第8話 変なカナ
《フォックス・ハウンド》の争乱から2日後……
第2島侵攻作戦まで2日となった今日。
FLFの戦力はかなり増強されていた。
ネイ、ミウ以外にも元のプレイヤーがFLFに入ってきたのだ。内訳は、銃使い4名とランサー1名、ガーディアン(結局のところ、鎧を着た、ただの片手剣士)1名だ。
ランサーとガーディアンは、あの時にカスミを守った2人である。
銃使い達は、FLFの噂を聞いて、こちらに移籍してきたらしい。
《フォックス・ハウンド》は一旦解散し、新たに、《新フォックス・ハウンド》なるギルドを立ち上げたそうだ。
もう少しネーミングセンスが欲しかった……かもしれない。
シェパードは病院で入院中だが、その間に、ギルドメンバーの大半が離脱し、《新フォックス・ハウンド》を結成し、旧体制派と戦争中らしい。
ちなみに、ギルド同士の戦いはシステム的にも存在し、それを戦争という。
システム的に敵同士となったプレイヤー達は、殺し合うことになるわけだが……
今回の場合は、完全な掃討戦であった。
まぁ、そんなことがあるわけだが、それなりに平和な日だった。
街から少し離れた山岳部。俺達がいる街自体が盆地にあるようなものなので、東西南北山に囲まれているのだが、その山で俺はFLF銃使いの教官を任されていた。
FLF銃使いは、新入のプレイヤー4人とカナ、バリクである。
それぞれに、戦闘テクニックを教えたり、模擬戦をしたりしている。だが、一番力を入れているのは集団戦である。
俺やジョンソンなら、単身で突っ込んで引っ掻き回すことくらい簡単なのだが、一般人であるみんなには、そんなことはできない。ならば、一般軍のように集団戦に長けた強力な軍勢を作り上げるべきだというジョンソンの判断だった。
確かにうまくいっている。互いが互いの弱点を補い合って、非常に強固な軍団となっている。
だが、まだまだな面もあり、射撃精度や臨機応変に動く機動力、それをするための判断力がまだ足りない。隊長クラスの判断力がまだ足りないのだ。
それも仕方がない。軍隊の指揮などやったことがないだろうから。
俺達FLFは、軍隊に近い思想を持っている。数は力であり、それぞれが最大限の力を発揮できるように、常に集団行動を行い、相手に対して有利な状況を作り出し、可能な限り少ない損害で敵を排除する。
堅実で慎重な戦術でもあるが、俺やジョンソンが考え得る限り、このゲーム内では俺達がとれる最良の戦術だった。
と、いうのもだ。銃は扱いづらく、隙も大きい。無計画に突っ込めば各個撃破されるのは目に見えている。なら、慎重に相手の隙を窺い、隙をついて一気に殲滅する戦法はかなり有効だといえた。
「右前方、ゴブリン・シーフ3。ライフル撃て!」
俺は指揮の手本を見せている。隊長クラスになるのは今のところバリクだけだ。バリクは一生懸命、俺の指揮を見て学んでいる。
俺は心の隅で、バリクは優秀な隊長になるだろうと思った。
ライフル攻撃でゴブリン・シーフ3体が倒れた後、一旦休憩をとることにした。
「ね……あのさ、ユージ」
カナが俺の隣に来た。
現在は休憩中で、みんな、そこら辺の岩に座っている。だが、座る岩がなくなるほどでもない。
俺の脳内に浮かび上がった、「カナは俺の座っている岩を奪いに来た」という可能性を抹消した。
「隣、座っていい?」
何……?
まさか、俺の座る岩を半分だけ奪いに来たというのか……。
これは俺の予想を斜め上に行く答えだった。
何のつもりだろうか?
自らも半分の岩に座らなければいけない窮屈さを我慢してまで、俺に嫌がらせをしようというのか?
