プロローグ
※[]内必読
[更新が途轍もなく遅いです。もうホント読む漫画とかやりたいゲームとかなくてかつ仕事の合間に書いてますんで亀更新です。鈍足です。いやホントに。更新日も気まぐれですので読まれる方には御迷惑掛けますが諦めて下さい(何をだよ)]
初めましての方は初めまして。世渡βです。
この度はこの拙作に目を向けて頂きありがとうございます。
プロローグの字数は増量あって約一万ですが、そのどこにもファンタジーバトルは有りませんので、流し読み程度が丁度いい……んですかね?(笑)
何にせよ楽しんで頂けたらと思います。
――二十歳になった。
――そしてその日に死んだ。
思えば呆気ない人生だった。普通のごく一般的なノーマルの中のノーマルな家庭に生を貰い、幼稚園、小学校、中学校と社会の流れに乗って過ごし、適当な近くの進学校に入って、んでキャンパスライフに突入。
親友と呼べる者や、友人もそこそこ、交際とかそう言うのは全く無く、俺は平々凡々と過ごしていた。
何気ない日常、色褪せも、また光もしないような変わらない毎日。特に何がある訳も無い、そんな人生。
あぁ……、俺はこのまま死んでいくんだな。何も無く、面白くもなく、刺激がある訳も無い、そんな毎日を無限ループで生きていくんだな。
――――そう思うと嫌で嫌で仕方なくて。
だから俺は、変わろうと思った。もうたくさんだ、友人らには悪いが、こんな代わり映えの無い毎日を過ごすのはうんざりだと。
なんて事で、俺は変わる決意をした。
その矢先だった。赤信号の横断歩道――信号をちゃんと見ていないのか、はたまた信号が明滅時に渡ったのかは定かではないが、信号無視でゆっくりと渡り歩く少女が居た。
その光景に、俺は走り出した。少女に迫り狂う大型の箱トラック。目でも悪いのかそれとも高さ的に良く見えないのか、これもまた定かではないが、その箱トラックに止まる気配は微塵も無かった。
少女が轢かれる。
そんなあと一歩、いや、半歩手前で、
ドンッ。
ふわりと少女の体が宙を舞う。少女の体はたまたま対向車の来ていないレーンに落ち着き、そして――
――バコォンッ!!!!
俺の体が、砕け壊れる音を響かせながらに、遥か離れた位置に…………着地した。
その時にちらっと見えた少女の表情は、これ以上無く驚愕と、そして狼狽した様子を見せていた。
こうして俺の代わり映えの無い、平凡な毎日の終末は、少しだけ意味ある人生へと昇華してくれた。
目が覚める。……目が覚める? そんな行為に俺は疑問を抱く。
確か俺は大型の箱トラックに轢かれて、それで体から尋常じゃない音が出て、死んだ筈である。
いやまぁ自身が死んだかどうかなんて分からないが、なら俺は死んでなくて、ギリギリのところで一命を取り留めたのだろうか。
そうするとここは病院か?
