第4話 ついカッとなって……
俺がFLFに入って3日後……
第2島侵略作戦まで、あと4日だ。
侵略作戦は、最前線の島の都市の全てに、それぞれ1人でも入ったら、その1週間後に行われる。
全ての都市が制覇されたのは、俺がFLFに入ったあの日。それも、俺がFLFに入る少し前だ。全プレイヤーに通知される仕様らしいので、知らない内に侵攻作戦が始まってた、なんて事態は起こらないだろうが。
俺達FLFは、山間部にあるダンジョンの《ヴァナリク山岳要塞》へ、レベル上げ兼資金稼ぎをしていた。
要塞の近くの安全な場所にベースキャンプまで張って、である。
ギルドの機能として、ベースキャンプを張れるというものがある。簡易基地で、休養テントで休めば体力は回復するし、生産プレイヤーがいる場合、その生産職専用のテントを張れば、そこで武器の整備やアイテム生産までできるのだ。
ただ、安全な場所に張らないと、モンスターに襲撃されることもあるので気をつけなければいけない。
配置はウィンドウから設定できるので、実際に身体を使ってベースキャンプを張るわけではない。だから、すぐに張れるしすぐに撤収できる。
ギルドに入らないと不利な理由がここにもあるのだ。
で、レベルも俺と軍曹、バリクが20を超えて、女性陣も10代後半まで上がったので引き上げてきたというわけだ。アイテム類の補給や、ドロップアイテムの売却、装備を整えたりといろいろ忙しいのだが、一番の目的はそれではない。
生産プレイヤーの確保。
それが俺達の目的なのである。
先ほど、FLFのメンバー全員でそれぞれ手分けして物資調達を行うことになったのだが……
「カスミは一万歩ほど譲ってアリとして、カナは何故俺と同行するんだ?」
そう。俺には同行者が2名いる。カスミとカナだ。
セットであるカスミは一万歩譲ってともかくとして、カナがついてくる意味がよくわからない。
「あ、あんたがカスミに変なことしないか監視しにきたのよ!!」
「……俺はロリコンじゃない」
「わかんないでしょ!? カスミ、かわいいから、急に変な気を起こしたりして……!!」
「か、かわいいだなんて……そんな……」
中世ヨーロッパ風の街道のド真ん中でそんなことを言ってる俺達は、それなりに目立っていた。
だからこそ……
面倒なことにも巻き込まれるのだ。
……いや、今回は別に俺達がうるさいから巻き込まれた、とかじゃなくて、フラグ的に、という意味だが。
「おいよ、嬢ちゃん。サッサと払えよ」
そんな、悪役感満載の声が聞こえてきたのだ。見ると、2階建ての石造りという典型的な中世ヨーロッパ風建造物の前に、人だかりができていた。
「……なんであなた達にお金払わないといけないの?」
さっきのイラッとするような声に相対するは、女の子の声。少し、恐怖も入り交じっているような声だった。
「なんでだって? そりゃあ、天下の《フォックス・ハウンド》がここらを支配してるからだよ。俺達は最強のギルドだ。だから、俺達は支配者。だから、税金をとる。それの何が悪い?」
なんちゅー理屈だよ、まったく……
だが、俺は面倒くさそうだったのでスルーさせてもらおうと考えた。正直、俺達は俺達で忙しいし、解決するにも、トップギルドである《フォックス・ハウンド》と事を構えなければならない。そうなると、FLFはかなりキツい。
俺やジョンソンはともかくとして、他のメンバーが。
そんなわけで、スルーしても誰にも怒られるいわれはないと……そう思っていた。
次の瞬間までは。
「そんな横暴はダメです!!」
……カスミが人混みをすり抜けて最前線に躍り出て、《フォックス・ハウンド》のメンバーの前に出た。何人いるかは知らないが、1人ではないはずだ。ペラペラ喋ってたのは1人だが。
……じゃなくて、ヒーラーのクセに何でしゃばってんだ、バカヤロォォォォッ!!
「そうよ。アンタらみたいなのが支配者だなんて、誰が決めたのよ、偉そうに!! 正直キモイ!! サッサと死んで!!」
……ってカナも喧嘩しに行ってんじゃねぇぇぇッ!!
