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第5話 『奇才』の演説

 そんな『将来の幹部達』の狼狽する様を嵯峨は笑顔で見渡した。その笑顔は狂気よりも落ち着きを払い、いかにも楽しそうな表情だった。


「はい!みなさん。なんだかみんな俺のしたことに相当驚いてるみたいだねえ……。折角の首席の卒業証書を破るなんてもったいない?」


 悪戯に成功した子供のような笑みを嵯峨は浮かべている。会場は相変わらずどよめきに包まれてはいたが、嵯峨の暴挙を止めるにはその暴挙はあまりに意表を突いたものだった。


「首席の卒業証書がもったいない?式典で無茶は止めろってか?それならアンタが俺よりアンタ等が優秀だったら式は何事もなく俺の出番も無かったわな」


 そう言って嵯峨は会場を見渡した。それまで光が無かった嵯峨の目に狂気のこもった光が差しているのに気づいた会場の卒業生達は、ざわめきを止めて沈黙した。


「俺が首席になった以上、戦争狂の任命の為の紙切れなんて意味ねえよ。……全く話になんねえ奴等ばかりだな、アンタ等は……本当にアンタ等の頭の中には脳味噌詰まってるの?犬の糞でも入ってんじゃねえのかな?」


 嵯峨は皮肉めいた笑みを浮かべてちぎった卒業証書の破片をまき散らした。


「じゃあ、この中で戦争をしたい人!手を挙げて!……恥ずかしがらなくても良いよ!元気よく手を挙げて!馬鹿なアンタ等にも手を挙げることくらいはできるだろ?恥ずかしがらずにほら!早く上げなよ!」


 『甲武国一の奇人』。


 嵯峨と言う男は、常にそう評される男だった。陸軍大学校には彼の友人が務まる人物など一人もいなかった。いつも一人で行動し、最高の成績を上げる。それが嵯峨と言う男の最大の特徴だった。


 壇上で一人ほくそえむ嵯峨。それを唖然として見上げる卒業生達。それにしてもこの光景はあり得ないものだった。エリート中のエリート。軍の力が強い甲武において、嵯峨の立ったスタートラインは将来を約束されたものだった。それを平然と反故にしてみせる。そんな嵯峨の突拍子もない提案に会場の陸軍関係者全員はこの『陸軍大学校首席』の男に唖然(あぜん)とした。



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