……ただ何だ、この感覚は。
説明のしにくい妙な違和感を感じる。
重い瞼を開き、自分の今居る場所を確認する。
白。――それが俺が目を開き感じた第一印象だった。
目の前に広がる景色。
それは完全なる真っ白な世界。
四方八方そのどこを向いても、白しか見えない。
強いて言うならば、俺自身の体しか見えない。
その俺自身にも、おかしな現象が起きている。
感覚的にはその場に寝ている体。しかし真実は少し違った。俺の体は寝ているんではない。なんと……浮かんでいるのだ。
……もし俺でない誰かがこれを聞いたら即座に変人扱いを受け兼ねないが、虚言ではなく、紛れもない真実で、それ以上もそれ以下も無い。
実際に手を後背部に回してみるが、何かに触れる気配は全く無く、ただただ空気を裂いているだけ。
一体全体何があったんだ。俺は死んだんじゃないのか。そんな思いが胸中を渦巻く。
そんな時だった。俺以外の声が聞こえたのは……。
「貴方は死にました」
高いキー。男ではないその声に、激しく戸惑う。
自分以外にも誰かいる、その事実がまさかここまで動揺させるとは。それ程に何も無いと思わせる場所なのだ。
「(誰だ……? ってなんだコレ、声が……)」
誰だと問おうとした俺の口は、開きはするが発声されない。声が出なくなったのだ。
「あなたは今、辛うじてその体を保っています。ですのである程度不自由な部分が有るのです」
また、凛とした声。一体どこから聞こえているのか分からないその声に、俺はどうしてか納得する。
不自由な部分。それがこの声が出ない原因か。しかし辛うじてその体を保っていますとはどういう事だ。自分の体に何が起きているんだ。
一つの疑問が解消されたと思えば、また更なる疑問が襲い掛かる。そもそもここは何処なのか。何が起きているのか。この声の主は誰なのか。
挙げれば挙げるほど尽きる事の無い疑問。それらをこの謎の声が、答えたのだ。
「ここは生と死の狭間の世界。貴方は事故でその生涯を終え、ここに来たの」
生と死の狭間の世界。それなんて漫画の世界だよ。実にアニメチックな場所じゃねぇか。
というよりもこの声の主は俺の心を読めるんだろうか。俺の疑問に的確に答えてくれるが。
「私は世界を創造する力を持つ者。貴方に少しお話があり、お邪魔しているの」
世界を創造する者ねぇ。ホント何なわけコレ。新手のドッキリ? それとも夢か? ……なわけ無いか。夢ならまだしもドッキリでこの浮遊感は説明出来んし、夢にしてもリアル過ぎる。ま、リアルのように見せるのが夢なんだが。
「貴方が助けた少女。彼女は私の生み出した、世界を記録する為のモノ。本来であれば彼女は誰にも見えないし、誰にも触れる事の出来ない存在」
少女って言うとあの赤信号で横断してた子のことか。成程、あれは実は人じゃなくて自称世界を創造する者が創り出した存在で、見る事も触れる事も出来ないと。
非現実的な話ではあるがそれならあの状況には納得出来る。話を飲み込む事は未だ出来やしないが。
「そんな彼女をどう言ったわけか見て、触れる事の出来た貴方は、この私ですら分かり得ない存在なの」
創造する者なんて大層な存在でも分からない存在ねぇ。簡単だろう。一般的家庭に生を持ち一般的な日常を過ごして来た完全ノーマルな人間だわ。
これと言って特筆した部分は見当たりませんぜ。
「貴方が誰であれ、貴方は死に、貴方が死んだ原因に間接的とはいえ関わっている私は、貴方にお詫びを込め、お話に来たわけです」
さっきも言ったな、話が有るって。
それで話ってのは何なんだ。生き返らせてもっかい人生送らせてでもくれんのか。なんつー考えを持つ。そんなわきゃ無いと思いながらも少し希望を持たせた俺の心情は、当たらずとも遠からず、だった。
「貴方にはもう一度、人生を送って貰いたいと思っています」
ですが、と彼女は続けて、
「残念ながら貴方の生前である地球に帰ることは不可能です」
どうしてなのか。全てを創造する力を持つ者ならば、そんな可能不可能とか無いだろうに。
その疑問はすぐ様彼女の答えで消え去った。
「私は貴方がたで言う神様です。正確には女神です。そんな私含む多くの神にも親が居ます。総てを可能とし、不可能という文字の無い完璧なる存在、最高神様が」
女神様の話は分かりやすかった。
最高神の創ったルールは如何なる存在であろうとも破る事は出来ない。
最高神は魂に関するルールに関しての取り決めは厳しく、一度死んだ魂を死んだ場所に連続して送る事を不可としている。
理由としては、再び同世界へ魂を送ると魂の持つ記憶が目を覚ましてしまう可能性を秘めているからだ。
無論そんな可能性は天文学的なもんではあるが、それを良しとはしない最高神は、そのルールだけは幾星霜の年月を経てもなお変える事は無かったという。
とまぁそんな具合の理由によって、俺は別世界へと送られる訳だ。
ただ話を聞く限り俺は俺の魂で別世界に行く訳だから結局はその最高神様のルールってのに反しているんじゃないだろうか。
「鋭いですね。勿論それに関しての対策は問題有りません」
自信満々だな女神様は。ならその対策を聞かせて頂きますかね。
「――貴方はこれより私直属の部下となります」
………………………なぬ?
……待て待て待て待て。今この女神様はなんて言ったんだ。まさか二十歳なのに難聴になったか?
