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第83話 『理想郷』は遠く

「あんだけ撃つと肩が痛くなるわね。それとあえて助言しなかったけど、誠ちゃん今度の訓練の時はストック伸ばした方がいいわよ。肩が痛くなるけど腕への負担はかなーり違うから」


 本部の『運航部』の部長席に『特殊な部隊』の運行艦『ふさ』艦長が座っていた。


 アメリア・クラウゼ少佐は肩をさすりながら腕の筋肉痛で頬を引きつらせている誠を糸目で眺めた。


 誠から見ても結構、美女である。身長は180センチを超えるほどデカイ。そして、異様に目が細かった。


「アメリアさん。それ最初に言ってください!腕が棒みたいになったじゃないですか!」


 誠は筋肉の張りきった腕をさすりながら本心からそう思った。本部の『運航部』の大きな部屋は、彼女に言わせれば自分の『城』らしい。部屋の女子部員は隣の運航部のシミュレーションルームで訓練でもしているのか、誰一人いなかった。


「まあ、誠ちゃんはかなめちゃんが監督をしているうちの草野球のエースとして秋から頑張ってもらわなきゃならないんだから……そこだけは期待しているわよ」


「草野球チーム……そんなのあるんですか?」


 アメリアの意外な言葉に誠はそう返した。


「あるわよ……なんてったってここは野球の名門『菱川重工豊川工場』の敷地内にあるんだもの。ここの硬式野球部のOBを中心として近くの中小企業なんかを巻き込んだリーグが昔からあるのよ。なんてったって都市対抗野球に出場するような選手が腕が鈍らないように頑張ってるんだもの……誠ちゃんにはその強力打線を抑えてもらわなくっちゃ」


「そんな期待の仕方って無いんじゃないですか?もうちょっと任務に関することでも期待してくれてもいいじゃないですか」


 誠の反論にアメリアはあざ笑うような微笑みを浮かべる。


「期待ねえ……人生期待なんて持って生きない方が良いわよ。この東都共和国の世界を見てごらんなさいよ。世界が望んだように進むなんて幻想なんじゃない?全部の技術を地球に合わせて進化させようなんて偉い人達は考えて無いわよ。地球じゃ当たり前の飛行自動車もこの遼州ではお目にかかれないし」


 アメリアの言葉で誠は我に返った。


「確かに……将来は地球みたいに温暖化で大変なことがあるというのにガソリンエンジン車が走ってるなんて……地球の人達が知ったら卒倒するでしょうけど……そんなの石油が沢山とれるし、人口も地球よりはるかに少ないんだから当然じゃないですか?それに地球は当時人口が爆発的に増えてましたから。遼州はこの400年間人口が減ることはあっても増えたことは無いですし」


 誠は理系脳だった。


 彼の常識からしてみれば地球では実用化されている飛行自動車などSFの世界の話に聞こえていた。


 第一、彼自身が普通に四輪自動車の運転すらまともにできないのである。空を飛ぶ飛行自動車の制御など選ばれたエリートしかできないのは全く持って当たり前の話なのである。


 技術を二十世紀末から進めようとしない東和では、そんなエリートを養成する教習所など存在しない。つまり免許が出なければ、いくら重力制御装置で空を飛べる飛行自動車が実現しようが普及するはずもない。当然東和共和国には飛行自動車など販売の予定も無かった。


「地球人の真似して理想を追いかけるのも結構だけど、遼州流の足ることを知る生き方の方が気が楽よ」


 アメリアはいつものアルカイックスマイルを浮かべながらそうつぶやいた。




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