると、妖精の価値がとても高いと(うかが)える。



「しかも太郎。妖精たちに嫌われる人族の中で、あんたは唯一、こうやってフゥちゃんと普通にお喋りしたりできるの……この意味、わかる?」


「えーっと……」



「あんたが、『妖精大使』として、政治関係に巻き込まれる可能性だってあるわ」



「え!?」


 姉は深い溜息をついた。

 そして、さらに続ける。


「『虹色の女神(アルコ・イリス)』教会、『閃光石』というアイテム、ゲームステータスが全傭兵(プレイヤー)に現実で影響している可能性、そして妖精たちの出現……」


 今まで俺達が認識してきた、不可思議現象をまとめていく。


「ここまでの一連の出来事を吟味(ぎんみ)すると、一つの、とある仮説が成り立つわ」


 人差し指をピィンと立てる姉に、俺は首を傾げる。


「それは、どんな?」


「それを説明する前に、太郎……話の分かるあんたの親友二人と、他に信用のおける傭兵(プレイヤー)を集めて。この事について相談……会議を開くわよ」


「え? どこで?」


「クラン・クランに決まってるでしょう?」



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