第6話 少女達の戦い
カスミside
私は、正直絶望感を抱いていた。ユージさんの協力なしで、《フォックス・ハウンド》の人達と戦わなくちゃいけない。
全く自信がなかった。私はヒーラー。物理攻撃力も物理防御力も低く、魔法系統の攻撃力、防御力も物理戦士に毛が生えた程度。
カナさんは思いっきり接近戦型だけど、銃の扱いに慣れているとは言い難い。1対1なら勝てるかもしれないけど、相手はそんな律儀ではないと思う。
そして、私達2人にさらなる絶望が襲いかかった。
「あ、メールだ」
カナさんが言った。私にも届いていた。
だけど、内容を見て絶望した。
ジョンソンからのメールで、『FLFは、一切の支援も行わない』と書かれていた。たとえ、ギルドメンバーだとしても見捨てるつもりなのだろうか。
だけど、ユージさんの前であんな口を叩いた以上、もう後には引けない。
「カナさん、やってやりましょう」
「当然よ。あの最低のバカに思い知らせてやるわ。私達はアンタが思ってるより強い、ってことをね」
私達は決心した。何が何でも助け出すと。
「……ごめんなさい。でも、ありがとう」
ミウさんが申しわけなさそうに、だけどちょっと嬉しそうにそう言った。
「まず作戦ですね」
私達は、まず作戦を立てることにした。そして今、2つの作戦が立ち上がっている。
1つは、退院してきた友達さんを《フォックス・ハウンド》にやられないように必死で護衛しつつ、逃げ帰ること。
もうひとつは、《ガールズ・ファイターズ》に協力を申し立てること。
「あたし達じゃ、《フォックス・ハウンド》にはかなわない。だから、《ガールズ・ファイターズ》に協力要請をした方がいいんじゃない?」
カナさんがそう言った。
「……それは難しい」
難色を示したのはミウさんだった。
「え、なんで?」
カナさんが不思議そうに聞き返した。正直、私も不思議だった。どうしてダメなのか。
「《ガールズ・ファイターズ》も、《フォックス・ハウンド》や《スティール・ナイツ》と同じように、第2島侵攻作戦の準備をしている。実質、ボス戦となる侵攻作戦は、かなりの激戦になると予想されているから、各ギルドも準備に余念がない。《ガールズ・ファイターズ》もそう。それに、《ガールズ・ファイターズ》は《スティール・ナイツ》とも戦っていて、人員はギリギリだと思う。とても私達に回す人材があるとは思えない」
もっともな意見だった。確かに、余裕はなさそうだ。FLFも同じ理由で見捨てようとしたのだから。
「じゃあ、あたし達だけで護りきるわけね。確か、今日の午後3時退院だったっけ?」
「……うん」
今は1時半。後少ししかない。
「これじゃあ、そもそも《ガールズ・ファイターズ》に余裕があってもダメだったかもね」
確かに時間が無さ過ぎる。
「病院からここまでだったら……10分ちょっとくらいですね。……ちょっと厳しいかもしれません……」
何人で襲ってくるか分からない以上、10分という時間は長すぎる。
「やるしかないわよ。あたし達は負けられない!」
カナさんが強く言った。そうだ。私達は負けられない。
「あ、そうだ……ミウ、助ける子の名前は?」
「ネイ。女の子。魔法剣士で、それなりに強い」
「でも、やられちゃったんですか……」
「1対8は卑怯」
「うわ……大人げなさすぎね」
1対8。レベル的に相当なアドバンテージがあるか、システム外スキルが異常に……それこそ、ユージさんやジョンソンさんぐらい高くないと勝てない戦力差だ。
「そろそろ準備を始める。病院の近くに行く」
ミウさんがそう言った。私達は頷き、彼女が店を出るのについて行った。
人だかりは既に散っていて、いつも通りの街の風景が戻っていた。だけど、私には、街が戦場に見えてならなかった。
午後3時。街の中心近くは、あまり人がいなかった。基本的に、この街の中心部の午後あたりは、《フォックス・ハウンド》の‘徴税部隊’が跋扈している。そんなところに行きたがるプレイヤーは皆無だ。
だけど、行かなきゃいけないプレイヤーだっている。私達のように。
私達は、病院の近くの建物の影に身を潜めていた。病院は、円形の大きな広場に面しており、広場の中心には噴水もあって、ローマのような美しさがある。
私達が隠れていると、ネイさんらしきプレイヤーが病院から出てきた。
「ネイ!」
ミウさんが駆け寄る。ネイさんは驚いた表情でこちらを見た。
「ミウ!? どうしてここに?」
「またキルされないように、助けにきた」
「ボクのためにそこまでしなくても……」
ネイさんは少し嬉しそうだったけど言葉では遠慮していた。
「アイツらには2度もキルされたからね。もうやられるわけにはいかない!」
ネイさんは、勇敢にもそう言い切った。病院から退院した後、しばらく続くステータス低下をものともしなさそうな、勇敢な人だった。しかも……中性的だけど、美少女だ。かわいい系の。
(いいなぁ……。ユージさんって、こういう人が好みなのかな……じゃなくて、何考えてるの私!?)