俺には今部下になれって聞こえたんだが……。
「部下となります」
どうやら俺の心から読み取って再度言ってくれたらしい。だがちょっと待って欲しい。
俺が死んだのは(間接的とはいえ)女神のせい。もう一度人生を送らせる。ただ元の世界には返せない。他の世界にも普通に送れない。だから部下になれ。
はいここ。ちょっと待って欲しい。おかしくはないだろうか。いくらどんな神の事情が有るかは分からんが、どうして俺が別世界に行く為に女神様の部下にならんといけんのだ。
「それには当然訳が有ります」
当然だわな。これで意味なく部下になれって言ってんだったら俺はもう見境なく殴りかかってたわ。神だろうが女だろうがな。(殴りかかる対象は居ないがな)
「貴方がもし私直属の部下であれば、私の管轄である世界に貴方の状態で居てもおかしくはない、と言うわけです」
神事情が何かは知らんがこう言うって事は恐らくそうなんだろう。
しかし幾ら神様とは言っても部下だぞ部下。直属とはいえ部下だぞ。そんなもんはなから答えは決まっている。
「(俺はあんたの部下になる気は更々無い!)」
却下である。どんな神事情にせよ俺は部下になる気は無い。俺は地球じゃ一番上下関係ってのが大嫌いなんだ。
尊敬出来ない奴にはタメ口。
先生だろうが嫌いなら暴言。
先輩後輩の関係なんてもっての外。
こんな性格のせいで敵も少なくは無かったが、俺はそれまでに上下関係が嫌いだったんだ。
仲いい後輩に敬語使われたら腹立つね。それ(敬語)がソイツに似合ってるんならまだしもよ。
そんな俺だ。幾ら神様っつう大層な存在とはいえ部下に成り下がる気は無い。
「そうですか。ですがそうしなければ貴方を送る事は出来ません。それとも他に方法が有りますか?」
思い付くわけあるか。こちとら地球生まれの地球育ちの一般人だ。神でも思い付かないルールの抜け道を俺が思い付ける訳が有るわけ無いだろ。なんて駄目な方向で胸を張って思う。
ただ問題に関しては解決は可能だ。要は立場を変えれば俺としては問題無いわけなのだから。
「(俺が嫌なのは部下っつう立場が嫌なだけだ。だから協力者だとか、関係者だっつう立場であれば特に文句は無い)」
そう。こちらが断り嫌うのはただ一点、上下関係だ。部下でなく協力者とかそういった対等な関係性であるならば異論なく賛同してやろう。
「成程……。女神である私と同等を望みますか。そうするとそれなりの対価が必要となります」
対価か。そりゃそうか。平凡な人間が高尚な女神様と同等である事を望むならそれなりの対価が必要なのは理解出来る。
個人的には現段階で協力者の立場が一番良いのだが、取り敢えずその対価とやらを聞いてみるかね。
「貴方が私と同等になる為の対価、それは貴方のその身に神の力を宿す事です」
神の力? それってぇと超常現象な力みたいなもんか。
「私の神の力は創造する力。他にも時を操る神や、運を操作する神、自然を動かす神など様々な力を持つ神がいます。それら神々のように、貴方にも神の力を手にして貰おうという話です」
それはそれは。願ったり叶ったりな話ではないか。詰まるところ俺も何か力が手に入るってわけだろ。対価っつうより報酬みたいなもんじゃないか。
心中で喜んでいると、当たり前というか、その力を得る為にも条件があるらしく、楽な話では無かった。
「私が貴方に力を与えます。ですが神の力を宿す可能性はほぼ0に近く、成功してもかなりの激痛などが貴方を襲います」
痛いのは嫌いだ。喧嘩するときも一方的だったし痛いのには慣れていないのだよワタクシは。
そんなワタクシに激痛に耐えろと言うのか。なんと非人道的な……あ、人じゃねぇか、神じゃん。
つかほぼ0ってそれどんだけだよ。それ希望無いじゃん。
「(あーっと。もし失敗したらそん時はどうなるんだ)」
これでえもいえぬままに消滅とかだったら早々に辞退させて貰うが。
軽く諦念気味な状態の俺に少し光が射す。
「失敗しても問題有りません。当然二度目は無いですが、その時は部下になるか、別の方法を探せばいいだけですから」
二度目のチャンスは無い。がデメリットも無いと。
「ただこれが失敗したら時間もあまり無いですし、部下になるかこのまま輪廻の世界に行くしか有りませんが」
成程。どうやらタイムリミットはそこまで来ているらしい。だが何度もいうが部下になる気は無い。それならまだ輪廻の世界(が何かは知らんが多分一般的な死亡後の行き先だろう)に行ったほうがマシだ。
つっても何にせよこれに失敗しなけりゃそんなことにもならずに済む訳だ。
そう思うと影響無いかもしれないが、やる気が出て来た。
「(そうすると時間が惜しい。さっさとやろうぜ女神様)」
様付けの相手に対する言葉遣いでない事は重々に承知しているが、これも仕方のない事だ。うん、仕方のない事。
「分かりました」
それでは、と女神が言うと、俺の目の前に野球ボール程のサイズの光球が現出する。
光球は目の前でふわふわと上下に揺れ動いている。
「それに触れて下さい」
これに触れたら確率で神の力を得る訳か。
女神に言われた通り、俺は眼前に浮かぶ光球に触れる。すると――
――光球は尋常でない輝きを放った……!!
