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武装警察隊ダグフェロン 地球に侵略された星の『特殊な部隊』はハラスメントがまかり通る地獄だった  作者: 橋本 直
第十四章 二日目の職場

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第73話 体力の限界への挑戦を誓わされる

 夏の長い日も夕暮れに染まり、まもなく終業時間を迎えようとしている。


 隊長室を出たランは技術部員情報関係を統括する大尉の最敬礼に見送られて本部の階段を下りた。彼女はそのまま建物の玄関を出ると、実働部隊のグラウンドに足を向けた。


そこには朝彼女から受け取った高校時代のジャージを着た誠がランニングをしていた。


 午前中は誠一人が走るだけだったが、午後は部隊全員の体力強化のためにランニングが課せられている。


 そんな部隊の隊員達の中、体力は人並み以上な誠は圧倒的なスピードで他の『特殊な部隊』の他の隊員を引き離して疾走していた。昼休みや午前と午後に1時間あった休憩時間を除いて、もう5時間も誠は走り続けていた。


 その後に続くのは『戦闘用人造人間(ラスト・バタリオン)』で唯一この『特殊な部隊』のカラーに毒されなかったパーラ・ラビロフ中尉が続く。


 考えてみれば、午前中からランニングを続けてきた誠がパーラの前を走っていることがある意味、誠のタフさを示しているとは言えた。高校を卒業してから5年のブランクがあるとはいえ、そのタフさは見守るランを十分に満足させるレベルのモノだった。


 一方、他の『特殊な部隊』の隊員の過半数は歩いていた。


彼等にとって午後に課せられる退屈なランニングは『面倒』そのものなのである。アメリアがその先頭を『馬鹿歌』を歌いながら歩いている。その隣では島田が自慢げに話す姿を見てサラが爆笑していた。


 さらにその後ろには島田の『手下』の技術部員が続く。彼等がそこにいる原因は島田の前を歩くと、彼に何をされるかわからないからである。


 ランがグラウンドの中央を見ると、残りの女子と技術部の将校達が誠の走る姿を見守るばかりでそもそも歩くことすらしていなかった。


「なんだ、神前もちゃんとトレーニングしてるじゃねーか」


 小さな上司、クバルカ・ラン中佐に駆け寄ってきた誠とパーラに向けてランはそう言い放った。ランにとって新人の誠だけ走っていれば、あとはどうでもいいのである。


一人、誠に付き合って軽いジョギング程度の速度で走っていたパーラはグラウンドに現れたランの姿を見つけると。いつものランの『新人のみ徹底教育モード』を理解しているので、まじめにランニングをした自分を恥じた。


「元気だな!まだ走れるか?」


 満足げな笑みを浮かべながらランは大声で誠に話しかける。


「……クバルカ中佐……僕は長距離はちょっと自信があるので……」


 小さなランの前で誠は息を切らしながらそう言ってほほ笑んだ。


「そーだな。体力は認めてやる。その体力があればどこでも生きていける。『作業員』として」


 ランの前まで来て立ち止まって肩で息をする誠向けて、ランは誠の全く望まない評価を下した。


「僕、『作業員』になるために大学を出たわけじゃないんですけど」


 ようやく息が落ち着いてきた誠はそう言ってパーラに視線をやった。パーラも誠が立ち止まったのを確認すると同じように軽く息を弾ませながらとりあえず立ち止まった。


「クバルカ中佐、私は……水分補給してきます」


 パーラはランにそう言って立ち去る。


 パーラは誠を『偉大なる中佐殿』と呼ばれるクバルカ・ラン中佐に『生贄(いけにえ)』として差し出した。これから始まるであろう誠に対する説教に巻き込まれることだけは避けたい。パーラの後姿にそう書いてあるのを誠は見逃さなかった。結局、人間は自分がかわいいのである。


 その小学校低学年と言った体形のランに対して、大男である誠がすまなそうにしている様ははたから見れば異様に見える。しかし、ランの鋭い眼光ににらまれた誠はまさに『蛇に睨まれた蛙』と言える状態だった。


「神前。何周走った?」


 『偉大なる中佐殿』はそう言って誠を睨みつけた。瞳は情熱に燃えていた。


「五十周くらいですけど……」


 仕方がないので誠はそう言った。一周、400メートルのグラウンドである。当然二十キロ以上走ったわけである。


「午後の終業時間まであと一時間ある。その間、ずっと走り続けろ」


 ランの目は完全に『体育会系』そのものだった。


 助けを求めようと、誠は背後にやってきた、『特殊な部隊』の隊員達に視線を走らせた。


「頑張ってね!誠ちゃん」


 歩いていたアメリアは余裕の表情で誠にそう言った。先輩隊員達は完全に誠を『鍛える』と言うことで意見が一致しているようだった。


「そうだ、神前。走れ!飽きたら『うさぎ跳び』。それが飽きたら『千本ノック』。タイヤを引いて足腰を鍛えるのもアリだ」


「そんなことしたら僕の身体でも壊れちゃいますよ!」


 高校時代にも腰に悪いと禁止されていた『うさぎ跳び』を勧めてくるランが『精神至上主義』の高校野球の監督の『孫娘』に見えてきて誠はたじろいだ。


「多少勉強ができるだけの『モヤシ』には書類仕事しかねーんだ。真の戦いの世界は『根性』、『気配り』、そして『体力』。この三つがあればいーんだ」


 そう言ってランはグッと右手を握りしめて誠に差し伸べた。


「結局……僕って……」


「いーじゃねーか!オメーにはたぐいまれなる『体力』と言う宝石が眠っている!それを磨け!鍛えろ!その先に道は開ける!」


 ランの狂気の励ましに誠はただあきれ果てた後、仕方なくランニングを再開した。その理由は誠もさすがにうさぎ跳びや千本ノックは嫌だったからである。


「とんでもないところに来ちゃったみたいだな……」


 誠はそうつぶやくとランの説得をあきらめて再び走り始めた。




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