私は、一度、ユージさんに見損なったとか何とか言ってしまったけど、心の底ではそう思っていなかったことを今、自覚した。
ただ、助けてほしかった。ギルド同士の関係とかで、困ってる人を見捨ててほしくなかっただけなのだ。
だって……ユージさんは本当はとても優しい人なのに、それを押し殺してまでしてギルドに尽くしている。いや、今やこの世界に閉じ込められた私達プレイヤーにとって普通のことなのかもしれない。だけど、やっぱり悲しかった。
だから、彼に反抗してしまったのだ。もちろん、見捨てられなかった、という理由もあった。
比率も1:1くらいだ。
だけど、私の中ではユージさんが助けてくれるのを望んでいる。私達じゃ心細いから。
「とりあえず、私の武具店へ」
ミウさんの声で意識を現実世界に戻した私は、みんなと一緒にミウさんの武具店に向かおうとした。
だけど……
「ヘイ、嬢ちゃん。ホスピタルへカムバックだぜ」
いつの間にか、《フォックス・ハウンド》に囲まれていた。どうやら、彼らも私達同様に隠れていたみたいだった。聞いたところによると、《フォックス・ハウンド》の構成員は三桁に上るらしい。
現在私達を囲んでいるのは……
「20人……」
とても勝てる数じゃない。見通しが甘かった。せいぜい5、6人くらいだと思っていたのに。これでは、各個撃破されてあっという間に負けてしまう。
「仲間を6人もキルした野郎はいないようだな。警戒して損したぜ」
鎧を着て、大きな大剣を持った隊長らしきプレイヤーがニヤリと笑いながら言った。
カナさんも、ミウさんも、ネイさんも悔しそうに顔を歪めている。作戦云々以前の問題を突きつけられたのだから仕方ない。
作戦を押しつぶされるような戦力差。これが私達の敗因だ。
(ごめんなさい……ユージさん……)
私は心の中でユージさんに謝った。
だけど、黙ってやられるわけにはいかない。
「こうなったら、やれるところまでやりましょう!」
私は大きな声でカナさん達に言った。
「うん! こんな奴らに無抵抗にやられるなんて死ぬより嫌よ!」
「……生産職だからってなめないで。……一応、護身用に短剣は使えるんだから……!」
「ゴメンね、みんな。ボクのために。でも、だからこそ、ボクも諦めるわけにはいかないね!」
私達はそれぞれ武器を取り出した。私は杖。カナさんはショットガン。ミウさんは短剣。ネイさんはレイピア。
「くくく……気の強い子達だ。だが、すぐに泣いてやめてくださいと言わせてやる。……大人をなめるなよ!」
《フォックス・ハウンド》の部隊が、全員武器を抜いた。
ランサー、ガーディアンが多数を占めている。数人がメイジだ。物理戦闘能力に重点を置いた構成だ。
ユージさんのライフル攻撃を警戒したと言っていたから、鎧戦士が多いのだろう。
金属防具の中でも強力なものは、ライフル攻撃の部位欠損を無効化できるとユージさんが言っていた。唯一、部位欠損が生じるのが頭。
だけど当てるのは至難の業なので、ライフルと鎧戦士じゃ相性が悪いらしい。この人達もそのことを知っていたのだろう。
「かかれ!」
敵の隊長が号令をかけると、四方を取り囲んでいた《フォックス・ハウンド》のプレイヤー達が襲いかかってきた。
「負けるもんかぁ!」
カナさんがそう叫んで1人の敵プレイヤーに、至近距離でショットガンを当てる。凄まじい命中エフェクト……
一撃で敵プレイヤーのHPの6割を削った。至近距離で撃ったため、大量の弾丸が直撃みたいだ。
「……くっ!!」
ミウさんも馴れない手つきながらも、短剣で必死に抵抗している。素人なのに敵プレイヤーに傷をつけている。
「みんな、無理しちゃだめだよ!」
ネイさんはそう叫びながらレイピアで戦っている。
彼女のレイピアさばきは凄まじいものであって……
とても綺麗だった。強くて綺麗。
素早い刺突。相手は避けることも叶わない。だけど、ステータス低下によって、ダメージ量は激減している。
私はみんなに護られながらも、必死にヒールを唱えていた。
だけど、このままじゃ私のMPがなくなって詰んでしまう。どうしたら……?