「これは……!!!?」
女神の息を呑む声が聞こえる。しかしそんな些細な事は今はどうでも良かった。
何せ今別の驚くべき現象が自らの身に起こっているのだから。
触れた光球が中に入ってくる感触。それが体全体に広がる感覚。そしてその感覚がどこか懐かしく思える自分がいた。
この感覚は一体何なのか。それは分からないが、女神の言う激痛は一向にして来る気配は無かった。
そして激痛も何も来ないままにこの変な感覚は体に浸透し、馴染み消えた。その頃には残り火の輝きも消え去っていて……。
女神の話だと、激痛が走るらしいので、どうやら失敗したらしい。残念だと思うと同時に、早くも別の方法を考える。その前に、女神に聞かないとな。
「(おい女神様。俺に残された時間あとどんくらいあんだ。それと一緒に別の方法を考えろよ)」
一人よりも二人だ。あとどれくらいの猶予が残っているかは知らないが、このまま諦める気は無い。まぁ考えても、それでも思い付かなかったら、その時はその時だが。
だが、女神に聞いても、こちらの声が届いてい無いのか、返事が来ない。
「(おーい女神様ー、聞こえてるのかー)」
反応が無いので再度呼んでみる。するとようやく女神は反応を示した。
「……………………………あ、すみません。あまりの事に私とした事が放心してしまいました」
なんだ、もしかして失敗するとは思って無かったのか。だが0に近い可能性って言ったんだからそれは無いよな。
浮かぶ疑問。その疑問に女神は未だ信じられないと言った様子で答えた。
「……いえ。その前にまず、貴方の出した結論が間違っています」
結論が間違っているとはどういう事か。このままでは疑問符が絶えないではないか。
「貴方は神の力を宿すのに失敗したと思っていますが、それは間違いです」
失敗したのが間違い。って事はなんだ、神の力を宿すのは成功したっつうのか。
「貴方は今、その身に神の力を宿しています」
「(なんだと? だが女神、あんた自分で言ったじゃねぇか。力を得るには激痛が伴うと。俺には激痛が無かったぞ)」
それともなんだ。女神にとっての激痛はあの温かな感覚のことでも言ってるってのか。いや、それは無いわな。となると……あーもう分かんね!
