こんな夢を観た「季節外れのタケノコ狩り」
四国、丸亀平原のほぼ中央に、小高い丘がある。そこでは、中秋になるとタケノコがわんさか生えてくるのだ。
志茂田ともるとわたしは、今、まさにタケノコを捜し歩いている最中だった。
先週、NHKの地方局で、親子連れが夢中になってタケノコ採りをしている様子を映していた。なかなか楽しそうだな、と思い、眺めていると、 志茂田から電話が来た。
「もしもし」わたしは携帯を取る。
「むぅにぃ君、どうでしょう、次の休み、四国でタケノコ狩りなどしませんか?」
ははあ、さては志茂田もテレビを観ていたんだな。
「遠いね。それに、混んでるんじゃない?」わたしは言った。行列と混雑が、わたしは大の苦手だった。
「ご心配無用。行き先は丸亀平原という場所です。ここは広いですよ。十勝平野と関東平野、それに甲府盆地を合わせても、まだ足りないほど。観光客も大勢来ますが、プールにコップ1杯のミジンコを撒き散らしたようなもの。お互いに出会うことすらないでしょう」志茂田は説明する。
はて、そんなに広いのなら、四国からはみ出してしまうのではないか、と疑問に感じたけれど、志茂田が言うのならばそうなのだろう。
もみ合ったり、奪い合いになるのでなければ、出かけてもいい。
「片道、どれ位かかるの?」わたしは聞いた。
「鉄道を使っていくつもりですので、9時間から10時間、といったところでしょうかね。前日の夜行で行き、1泊2日を予定しています」
「じゃあ、行こうかな」わたしは言った。
「では、当日の午後7時に、噴水公園で」
そんなわけで、わたし達は旅を始めたのだ。
竹林は途方もなく広かった。最寄りの駅まで一緒だった他の観光客達とは、丘の登り口まで揃って上がってきた。けれど、いったん入ってしまえば、もう誰も彼も竹藪の中に消えて行ってしまい、再び顔を合わせることがなかった。
「志茂田の言った通りだね。本当に広いんだ、ここ」地元で借りた大きなカゴを背負い直しながら、わたしは驚き呆れた。
「広すぎて、度々遭難者が出るのですよ。だから、ほら。あちらこちに、道標が立てられているでしょう?」
辺りを見渡すと、新しい物古い物、数えきれないほどの立て札が地面に突き立ててある。「こちら側、丘の上」だとか、「この先、歩道あり」などと書かれていた。
「でも、真っ直ぐ歩いていれば、そのうち竹林から出るでしょ?」いくら広いと言ったって、ここは平原の真ん中にぽつんと盛り上がった丘だ。
「いいえ、むぅにぃ君。人は先行きの見えない場所では、同じ所を何度もぐるぐると回ってしまうものなのですよ。現に、過去10年もの間に、100人を超える不明者が出ていますからね」
何だか、そら恐ろしくなってきた。志茂田のそばから、決して離れないようにしなくては。
タケノコは、ちょっと目を配れば、簡単に見つかった。
「あれ、タケノコじゃない?」わたしは手前の草むらを指差す。
「そのようですね。どれ……」志茂田は屈んで、若い芽を根元からポキッと折る。「まだ柔らかいので、皮をむいて、このまま食べられますよ」
志茂田は皮をむしって、おいしそうにぽりぽりと囓った。
「あ、ここにも見っけ」わたしも志茂田の真似をして、その場でタケノコを食べてみる。ほのかに青臭い匂いがした。歯ごたえはよく、わずかに甘みすらある。「おいしいっ! 生のタケノコも、案外いけるね」
「でしょう? さ、今度はもっと大きいのを探しましょう。たくさん採って、帰ったら、みんなにもおすそ分けしてあげましょう」
ちっぽけなタケノコは放っておいて、ある程度成長したものばかりを摘み取る。それを、背中のカゴにぽいっ、ぽいっ、と投げ込んだ。
「タケノコの折り方、だいぶ上達しましたね、むぅにぃ君」志茂田が感心したように言う。
「まあねっ」わたしはまんざらでもない。もっとも、初めの数本はさんざんだった。先の方で折れてしまったり、蹴飛ばした拍子に身ごと崩してしまったり。
志茂田は手慣れているようで、その度にコツを教えてもらう。甲斐あって、今ではずいぶんとましになった。
背中のカゴが半分ほどにもなった頃だ。頭上の竹の葉をくぐって、ポツリと落ちてくるものがある。
「雨……?」とわたし。
「うーん、まずいですね、これは」志茂田が深刻そうに額の皺を寄せる。
「どうかしたの?」わたしは不安になって聞く。
「むぅにぃ君、カゴを下に置いて、近くの竹に登って下さい。急いでっ!」志茂田が大きな声を出す。
わたし達は靴も靴下も脱ぎ捨てて、それぞれ竹によじ登った。
「つるつるしてて、登りにくいよっ」わたしは泣き言を言う。
「もっと上へっ。早く、早くっ!」志茂田が急かす。
雨足が強くなってきた。その頃には、かなり上まで来ていたので、2人とも竹の枝に手足を引っ掛けることができた。
「どうして登ったの?」わたしは志茂田に向かって声を上げた。別の竹から、「それはですね」と、志茂田が返事をしかける。
その時、ヒュンッと鼻先を何かがかすめた。わたしの鼻がもし高かったなら、今頃はそげ落ちていたに違いない。
「何、今のっ?!」目の前に、一瞬前まではなかった竹が立っていた。
「竹にしっかりつかまり、伏せていて下さいっ!」向こう側で志茂田が叫ぶ。
竹林のあちこちで、地面から槍のように竹が生えてくる。まるで、ブービートラップのようだ。
「ひいっ!」わたしは頭を竹に押しつけて、早く雨が上がることを祈った。
「雨後の竹の子に秋の長雨。さてさて、困りました。いつになったらやむことやら」
激しい雨音と勢いよく伸びる竹の轟音にまぎれて、そんな志茂田の声が耳に届いてくる。




