第7話 一瞬の決闘
「何が、誰も死なない、だって?」
私達を見下ろす知らないプレイヤー。だが、《フォックス・ハウンド》のメンバーは違った。
「シェパード様!」
隊長が言った。
「リーダー……何故ここに?」
私を助けてくれたランサーの人が言った。
「何故、か……君達みたいなのが現れるのを見に来た、というところかな」
《フォックス・ハウンド》のリーダー、シェパードはそう答えた。
「どういう……意味ですか……?」
「まぁ、こんな風にリンチしまくってたら、従いたくなくなるような輩も出てくるな~、って思ったわけよ。だから……従いたくなるようにするんだよ」
シェパードは、1人の《フォックス・ハウンド》に近づき……
「死ね」
拳銃をそのプレイヤーの頭に向け、発砲した。
言うまでもなくヘッドショットで、HPが大幅に減る。さらに数発発砲して、そのプレイヤーのHPは全損した。
「こいつ……スパムだったか? ……こいつは2度と復活しない」
シェパードは、よく聞こえる声で言った。
何を言っているのか、私には全くわからない。
「僕のユニークスキルに、殺人というものがある。レベル30まで到達すれば、誰でも獲得できるはずだ。そして今現在、レベルの最大限は30だ」
シェパードが言っていたことを私は信じられなかった。このゲームは、レベル1000まであるはずだったのだ。
「レベル30が最大限なのには理由があるはずだ。それはまだわからない。が、侵攻作戦が終わったら何かわかるかもな。……そして、この殺人スキル。効果は名前の通り。俺がこのスキルをONにした状態でプレイヤーを殺せば、実際に死ぬ。VR機器に脳を焼かれるんだ」
「ばかな!? そんなこと、あるわけが……」
「あるぜ。スパムはもう死んだ。2度と復活しない。……このゲームに死の要素があると疑っていたのは、僕が知っている中で2人だ。僕を除いてな」
周囲は静まり返っていた。いきなりの事態に状況を整理できていないプレイヤーがたくさんいるのだ。
「FLFのリーダーとエース。この2人は、会って話してみたが、やはり死の要素を疑っていた。というより、ほぼ確信していた」
「そんな……」
私は思わず声を漏らしてしまった。ユージさんやジョンソンさんは、私達には1度もそんなことは言ってくれなかった。
「さて……そういうわけで、君達も死にたくなくば、従ってくれるかな?」
シェパードは、威圧的にそう言った。全てのプレイヤーが固まる。目の前で、プレイヤーが殺されたのだ。仕方のないことかもしれない。
「君達は……僕には逆らえ……」
彼はいきなり、身を屈めた。
「まったく……せっかく良いところだったのに……。邪魔しないでほしいな、ユージ」
シェパードの視線の先には、アサルトライフルを構えて建物の陰から歩いてきているユージさんがいた。
「まったく……騒がしいと思えばお前か」
ユージさんは呆れたように言う。
「いいじゃないか。どうせデスゲームになるんだ。今の内に力は蓄えておきたいだろう?」
「ふん。お前なんか、いくら力を蓄えても、タンクの容量が小さいから溢れ出るだけなんだよ」
「相変わらずの減らず口だね」
「お前がな、シェパード」
ユージさんとシェパードは互いに睨み合って、言葉をかけあう。そのどれもが、ユージさんの本当の怖さを物語っているように思えた。
「どうせ、こんな問答しても埒があかない。……近接戦で決着をつけないか?」
「ほう? いいだろう」
今気づいたんだけど、ユージさんって戦闘モードに入ると性格から口調まで変わってしまっている。
戦闘モードのユージさんは、何だか威圧的で……すごく怖い。
ユージさんは二丁拳銃。
シェパードはナイフと拳銃。ナイフを逆手持ちにして前に構え、ナイフを持った手首で固定するように拳銃を構えている。
「ふん……スネークの真似事か?」
「これも有効な構えなんだよ?」
「知ってる」
そんなやりとりをする2人。
……スネーク?
蛇があんな構え方するの?
ていうか蛇って銃使えるの?