頭の中が激しく混乱してきた。何がなんだか。
「えぇ。ですが実際に貴方には力が宿っています。それも強大な」
強大な力か……。ま、何にせよ成功したって訳だな。すげえな俺。0に等しい可能性を打ち破ったんだぜ。こんな事なかなか無いよなー。などと心中で自画自賛する。
「いえ、あれは成功と言うよりも別に……」
何やら女神が言っているが、そんなことを気にしている場合ではない。
何せこれで条件は揃ったのだ。
「(さぁさ女神よ。今すぐ俺を別世界へ送ってくれ)」
その前に。今まで独り言を言っていた女神が前置きをする。
「貴方を送る前に、貴方の行く世界に関して説明します」
そっか。そういや俺別世界行くってだけでどんな世界かとか全然聞いてなかったな。
「サム。それが貴方の行く世界の名前です。地球と違い魔法が世界を支えている世界。人間だけじゃなくて獣人や魔族と言った多種族の知的生命体も居る世界になります」
へー、あるあるファンタジーな世界ってこったな。
ただその分危険がまとわり付いてる訳だ。
こりゃ今まで平々凡々な生活してた俺にとっては良い刺激のある世界だわ。
「サムの世界は実力や階級がモノを言う世界ですから神の力を持つ貴方にとっては過ごしやすいと思います」
ふーん。初っ端からイージーモードってわけか。それもそれでいっか。個人的にはノーマルかハードが好きだが、今回はそこは良しとしよう。
「(それより女神は俺の力とか分かんねぇのか?)」
「貴方は協力者の立場得たら様が消えましたね……。まぁ良いですが」
いや様付けてたのしょうがなくだかんなー。それに心じゃ様付けてなかったし、それを聞かれてたわけだし今更どうこうってんじゃないだろ。
それより俺の力だ。これ分かんないと宝の持ち腐れだしな。
「残念ながら神には別の神の力を知る事は出来ないのです。それこそ最高神様ほどでなければ」
把握。それならそれで面白い。自分で見つけろってこったな。
「質問はもうイイですか? よければ貴方を送りますが……」
他に質問か。……うし、特にないかね。
あ、いや、一つだけ質問てか希望が有ったな。
「(これでお別れってのもあれだし、どうせなら姿ぐらい見せてくれね? アンタにお礼も言いたいしさ)」
幾ら自分の責任とはいえ一人の人間に対しここまで献身的にしてくれたんだ。神様とかそんなの関係無く感謝したい。
本来ならここに呼ばずにそのまま輪廻の世界に行かせる事だって出来たはずだ。何せ俺は最初は女神の事情を知らなかったんだからな。
「……そうですね」
一言、どこか微笑を含めたその一言の次には、俺は視点が、いや場所が一転した。
真っ白な空間から変わり、次に俺が居たのは、室内全体がライトで照らされたような、そんな部屋だった。
そして眼前には、会いたいと望んだ相手が居て。
「初めまして、になりますね。私は創造の女神。名はファーレです」
ファーレと名乗る女神の容貌は、途轍もない美しさを備えていた。
キラリと光り流れる白髪。柔和で、しかし凛とした顔立ち。他の女性が羨む程の体躯。そのどれもが絶妙にマッチしており。
若干ながら見蕩れつつ、自己紹介されたなら返さない訳には行かず、
「明蘭木夕眞、二十歳だ。今回は色々とありがとな」
感謝を口にする。今度はしっかりと言葉でだ。声が出ることに少なからずの驚きが有ったが、今はどうでもいい。
「いえ。元はといえば私の責任ですから」
それに関しては何をどうこう言うつもりはない。
どんな理由があるにせよ、感謝しているのだ。
代わり映えの無い人生を、未来に光の無い人生を、
何の面白味も――変哲もない人生を、
――――変えてくれたのだから。
ありがとう。この一言に尽きる。ま、それでも部下は嫌だったが。
「いつかまた会えるのか?」
ふと思った。俺は今から別世界に行く。そうなると女神……ファーレとはここでお別れになる。もし会えないと言うのなら残念だが。
俺の質問に対するファーレの答えは、決して望んだ答えでは無かったが、嫌いではない答えだった。
「分かりません。ですが貴方と、そして私が生きている限りは、会える機会はいつでもありますから」
それもそうかと納得する。
「では、夕眞さん。これから貴方をサムへと送ります。準備は宜しいですか?」
「おう、準備オッケーよ。いつでもどうぞ」
一抹の名残惜しさは拭え無いが、今生の別れってわけでも無さそうだし、悲観的になりはしない。
ただ今は次の世界、サムの生活に胸が踊っている。
