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武装警察隊ダグフェロン 地球に侵略された星の『特殊な部隊』はハラスメントがまかり通る地獄だった  作者: 橋本 直
第四十章 戦地

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第172話 緊張感の無い連中

 ヘルメットを抱えたままかなめが喧騒の中へ突き進んでいく。その姿がなぜか神々しくもいとおしく感じられるのを不思議に思いながら誠はかなめの後に続いた。


『なんだか西園寺さんが綺麗に見えるな。これはつり橋効果ってこう言うものなのかな』


 誠には柄にも無くそう思えた。


 格納庫に入ると作業がもたらす振動で、時々壁がうなりをあげた。誠の全身に緊張が走る。作業員の怒号と、兵装準備のために動き回るクレーンの立てる轟音が、夢で無いと言うことを誠に嫌と言うほど思い知らせる。


「おう!着いたぞ!」 


 かなめがすでに時刻前に到着していたカウラに声をかける。


「問題ない。定時まであと三分ある」 


 長い緑の髪を後ろにまとめたカウラは、緑のヘルメットを左手に持っている。


「整列!」 


 カウラの一言で、はじかれるようにして誠はかなめの隣に並ぶ。


「これより搭乗準備にかかる!島田曹長!機体状況は!」 


「若干兵装に遅れてますが問題ねえっすよ!時間までには何とかします!」 


 05式向けと思われる230ミリロングレンジレールガンの装填作業を見守っていた島田が振り返って怒鳴る。


「各員搭乗!」 


 三人はカウラの声で自分の機体の足元にある昇降機に乗り込んだ。誠の05式乙型の昇降機には隊で最年少の西と呼ばれる二等技術兵がついていた。


「神前少尉。がんばってください!」 


 よく見ると西の作業用ヘルメットの下に『必勝』と書かれた鉢巻をしているのが見える。そこから彼が伝統を重んじる甲武国出身だと言うことがわかった。後輩の誠はこの『特殊な部隊』に配属されて初めての『尊敬』の視線に見つめられながらコックピットまで昇降機で誠を運んだ。


「わかった。全力は尽くすよ」 


 目だけで応援を続ける西にそれだけ言うと誠は自分の愛機となるグリーンの飾り気の無い機体に乗り込んだ。彼が合図を出すのを確認して誠はハッチを閉める。


 装甲板が下げられた密閉空間。


 誠の手はシミュレータで慣らした通りにシステムの起動動作を始めた。


 計器の並びは訓練課程最後に乗った練習機と同じで、すべて正常の数値に収まっていた。


 それを確認すると誠はヘルメットをかぶった。


『神前少尉。状況を報告せよ。また現時刻より機体名はコールナンバーで呼称する。アルファー・スリー大丈夫か?』 


 画面の中では珍しく緊張した面持ちをしているランから通信が入った。


「アルファー・スリー、全システムオールグリーン。エンジンの起動を確認。三十秒でウォームアップ完了の予定」


 それだけ言うとモニターの端に移るカウラとかなめの画像を見ていた。


『どうだ?このままカタパルトに乗れば戦場だ。気持ち悪いとか言い出したら逃げる犬っころみたいに背中に風穴開けるからな!』 


 かなめはそう言いながら防弾ベストのポケットからラム酒が入っているだろうフラスコを取り出し口に液体を含んだ。かなめの通信にはカウラの車の中でかなめがいつも流している『昭和』の女性の歌手の曲が流れていた。


『アルファー・ツー!搭乗中の飲酒は禁止だぞ!それにいつも言っているように戦闘中は音楽を流すな。集中力が削がれる』 


『飲酒じゃねえよ!気合入れてるだけだ!それにアタシはこの曲を聞いていないと命中率が下がるんだ!』 


 あてつけの様にかなめはもう一度フラスコを傾ける。カウラは苦い顔をしながらそれを見つめた。




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