私は真面目にそんなことを考えてしまった。
ユージさんとシェパードは睨み合って、向かい合い……
目にもとまらぬスピードで互いに接近した。
ユージside
シェパードが発砲する。頭を狙われているのを直感的に察した俺は、頭を右へ逸らす。
顔のすぐ左を弾丸が通り抜ける感覚に顔をしかめながら二丁拳銃をシェパードの頭に向ける。距離は既に8m以内。
二丁拳銃の狙いは、それぞれ右頬、左頬にして発砲。
左右に頭を逸らせても直撃する。
ならば、奴がとる行動は限られる。
案の定、シェパードは身を屈めた。走り込むスピードが遅くなり、構えが崩れる。隙アリだ。
俺は敏捷力のパラメータの補正をマックスに使ってシェパードに近寄り、下がったシェパードの頭に膝蹴りをかました。
体術攻撃。銃にはノックバックは無いが、体術にはある。
思いっきり後ろに飛ばされるシェパード。
だが、奴も奴で受け身をとる。
だが終わりだ。
「うぐぁっ!?」
シェパードが悲鳴をあげた。
シェパードの頭にライフル弾が突き刺さったのだ。
俺は、奴が吹っ飛んでる間にアサルトライフルに武装変更したのだ。
最初にアサルトライフルを使わなかったのは、撃っても避けられるし、接近戦をするには、アサルトライフルは向かないからだ。
そして、吹っ飛んでから体勢を立て直すこの瞬間は、誰でも無防備になる。
そこでヘッドショットをしたのだ。
通常、格闘戦などというのは10秒もかからないうちに決着が着くことが多い。巷のヤンキーの殴り合いではないのだ。
相手を殺すために洗練された技術のぶつけ合い。それが長時間続くはずがない。
そして、強い者は弱い者に一瞬で、一方的に勝利するのも常だ。
シェパードは俺より弱かった。それだけだ。
シェパードの死体オブジェクトが倒れ、バタンという乾いた音がなった。
俺は奴の死体に背を向けて、アサルトライフルを背中にしまった。
そして、何も言わずに去ろうとした。言うべき言葉もないからだ。
カスミにもカナにもミウにも。
だが……
「あ、あの!!」
女の子の声がした。振り向くと、すぐそこに緊張した様子の女の子が立っていた。
レイピア使い……ミウが助けようとしていたプレイヤーだ。
「何か用か?」
「いえ、その……助けてくれてありがとうございます」
「助けた、か……そのつもりはないんだが。俺は、バカ共の尻拭い兼敵対勢力の排除をしただけだ。お前を助けたつもりはないし、そもそもお前誰?」
そう。それが肝心。俺はコイツのことを知らない。誰だ一体?
いや、一応ミウの友人だとは知っているが。
「ボク、ネイって言います!!」
見た目は普通に活発な美少女だがボクっ娘か。ボーイッシュなわけでもないので違和感がある。
「そうか。じゃあな」
「ま、待ってくださいってば!!」
「なんだ?」
少しイラッとしながら俺は訊いた。それを気にすることなく彼女はこんなことを言い出した。
「ボクはカスミやカナ、そしてアナタに助けてもらいました。何か恩返しをしたいんです。だから……ボクをあなた方の仲間に入れてください!!」
「私からもお願い……私も、ネイと一緒にFLFに入る」
いつの間にかそばに来ていたミウが言った。生産者がFLFに入る上に、そこそこ名の通ったプレイヤーが入ってきてくれるのは、こちらにとっても嬉しいことだ。だが……
「いいのか?」
「はい!!」
俺の疑問は笑顔で返された。
「どうせ、このゲームはギルドに入らないと不利なんですから。それなら、恩人がいるギルドに入りたいじゃないですか」
じゃないですか、とか言われても。
……ま、いっか。カナやカスミとも仲良くなれそうだし。アイツらの相手をしてくれるならどうだっていいや。2人とも、妙に俺にくっついてくるからな。
……このとき、俺は知らなかった。
くっついてくる人数が増えただけだったということを。
シェパード……ボスっぽい感じなのに、あっという間に退場……(笑)
彼は、この後にも出てくるのでお楽しみに