《1-3》
アルマーダ、という技をご存知だろうか。ブラジルに伝わるカポエイラと呼ばれる格闘技であり格闘技ではない武術(仮)の技だ。
特に特筆する事はなく、アルマーダは俗に言う後ろ回し蹴りに似た技の事を言う。
俺がヤツ、[ワーヴォルク]に食らわせたのもそのアルマーダ(後ろ回し蹴り)である。
それがだ。それがまさかこんな災害まがいな結果を引き起こすとは誰が思えようか。いいや、誰も思えやしない(反語)。
だからなのだ。この世界に来て今までで一番予想だにし無かったその光景に、俺は暫しの間呆然とする他無かった。
どれくらいの間立ち呆けて居たのか。体感では長く感じたが。
ずっと呆けて居ては始まらないと、どうにかこうにか目の前の現状を飲み込み、頭の中を整理する。
迫る[ワーヴォルク]。戦う決意をする。そして襲いかかって来た[ワーヴォルク]の顔面辺りにアルマーダを叩き付ける。そしたら環境を破壊。……全然飲み込める気がしない。
ただし、ただしだ。こうなる事は冷静になってみれば予知出来たのでは無かろうか。
何せこの俺、明蘭木夕眞の体は、前世と変わらぬ明蘭木夕眞の体であって、前世とは天と地の差もある体なのだ。
その証拠が最初の、体の軽さの発見だったのだから。それがどうして体の軽さだけだと勘違いしていたのか。
体の軽さが変わったと言う事は、体の構造が変わったと言い換えても何ら可笑しく無い。
それを俺は勝手に思い込んで……実に間抜けな話だ。
最初から一発殴ればどうにでもなった相手に命の危機を感じ、本気で攻撃を躱し、脳内回路が焼き切らんとする程に頭を回転させて。滑稽だ。情けなくて笑いが込み上げてくる。
でもである。もし気付いていれば俺はこの先どうなっていただろうか。こんな緊迫した空気を体験出来ただろうか。
あの狼モドキは一蹴りで済んだがこれから先それで済まない相手だって沢山居るに違いない。そんな時に今日の体験が実になる事も、有るのでは無かろうか。
今回の反省は、反省点でもあり、好評価点でもある。命の遣り取りの空気。死ぬ瞬間の空気。それらを体験出来たのだから。
そうだ。得をしたんだ。馬鹿な思い出と共に経験を得たのだ。そう思うとさっきまで飲み込めなかった現状を飲み込む落ち着きが出て来た。
……さてと。心中で一息ついた俺は、もう一度目の前の光景に目を向ける。
抉れた大地。風が吹き、それに揺らされていた草たちは見る影もなく。
そして最大の問題点が離れた位置に転がっていた。
爆風、そして爆撃並みの威力の攻撃を受けた[ワーヴォルク]。その[ワーヴォルク]が遠く離れた位置で眠っていた。ピクリとも動かない。永眠だ。
それもその筈。なぜならあの狼モドキ、既に原型を留めて居ないのだ。
当然と言えば当然だろう。足を振るだけの動作で起きた風で草原を抉るのだ。足が直撃した[ワーヴォルク]が原型を留めれ無いのも無理の無い話だ。
無理の無い話なのは分かっている。しかしだぞ。この[ワーヴォルク]は俺の、この何も持たない俺の唯一の食料だったんだ。それがこんな無惨な姿になっちまったら食えねぇじゃねぇか……!
幾ら自業自得とはいえこれは無慈悲では無かろうか。
胸中では悔しさが渦巻く。無論何時までも落胆している訳にも行かない。今は気持ちを切り替えてどうにか別の食料確保の手段を考えよう。
思い付く方法は余り無い。そして思い付くそのどれもが不確定な方法。五割どころか三割以下の確率である。
それもこれも知識足らずが影響している。
もしも俺が今居る場所が分かっていて、もし周辺に村や町が顕在すると認知していたならば、そこへ向かえばいい話。それが出来ない、いや、分からないのも知識不足が招き起こしていること。
せめてどの方向に俺を除く生物が居るか分かれば歩き出せるのに。周囲を見渡しても大草原の齎す地平線で。
ホント、実に面倒な場所に飛ばされたものだ。
この借りはきっちり返させてもらうからな、ファーレ。
小さな怨恨を胸に仕舞いつつ、[ワーヴォルク]から意識を逸らすと、視界にある表示が目に入った。
視界の中央よりやや右寄り。距離的には手前辺り。その位置に、こう表示が有った。
――――〈50GP獲得〉――――と
アルマーダ
カポエイラの技で、本文説明通り後ろ回し蹴りと酷似した技。
夕眞の行ったのは空中でのアルマーダとなる。
メモ
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