「ああん? なんだこのチビとペチャ胸?」
「チビじゃないです!!」
「ペチャ胸言うなぁッ!! 気にしてるのにぃッ!!」
ああ~……やっぱ、胸、コンプレックスだったんだな、カナ。
今までそこをいじらなくて、ホントに良かったと思う。うん。
……じゃなくて……
「……俺も出っ張らなくちゃいけないのか……」
こうなった以上、《フォックス・ハウンド》とは敵対関係になるのは決定的だ。どうせ、組織的にやってるのだろうから。
《フォックス・ハウンド》のこのような行為はよく見られる行為だ。
まだゲームが始まってそれほど経っていないが、徐々に強者と弱者が生まれ始めている。特に、生産プレイヤーは立場が弱い。
ギルドやプレイヤーに依頼してもらわないとやっていけないからだ。逆に、生産プレイヤーにとって最大の顧客であり、プレイヤー達の主戦力であるトップギルドの3つ、《フォックス・ハウンド》《スティール・ナイツ》《ガールズ・ファイターズ》はかなり立場が強い。
お陰で、《フォックス・ハウンド》はこのザマ。やりたい放題だ。
噂では、《スティール・ナイツ》もなかなかの悪者らしい。
唯一、評判がいいのは《ガールズ・ファイターズ》だ。彼らはそれら二大ギルドを相手にして、プレイヤー達を守ろうと戦っているらしい。
もっとも、三大ギルドの中では最も戦力的に小さい《ガールズ・ファイターズ》は、毎回後手に回り、さらには人手も足りないという有り様だ。
だから、こういう光景もよくあるのだ。だが、彼女達は見たことがなかったようだ。
まぁ、普通は白昼堂々とこんな風に恐喝することはないのだが……やはりエスカレートしてきている。
第2島侵略作戦に向けての準備、といったところだろうか。
まぁ、そんなことはさておき……
「嬢ちゃん達、俺達に逆らうとどうなるかわかるか?」
「何よ?」
人混みのせいで声しか聞こえないが、とりあえずカナが《フォックス・ハウンド》のメンバーを睨んでいるのが容易に想像できる。
「1回キルした後、病院から退院したところを何度も奇襲するんだ。もう10人以上やってるぜ?」
キルされると、数日間は病院で入院し、退院後もステータスに一時的な低下が発生する。それを狙って更にキルするというわけか。
なんと趣味の悪い……
さすがに俺もカチンときた。
そうだな……俺が読んでたマンガにこんな言葉があった。
目には目を。歯には歯を。
……悪には悪を。
俺は、全くその通りだな、と1人で苦笑しながら人混みの中へ入っていった。
「そ、そんなの……」
カナが少し怯えた声を出してしまった。
ここぞとばかりに男達はカナとカスミを脅しかける。
「《フォックス・ハウンド》にたてついた罰、きっちり受けてもらおうか」
「てかさ、連れ帰っちゃおうぜ?」
「いいないいなぁ……ひゃははは!」
誰も助けようとはしない。野次馬達は、結局のところ、我が身が大事なのだ。
それについて、俺は責める気はない。なにせ、俺もさっきまではそう考えていたからだ。
だが、さすがにここまでやられるとな……
まだ大人の真の怖さを知らないカナやカスミに、連れ去られて乱暴されるようなことはあってはならない。……というか、そもそも大人の真の怖さを知る必要もない。
俺は、覚悟を決めた。
背中にかけてあるアサルトライフル《バルムンク【Ⅰ】》に武装変更し、人混みをすり抜ける。
目標との距離は5メートル。外さない。
「ウゼェよ、ボケが」
俺の声に反応した軽装の……まるで盗賊のような装備の《フォックス・ハウンド》のメンバー6人がこちらに顔を向ける。
そのうちの、俺に近い2人に発砲した。
弾丸は寸分の狂いなく、それぞれの顔面に直撃した。普通なら弾道予測線や警告などが表示されるので、容易に回避できるはずのライフル攻撃。だが、システムサポートを切れば、相手のそのサポート機能も消える。
2人はまともにヘッドショットを食らった。
ライフル攻撃は、対人戦において、必ず部位破壊を発生させる。人間が頭部を部位破壊されるとどうなるか。
即死するのである。
2人の男は一瞬でHPが全損して倒れた。只今、絶賛死体オブジェクト中。
「な、な、な……」
あまりのことで言葉が出ない男。
「猿じゃねーんだから、言葉を喋ろーね」
そいつに向かってヘッドショット。無論、即死。
残存敵3人。
「き、貴様……!」
「うっさいよー?」
ヘッドショット。更に即死。
「ど、どうなってる……? ライフル攻撃は警告が出て、弾道予測線が」
「チンパンジー以下の脳みそじゃ、このメカニズムはわからないよー?」
バン!
射殺。
「お、おい……どういうつもりだ……俺達に逆らえば、お前だって」
「じゃあ、《フォックス・ハウンド》を皆殺しにすりゃいーじゃん?」
俺の言葉に、《フォックス・ハウンド》の男だけでなく、野次馬達やカナ、カスミまで息を呑んだ。
ああ、やっぱこのやり方が一番落ち着くわ。悪人には力による制裁。
悪人は人の話を聞かないからな。
「バカな……俺達は最強のギルドなん」
「無能が揃って最強? 笑わせんな、ウジ虫が」
俺は男を一睨みしてヘッドショット。
射殺した。
辺りの野次馬が恐怖を孕んだ目で俺を見てくる。それだけでなく、最初に突っかかられていた少女や、カナ、カスミまで。
……つい、カッとなってやっちゃいました、スミマセン
では、すまないだろうなぁ~。
俺は、密かに心の中で嘆息した。