「そうですか……。では、送りますね」
そういうファーレの表情は浮かなく見える。ファーレはファーレで名残惜しさが有るんだろう。そう思われてるだけで嬉しいもんである。
ファーレが手を翳すと、俺の足元に円型の紋様――所謂魔法陣が浮かび上がる。
そこから放たれる光が周囲を包み込むように動き、遂に体全体が魔法陣の光によって包まれた。
その時には既に俺にはファーレが見えなかった。
ただこのまま行くってのも面白くないので、最後にちょっとだけ、別れの言葉を残す事にした。
「ホントに色々ありがとな。あんたのこと、俺嫌いじゃないわ。次会ったらもっと沢山話そうな。神のこととか聞きたいしよ」
多分俺の思考とかが読まれているから言わんとする前に聞こえていたんだろう。
それでもやっぱり口にしないとな。別れの言葉なわけなんだし。
「……はいっ。私からは夕眞さんの事が見えるので、ずっと見守らせて頂きます」
それは心強い。何せ創造の力を持つ女神様が見守るってんだ。これほどにない味方は居ない。
「おう。んじゃ、そろそろ行ってくるわ。じゃな」
「はい、行ってらっしゃいませ、夕眞さん」
その、ファーレの見送りの言葉で、俺はサムの世界へと、転移したのだった。
△▼△▼△
先程まで二人居たせいか、どこか静寂を感じ得ない部屋。
光しか無いそんな部屋で、小さな溜息が聞こえる。
「……はぁ……」
溜息の発生源は夕眞を見送った女神、ファーレ。
棒立ちのまま溜息を吐く彼女は、ゆっくりと瞼を閉じる。
その裏に浮かぶのは、先程までいた人物、夕眞の姿。
明蘭木夕眞。彼は実に変わった人間だった。
そして実に楽しい人だった。それが彼と話して感じたファーレの思い。
自身の分身を見て、触れる事が出来る。それだけでも彼が普通とは異なる者だと言える点だ。
それだけでなく、否、それ以上に驚愕したのが、彼に神の力を分け与えた時だ。
人の魂に神の力を与える。そんな事が出来るのは、ファーレを含めて両手の指程も居ないだろう。
そして、魂に神の力を定着させる事が出来る人間は、それよりも遥かに少ないだろう。何せ0に等しい可能性なのだ。
ファーレ自身、成功しないと思っていたし、その時は夕眞には悪いが輪廻の世界に還ってもらう他無かった。それもこれも夕眞が部下になるのを断ったからである。
が結果は違った。結果は夕眞が神の力を得る、となったのだ。
しかしだ。確かに夕眞は神の力を得た。それだけはファーレが確実だと言える結果だ。だがそれがファーレが伝えた方法によって得たかどうかと問われたならば、沈黙する。
人が神の力を得る時は、必ず激痛が走るもの。けれど夕眞にはそれが無かった。加えて光球に触れた時のあの光。あれは本来起きえない事象。
そんな過程によって神の力を得たアレは、ファーレの与えた方法によるものなのか。
無論今回は例外の中の例外によってあの様な事象が起きたのかも知れない。
しかしファーレは、どうしてかあの男、明蘭木夕眞に大きな秘密が隠されていると思えてならなかった。
……ただ、それを気にさせない程に、彼はとてもユニークな人間だった。
自身のことを女神だと知っても変わらない態度。部下とはいえ神直属の立ち位置にも関わらず信念のもと断る意思。
平凡な人間だと自称していたが、平凡な人生だと自虐していたが、彼ほどに面白い人間はそうはいないでは無いか、なんて思わされる。それが明蘭木夕眞だった。
「さて……」
ゆっくりと閉じた瞼を開く。いつまでもぼーっとしていてはいけない。これから夕眞に関する手続きやら何やらが仕事として有るのだ。加えてサムへ送った夕眞を見守ると言ったのだ。こんなところで時間を無駄には出来ない。
ファーレは夕眞が今さっきまで居た場所を数秒見詰めたあと、その場を後にしたのだった。
用語解説
[ファーレ]
イタリア語で[作る]を意味する言葉。
本当なら神様という事でギリシャ語からが良かったのですがギリシャ語で作るだと[ポイエイン]となるのでちょっとなーということでイタリア語の方を引用しました。
どう考えても女神がポイエインとか、せめてものポ抜きでイエインとかでも嫌ですよねー。
なんでファーレで。
ファーレがこの先登場するかは……知りません。作者テキトーですから。
出したいと思ったら出すタイプですので。
今はそんな気持ちはない、ですかね(笑)
これから先前書き後書きには今回のように用語解説などを載せますので、テキトーに流し読みしてください。