……俺もずいぶん嫌われたようだ。まるで親の仇だな……。
「ダメ?」
ちょっと不安げにカナが訊く。ツンデレ女のカナにしては珍しい。そんなに俺に嫌がらせをしたいのか……。
「あ、ああ。いいよ」
俺は、それで彼女の鬱憤が晴らされるならと思って許可した。
「そ。ありがと」
カナは心なしか嬉しそうだ。俺は一体どうすれば……?
彼女の嫌がらせに対しての対処法を必死に考える。
まず、彼女の狙いを予測しなければ。彼女なら何を狙う。
……俺に最大級のダメージを与えようとするような女だ。きっとカナは。
ならば……
「ど、どうしたのよ? えっと……その、ト、トイレに行きたいの?」
カナは俺の様子を見てそう言った。
俺は彼女の攻撃に備えて股間を押さえていた。俺にダメージを与えるなら……いや、俺に限らず男性にダメージを与えるなら、股間を潰そうとするだろう。
いくら仮想空間だからといって、自分のシンボルを破壊されるのは嫌すぎる。
「いや……トイレに行きたいわけじゃないんだが……」
カナは俺の様子をしばらく見て、押さえてるところを数瞬見て、顔を真っ赤にした。何想像しやがった、このアマァッ!!
「も、もう!! そんな下品なことしないでよ!!」
「ご、ごめん……」
どうやら、カナは股間を潰す気はないらしい。なら、どこを潰す?
「あのさユージ……これ……」
カナが俺に差し出したのは……
「弁当……?」
俺は異世界の物質を見るような顔をしてたと思う。だが、カナは真っ赤になって俺の方を向かなかったのでセーフ。
「け、結局アンタには助けてもらっちゃったから……別に、好きとか、そんなんじゃないから!! 勘違いしないでよね!!」
するかバカ。
カナは気恥ずかしそうに、俺の元から去った。
「……悔しいけど、弁当うめぇな」
俺は、一言ポツンと言った。
この言葉を、カナは聞きたかったが、彼女自身すぐ逃げたので、結局感想聞けずじまいだった。
カナside
「はぁ……なんであんな奴のことを……」
あたしはため息をついた。なんか、空気に耐えきれなくなってユージのところから逃げてきたのだ。
よくわからない気持ちだ。あいつがネイを見捨てると言ったときは、あんなに嫌いだと思ったのに。
だけど、あいつは助けに来てくれた。なんだかんだ言って、あいつは見捨てなかった。
ちょっと嬉しかったし……カッコイイとも思った。……ちょっとだけだけどッ!!
「ユージ……」
その名前を呼ぶと、少し落ち着く気がした。
「ん、なに?」
「きゃあああっ!?」
いきなりの声にあたしは情けない悲鳴をあげてしまった。
岩の上に座った仲間や、目の前に立つユージに凄い目で見られる。
「ど、どうした……?」
「なんでもない……」
ああ……なんでこいつの目の前であんな声を……。恥ずかしい。ユージが相手だと、なぜか数倍恥ずかしい。
「あ、そうだカナ」
ユージがニッコリ笑って何かをあたしに突き出した。
空っぽの弁当箱だった。
「おいしかったぜ」
その言葉を聞いたあたしは、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。少し呼吸が乱れる。
「お、おい、どうした? 体調悪いのか?」
「だ、大丈夫よ……」
あたしはどうにか呼吸を整えてそう言った。
「ねぇ、ユージ……」
もしかしたらあたし、あんたのこと……
「何だ?」
「……なんでもない」
あたしは、この気持ちについて確信した。だけど、素直に認めるのは恥ずかしかった。
だから言っちゃった。
「あたし、あんたなんか大っ嫌いだから!」
「え、あ、うん」
ユージは目を白黒させながら頷いた。
あぁ、よりにもよって大嫌い宣言か。
恥ずかしさを紛らわせるために何か叫ぼうとしたけど、さすがにマズいわよね……
自分で可能性をちょっと潰しちゃった。あたしのバカバカ!!