そんなときだ。
「嬢ちゃん、よそ見はいけないぜ?」
あの敵の隊長が私の後ろにいた。既にシステム的剣技の発動体勢に入っている。
これは避けられない。そして、私は物理防御力に関しては絶望的に低い。
……いつもは、ユージさんが護ってくれるのだから。
私はせめてもの抵抗として、相手をキッと睨んだ。それを見た相手は嗜虐に満ちた、ニヤリとした気味の悪い笑顔を浮かべた。
……ああ。そういう趣味の人なんだ……
私は、こんな変態にやられてしまうのを屈辱的に思いながらも、やはり睨み続けていた。
剣技が発動。彼が持っている大剣が、私に振り下ろされる。
ガキン!
その大剣は私には当たらなかった。
「……貴様ら、何のつもりだ?」
敵の隊長が静かな怒りを込めて吐いた。
そうなるのも仕方がない。私を護ってくれたのは、彼と同じ《フォックス・ハウンド》のメンバー2人だったのだから。
ランサーである1人は私の前に出て、大きな盾で大剣の刃を弾いていた。もう1人はガーディアンで片手直剣と小型の金属製の盾を装備していて、隊長に対していつでも攻撃できる体勢になっていた。
「何のつもりか、だって?」
ランサーの人が言った。
「決まってんだろ? この子達を護るんだよ」
「貴様、我々を裏切る気か!?」
「裏切られたのはこっちだ!!」
「なんだと?」
ランサーを声を荒げて言った。
いつの間にか、各地で戦闘は中断されて、みんな、こちらを見ている。
「俺は!! こんなことをしたくて、《フォックス・ハウンド》に入ったわけじゃない!! 早くこのゲームから解放されるために、みんなを解放するために入ったんだ!! だが、入ってみたらどうだ!? 女の子を大の大人が、寄ってたかってリンチかよ!?」
ランサーの人の言葉で、《フォックス・ハウンド》の人達の戦意が削がれていく。
このとき、私は理解した。《フォックス・ハウンド》の中でも、好き好んでこんなことをしてる人なんて、ごく少数なのだ。
嫌だけど、何かに強制されている。
「貴様ら……! 裏切り行為は、あの方直々の処刑だぞ!?」
「だから何だ!?」
ランサーの人が言った。
「この世界では誰も死なない!」
「そうだ……おそれる理由なんて何もないんだ……」
ランサーの人の言葉を聞き、他の誰かが呟いた。そして、武器を捨てた。
次々と、「そうだ」「やってられるか」と言って、《フォックス・ハウンド》の人達が武器を捨てた。
残ったメンバーは僅か4人。16人は不本意だったらしい。
私は嬉しかった。悪魔のような人達だと思っていた人の大半が、普通の心を持った人達だったことが。
だが……
「ハッ! 何が、誰も死なない、だって?」
突然、上から声がした。病院の、広場に対して反対側。私達が戦っていた地点より、少しズレる場所。そこには、ナイフと拳銃で武装した知らない男性プレイヤーが立っていた。