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第1話 FLF

俺は、先ほどの《デウス》のアナウンスの後、まだ人気のない平原でゴブリンを見つけた。只今レベル3。

もう少ししたら、もっと強いところへ移動するつもりだ。だが、その前に……



二丁持ちスタイルでの超接近戦の練習でもしますか。


右手には新しく購入した《HGー2》が、左手には《HGー1》が装備してある。サブマシンガンやハンドガンは両手持ちできるらしく、上手く扱えば火力強化に繋がる。しくじれば取り回しの更なる悪化を招く。


もっとも、俺はステータス以外のアシストの大半を切っている。せいぜい、オンにしているのは、照準したところがわかる、照準表示くらいだ。


ゴブリン2体と同時に戦闘開始。


俺はとりあえず突っ込む。射程内に敵を入れないと、まず意味がない。


両手ハンドガンで連射する。懐に入るまでにHPの6割を奪った。

初期武器である《HGー1》は弾数無限だが、《HGー2》からは弾薬が必要だ。

弾にはもちろんお金がいるので分不相応な弾の無駄使いは赤字を招く。これも、銃が敬遠される理由の1つである。

ちなみに、銃の威力は銃術スキルの熟練度で決まる。ステータスでは変わらないのだ。ただ、銃は強化の段階が多いので一応、最後まで使える武器ではある。それでも使われないのは弾薬費に使いづらさ、魔法の存在が大きい。


とりあえず、無駄弾はさけつつ、今度は体術で攻める。本来は副次的攻撃であるが、割と使える。

至近距離でぶん殴り、隙あらば撃ち、距離を取れば連射する。

それが俺の戦い方だ。


ただ、これは反射神経や運動神経、反応速度といった能力の高さが問われ、更にシステム外で必要な努力があまりにも大きい。ただ、使いこなせればノーダメージで敵を倒すのも不可能ではない。


そんなわけで、敵をすぐに抹殺した俺は、そろそろ次のエリアに行くことにした。


俺は、平原から荒れ地っぽいところへ移動した。このゲームでは、島やダンジョン、街以外には名前がつくことがあまりない。

ただ、風景が変われば敵も変わる、といったものだ。


とりあえず……


「どんな敵かな……って、またゴブリンかよ……ん?」


俺はレベルアップボーナスのスキルスロットに《エネミーサーチ》を入れた。おかげで敵の名前だけはわかる。《ゴブリン・シーフ》だ。ゴブリンさんの盗人バージョン。元から悪人面してるからなぁ、ゴブリンは。

ついに犯罪まで手を伸ばしたか。


《エネミーサーチ》は、熟練度が上がればレベルや弱点部位、弱点属性やドロップアイテムが表示され、さらには索敵で周囲の敵やプレイヤーを察知できる。無論、こちらは最初から使える。熟練度の上昇によって索敵半径が広がるという特典付きだ。

現在は半径50mの範囲を知覚できる。


とりあえず、俺には《ゴブリン・シーフ》という名前しかわからなかった。多分、俺よりレベルが高い。

まぁ、《最先端科学兵装》のスキル出現条件によると、《ゴブリン》でさえ俺よりレベルが高い。


とことんレベル的に弱い自分を嘆かわしく思った。

と言っても、正式サービスは一昨日からだったらしいから、プレイヤーレベルにはあまり差がない。

義妹曰く(閉じ込められる前)、現在最高レベルは21らしい。廃人さんっぽいな、その人。


まぁ、俺は戦闘狂の自覚があるがな。



「行くぞオラァッ!!」


俺は叫び、両手にオートマチックを構えた。

ゴブリン・シーフの索敵半径に入ったのか、気づかれるが構わず突っ込む。


発砲。ヘッドショット。1割弱減少。


「くそ……固いだろ、クソッタレ!!」


俺は文句を言いながら、CQCに入る。世界広しと言えど、ゴブリンとCQCをしたのは世界でも俺だけだろう。

両手が銃で埋まっているため、ゴブリン・シーフの顔面を銃床でぶん殴る。人間なら鼻血が咲き乱れる汚らしい現場になるはずだが、ゲームだし相手がゴブリンだしで、そんなことは起きないらしい。


ようやく若干のノックバックが発生した。更に顎に1発発砲。ヘッドショット判定。

その間に足をかける。ふらつくゴブリン・シーフに体当たり。

言うまでもなく転倒するゴブリン・シーフ。

足でゴブリン・シーフの体を踏みつけ、頭に二丁拳銃を突きつける。相手が動き回り、反撃をしてくるならともかく、身動きが殆どとれず、反撃もできないこの体勢なら、俺の勝利は決定的だ。


