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第118話 待ちに待った専用機

「来たぞ!」


 背後からの女性の大声に驚いたように誠は振り返った。


「何がですか?一体、何が来たんですか?」


 そこはいつもの司法局実働部隊機動部隊詰め所である。夕方の西日が厳しい時間帯に、その机でぼんやりとたたずんでいた誠に声をかけたのはかなめだった。


「決まってんだろ?オメエの機体だよ!待ちに待った専用機だ!もっと嬉しそうな顔しろよ!」


 かなめはまるで自分の待っていた機体がやってきたかのように嬉しそうにそう叫んだ。


「ついに来たか。行くぞ、神前」


 端末に何かを入力していたカウラがかなめの言葉を聞くと素早く立ち上がった。


「僕の機体か……」


 誠も少しワクワクしながら立ち上がりかなめとカウラの後に続いて詰め所を出た。


「でもあれか?もう機体に描くノーズアートとか決めてんのか?」


 振り向いたかなめは悪戯でもしたかのような笑みを浮かべて誠に尋ねてくる。


「ノーズアート?あれですよね、機体に絵を描く奴……それって普通エースじゃないとやっちゃいけないんじゃないですか?」


 遠慮がちにそう言う誠の肩をかなめは叩きながら話を続ける。


「そんなのはったりだよ……オメエは操縦が下手だから少しでも強そうな絵でも描いときゃ相手もビビるだろ?その分生存確率が上がる」


「その操縦が下手な神前に格闘戦オンリーだったとして負けたのはどこの誰かな?」


 珍しくいつもの無表情から皮肉めいた笑みに顔を変えてカウラがかなめに笑いかけた。


「カウラ!テメエ!あれはまぐれだ!次は必ず勝つ!」


 誠に向けていた笑顔が急変し、かなめはカウラを怒りの表情でにらみつけた。


「お二人とも……冷静に……」


 なんとか誠が間に入って二人はそれ以上のいさかいをすることはなく立ち上がった。


「それじゃあハンガーに行くぞ」


 まるで専用機が来たのは自分であるかのようなご機嫌なかなめはそう言って誠達を連れて機動兵器『シュツルム・パンツァー』の置かれているハンガーに向かった。


 三人がたどり着いたハンガーの中には大型のトレーラーが待機していた。


 トレーラーの運転席の脇には隣接する菱川重工豊川工場の制服を着た技術者と会話をしている技術部整備班長の島田正人曹長の姿があった。


「島田先輩!」


 誠は菱川重工の技術者との会話を終えた島田に声をかけた。


「おう、神前と……まあ皆さんお揃いで」


 茶髪の白いつなぎを着たヤンキー風の島田がニタニタ笑いながら声をかけてきた。


「機体……どうなんだ?」


「ベルガー大尉。どうもこうも……例の『法術増幅システム』ってのが……ねえ……」


 カウラの言葉に島田は少し不機嫌そうにそうつぶやいた。


「『法術増幅システム』……それなんですか?」


 島田の言葉が理解できずに誠はそうつぶやいた。


「うちで採用している05式は重装甲が売りなんだ。ともかく装甲が厚い。大きく三つの層で構成されたハニカム装甲がレールガンの直撃を防ぐって寸法なんだが……この神前の専用機の『05式特戦乙型』にはその真ん中の層に『理解不能』な素材が使われてんだ」


 島田は少し困ったような調子でそう言った。


「『理解不能』な素材って!オメエは技術屋だろうが!そんくらい理解しとけ!神前は『法術師』だ。その『素質』を発揮するための素材だろ?材質は何だ?言ってみろ!」


 いつになく遠回りな言い方をする島田の言葉にキレたかなめがそう叫んだ。


「西園寺さん……そんなこと言われても困りますよ……なにせ、俺の技術屋としての『師匠』に当たる人から『いじんないでね!材質も機能も今は秘密だから!』って言われちゃいまして……『法術』の発動した時の反応については勉強しているはずのひよこちゃんまで『大丈夫ですから。機能は保証します』の一点張りだぜ……そんなに信頼されてねえのかな、俺」


 島田はそう言いながら困ったような表情でカウラに目を向けた。


「おそらくクバルカ中佐なら知っているだろうが……」


「教えねえ!」


 つぶやくカウラの背後から声がして全員がそちらに目を向けた。


 そこにはちっちゃなクバルカ・ラン中佐が腕組みをして立っていた。


「中佐……そこを何とかなりませんかね……俺達がいじるんですよ、こいつを。もしその『法術増幅システム』とやらが暴走とかして神前の身に何かあった時にはどう対処するんですか?こいつをいじる俺達がそれを知らなきゃ対策の立てようがない」


「その心配はねー!それにこいつになんかあった時はアタシが責任を取る!それがアタシの役目だかんな」


 そう明言するとランはそのままちっちゃな体でトレーラーの前に立った。


「こいつはこれまで存在したどのシュツルム・パンツァーにも無い一部の遼州人にとっては『画期的』なシステムを搭載してるんだ。いずれアタシの機体にも同様の装備をする……まあ、予算が付いたらだけど」


 ランはそう言って小さな胸を張った。予算の話が出てくるのがいかにも冷遇されている『特殊な部隊』らしいと誠は納得した。


「それじゃあいつまでたってもつかないですよ!発足以来機体にかける予算が出たことなんて一度も無いじゃないですか」


 ランの言葉に島田がツッコミを入れた。


「そう言うわけだ。神前!こいつをカウラの機体の隣に立てろ。空いてんだろ?シュツルム・パンツァーを立てる場所があそこに」


 そう言ってかわいい指でランはカウラの電子戦専用機の隣のシュツルム・パンツァー用のエレベーター付きデッキを指さした。


「へ?いきなり僕がやるんですか?」


 誠はランの言うことがすぐには理解できずに聞き返した。


「このトレーラーは菱川重工豊川の備品なんだよ。いつまでもここでテメエの機体を載せたまま待機させとく訳にはいかねえんだ。その間の延長のレンタル料……うちの予算で出せって言うのか?」


 島田にそう指摘されて誠は仕方なくトレーラー前部の梯子を上り始めた。


「オートでやってもいいぞ……まあ自信が無ければの話だけどな!」


 明らかに挑発気味にかなめはそう言った。


「僕だってパイロットなんですよ」


 自分自身に言い聞かせながら誠はそのまま緑色の自分の05式特戦のコックピットのハッチを開けた。


「へー……やっぱりシミュレーターとおんなじ作りなんだな……僕には狭いかな……」


 そう言いながら誠はコックピットに乗り込む。ちょうど天井を見上げるような形で誠はシートに身をゆだねる。



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