「あばよ、ドロボーさん」


そのとき、俺はゴブリン・シーフの目に恐怖の色が現れた……気がした。

無慈悲に、冷酷に、残虐に、頭に弾丸を10発近く撃ち込む。両手拳銃だし、持っている拳銃がオートマチックであることもあり、10発ぐらいなら数秒で撃ち終わる。


ゴブリン・シーフは死体オブジェクトと化した。いきなりウィンドウが現れ、経験値とG、ドロップアイテムを確認する。

そのウィンドウが消滅すると、新たなウィンドウが現れた。



『エクストラスキル:ウェポンベイを獲得』


ウェポンベイ……現在手に装備している武器以外にも腰や背中にも装備できるというものだ。そこに装備したものは、いつでも手に装備できるようになるらしい。


銃が少ない今はともかく、この先、かなり有用なスキルかもしれない。一応、出現条件を確認する。


『自分よりレベルが5以上上の相手にノーダメージで勝つ』

『銃術で上記の条件をクリアする』



アユに見せたら、人外生物とか言われそうだ……








それから1週間後、プレイヤー達も数多く街から出るようになり、クリアに向けて精進するようになってきた。

まぁ、そういう空気はいいものだろう。だが、俺は近い将来の心配をしていた。


他人を踏みにじってまでして上に這い上がろうとする輩が出てくることを。

そして、あくまでも勘だが……


このゲーム……


何かしら、プレイヤーの命が刈り取られる可能性が潜んでいるのではないかと……


後者の答えは、更に1週間後の第2島侵攻作戦で明らかになることを、この頃の俺は知る由もない……







ある日、第1島中央部の盆地に広がる《始まりの街》に次ぐ大きさを誇る《アスタナ》にて。

俺はギルド員募集ボードで、ある表記を見つけた。


ギルド名:フライングアイランド・リベレーション・フォース


リーダー:ジョンソン



銃使い、魔法使い、弓使いを求む。





他のギルドはもっと大々的に書いてあるのに、このギルドはあまりそういう感じだった。だが、それよりも……



銃使いを募集している。



「行ってみるか……」


彼らがよくたむろしている店が記述されていたので、俺はそこへ向かった。



そこは、街の中央から少し外れたカフェだった。


中に入ると、プレイヤーらしき人物が5人。

俺はソイツらに近づき、声をかけた。


「お前らがフライングアイランド・リベレーション・フォースか?」


俺がこの長ったらしい名前を言うと、リーダーらしきいかにも兵隊やってました的なアフリカンアメリカンな人がこちらに目を向けてきた。


「参加希望か?」


アフリカ系アメリカ人みたいな姿をしている割には、流暢な日本語だった。だが、なんとなく外人なんだろうな、と理解する。


「ああ」


俺は頷いた。


「武器は?」


「銃だ」


「ふむ……いいだろう。だが、我がギルドはこれが全員だ」


「フォース(軍)じゃなくて、もはやユニットの規模だな」


「うむ……軍事について、多少の心得はあるようだな」


ユニットとは、現代のマジな戦争における、戦略的戦術的1単位を示す。

戦闘機や軍艦は1つで戦術的単位、集まれば飛行隊や艦隊として戦略的単位となる。


現在、フライングアイランド・リベレーション・フォースの総戦力は歩兵6人相当。

もはや1分隊規模だ。

ユニットになれはしても、戦略的価値はほぼない。


「まぁ、よろしく頼むぞ。私はジョンソン。本名だ。君は?」


「俺はユージ。俺も本名だ。やっぱりアンタ、外人だったんだな。軍隊にでも入ってたのか?」


「少しな。……では、他のメンバーの紹介だな。前衛には剣士兼銃士のバリク。近接戦では我が軍最強だ」


「軍つっても6人だけだろ、隊長」


「つっこむな。虚しくなる」


ジョンソンもなかなかの苦労人だな。


「ところで、このギルド……軍隊? まぁ、どっちでもいいけどさ。名前長すぎる。略すときはどうすんだ?」


俺は尋ねた。


「ん? 普通にFLFで……って、それはギルドステータスに書いてあるぞ?」


バリクが言った。


「あっ……まだシステム的にはギルドに入ってなかった」


俺の言葉にバリクがため息をついた。






とりあえず、ギルド加入をシステム的な面でも済ませて、自己紹介の続きを始めた。


「次に、弓使いのリンだ。弓は状態異常攻撃に長けるからな。……まぁ、魔法があるから価値は半減だが」


「でも、一応、弓以外にも短剣持ってるから大丈夫よ」


この人は20歳過ぎくらいの女の人だ。気の強そうな目が特徴的で、まぁ……美人の部類かもな。


「次はカナだ。銃の中でもショットガンやマグナムなどの短射程大火力武器を使う。マグナムは弾薬費が高いから奥の手だが」


マグナムやロケットランチャーの弾薬費はかなり高い。と、いうより、そもそももっと上の階層で使うことを想定されているため、そういう価格設定になっているのだろう。おそらく、マグナムを装備ときも彼女の筋力値はギリギリのハズだ。


「あたしは突撃役ね。近接火力なら自信あるわ。けど、格闘戦とか無理だから」


カナは自分の役割を言った。まぁ、その装備ならそうなるわな。


「次に唯一の魔法職だ。ヒーラーのカスミ。攻撃力は杖で殴るだけだから、蚊が刺す程度だと思え」


俺を含めて、このFLFで最年少と思われるカスミは、おそらく中学生か小学生くらい。


「あ、あの……よろしくお願いします!!」


慌てながらもキッチリ礼儀正しくするのは、なんとも微笑ましい。


「ちなみに、私はスナイパー兼コマンダーだ。……そろそろ君のバトルスタイルを教えてくれないか?」


「ああ。まぁ……俺は基本的に接近戦だな」


「ほう?」


ジョンソンが興味を持ったようだ。他のメンバーも俺をジッと見てくる。リンは美人だし、カナは俺と同年代で美少女だし、カスミはカスミで美少女だ。ちょっと幼いけど。

だから、少し緊張したが、それは無視する。


「基本的には二丁拳銃と体術で攻撃する。CQCやガン=カタ、柔術とかもできる。PvPなら、それなりに実績がある。自分よりレベルが5以上上でも勝てる。対モンスター戦でも機動力を生かした乱闘を得意とする。アサルトライフルを使った強襲とかスナイパーライフルを使った狙撃とかもできる。が、今まで防御力や魔法攻撃力は無視した能力構成をしてきたから、紙装甲な上に魔法は全く使えない。魔法防御力だけは、範囲攻撃魔法があるから、それなりに上げてある。大半は筋力と敏捷力につぎ込んでる」


「アタッカーとしてはかなり有用だな。銃だけに偏っている上に、防御力は皆無。代わりに臨機応変な攻撃力を提供できる、ということだな」


「ああ、そうだ」


「なら、カスミ」


「ハイ!!」


「お前とユージで1単位だ。多少の回復ならリンもできるからな」


「え……それってどういう……」


カスミが意味分からない、といった様子で困惑している。


「ユージはダメージを食らうとHPが大量に減る。防御力が薄いからな。その分、攻撃能力が高い。彼が、その高い攻撃能力を活かすためには君の回復能力が必要なんだ」


「は、はい。わかりました」


カスミは緊張した面持ちで言った。最後にジョンソンは俺に向き直り……


「ユージ、カスミを守ってやってくれ。あと……いくら美少女だからって、手を出すことは許さんぞ。我が軍の女性陣は新兵を呼び込むにはちょうどいい」


「……アンタ、だいぶクソみたいな奴だな」


「何とでも言え。私はFLFが一流ギルドと肩を並べて戦える日を夢見ているのだ」


「第2島侵攻作戦には参加できるんじゃないか? まだギルド数、少ないし」


この世界でボス戦に相当するのは侵攻作戦である。最大20のギルドから最高20名ずつ、プレイヤーを出して次の浮遊島の特設エリアに飛行艇で上陸。

敵を殲滅する。たまにボスが出てくるが、だいたいの場合、それなりの強さのモンスターがわんさか出てきて物量戦となる。


それに勝てばその島の最初の街を解放され、そこから探検を始めるのだ。


ちなみに、浮遊島間の行き来には定期便の飛行艇を使うか、ギルドで保有できる飛行艇を使うかの2択しかない。

できるだけならギルドに入った方がいい理由がこれである。

定期便では行けない浮遊島だってあるし、そもそも平均して3日に1回くらいしか定期便を飛んでくれないのだ。


ギルド保有の飛行艇なら、街からならどの街からでも搭乗できるし、そこそこ大きい街になら着陸できる。

そして、侵攻作戦でも使える。飛行艇を強化してガンシップとしても使えるのだ。もちろん、モンスター側にも何らかの対抗手段はあるのだろうが。


だが、飛行艇は高額だ。基本的な飛行艇でも、SONIC:MkⅠの10倍の300万Gくらいする。


このゲームではギルドホームがない代わりに飛行艇があるようなもので、飛行艇はかなり大きく、移動拠点としても有用だ。

だからこその高額なのだ。どのギルドも購入できるのはずっと後だろう。


「ま、とりあえずよろしくな、カスミ」


俺はカスミの頭を撫でて優しく言った。


「ふぇ……あ……」


最初は驚いたようだが、心地良さそうにしているカスミがなんとも可愛らしい。

……決して、ロリコンではない。



「どうやら、カスミはユージにときめいたようだな」


バリクが彼らに聞こえないように言った言葉は、誰にも聞かれることはなかった。









展開が早いですが、ギルドに入らないと進展がないので、サッサとユージにはギルドに入ってもらいました。


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