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第一時限「フェートン号事件から蛮社の獄まで」

時代としては江戸時代、12代将軍 徳川家慶(いえよし)の時代に蛮社の獄がありました。

「さて、この二つの流れは教科書にもばっちり書かれていますね。」


教科書を持って作者(以下、私)の前に立った秋津島。相変わらずお堅い敬語だな…とため息をつく。


「ため息は求めていません。フェートン号事件から蛮社の獄まで、説明できますか?」


「えっと…」


私は手元の教科書に目を落とす。あぁ、あった。なになに…


「『北方での対外的な緊張に加えて、さらに幕府を驚かせたのは、1808年(文化5)年のイギリス軍艦フェートン号の~』うわ、早速年号来た」


「何泣きそうな顔してるんですか。ここでは年号では無く流れとして理解していきますので、ひとまず年号はどこかに置いといて下さい」


そこで私は秋津島を見上げる。それを確認し、「基本事項です」と言って目の前の黒板に何か書き始めた。


   フェートン号(イギリス船)

   当時対立していたオランダ船を追って長崎へ入港

   日本から薪水(しんすい)・食糧を奪って国へ帰る


「これがフェートン号事件の流れです」


「ここまでは理解できた。ところで教科書には『薪水・食糧を強要し』って書いてあるけど?」


「自分で分かる言葉に置き換えることが、理解への近道です。『強要』で理解できますか?」


「うーん…正直分からなかった。そうか、日本から薪や水、食糧を奪っていったと考えた方が分かりやすいかも!」


そういうことです、と秋津島は笑顔を向けるがすぐに「ではこの事件を受けて幕府がとった行動は?」と突っ込んできた。私はあわてて教科書をめくる。


「えっと…あ、『白河・会津両藩に江戸湾の…』」


「そこはいいです。教科書で言えばその後です」


「え、これも教科書に書いてあるけど…」


「蛮社の獄までつなげるにはあまり必要ありませんので」


「へぇ…そんなもんなの?」


「そんなものです。さぁ、次を読んでごらんなさい」


秋津島に促されて、私は再び教科書に目を落とす。そして太字で書かれた言葉を見つける。


「『異国船打払令いこくせんうちはらいれい無二念打払令むにねんうちはらいれい)』?」


「そうです。それはどちらも同じ意味ですよ」


「えーっと…」と、苦笑いで私は秋津島を見る


「これ、どんな令なの?」


「外国船が来たら理由問わず(二念なく)打払いなさい、という命令です。いくつか対象外はありますがそれもここでは気にしないでおきましょう」


へぇ…と私は頷く。また秋津島が黒板に何か書き始めた。


   フェートン号事件を受けて、異国船打払令(無二念打払令)を出す


さて、と秋津島はこちらに向き直り説明を続けた。


「次に起こるのがモリソン号事件です」


「あ、それは分かる!確か、日本人漂流民を日本に送り届けに来た船が追い払われた事件でしょ?」


えっへん、と得意げに答える。秋津島は驚いたように一瞬目を丸くした。


「あらすじはそんなところですね。さて、ここまで来ればどうしてモリソン号が追い払われたか、分かりますよね?」


私を試すような声色で尋ねてくる秋津島にちょっと気押されながら、黒板に書かれていた言葉を読み上げる。


「異国船打払令が出ていたから」


「正解です」


またにっこりと笑顔を向ける。この笑顔が出ると次は…


「ではモリソン号はどこの国の船でしょう?」


やはり突っ込んだ質問が出るんだ、と私は思う。「アメリカ」と答えてから教科書のある言葉に引っかかりを覚える。


「ねえ、軍艦とか商船って区別しなくていいの?教科書には書いてあるけど…」


「区別したところで、それぞれがおこなったことは変わりませんからまずは船の名前、国名、それに関係した事柄を結び付けてください」


「なるほど」


暗記が苦手な私だからこそ、覚えることが少しでも減ったのは素直に嬉しい。そこで秋津島は黒板に、モリソン号事件の基本事項を書きだす。


   モリソン号(アメリカ船)

   日本漂流民を送り届けに浦賀に来航

   異国船打払令により追い返される


「ついでに申し上げますが」と書き終えた秋津島は振り返りながら言う。


「今後登場するアメリカ人はほとんどが浦賀に来航しています」


「そうだったんだ…」


私はノートの端にメモを残す。ここまでくればあとは蛮社の獄を残すのみだ。

そう思って秋津島の次の言葉を待つ。


「さて、モリソン号事件を批判したのは誰と誰でしょう?」


へ?と私は固まる。批判?

そんな心境を読み取ったかのように秋津島は付け加える。


「著書などの作品に関して書名とその作者だけ覚えたのでは、ほとんどの場合使い物になりません。その作品がどんな内容のものなのか、あるいはその作品に関係してくる事柄も一緒に覚えましょう」


「…わかりました」


「ならば質問を変えますね。蛮社の獄で処罰されたのは誰と誰でしたか?」


私はこの質問を待っていたのだ、と明るい声で答える。


渡辺崋山(わたなべかざん)高野長英(たかのちょうえい)!」


「正解です。ではそれぞれの著書は?」


笑顔と共にまた突っ込まれる。そこで私はあ…と考え込んでしまった。


「書名は二つわかるんだけど、どっちの著書か分からない…」


そう私が呟くと、秋津島は黒板に作者と書名を書き出した。


   渡辺崋山 『慎機論(しんきろん)

   高野長英 『戊戌夢物語ぼじゅつゆめものがたり


「戊戌は漢字が紛らわしいので筆記試験ではお気を付け下さい」と秋津島は付け加える。


「二人はモリソン号事件を、その著書を表すことで批判したんだね」


「はい。そしてその二人を処罰したのが『蛮社の獄(ばんしゃのごく)』と呼ばれるものなのです」


流れが分かりましたか?と私の顔を秋津島は覗き込んでくる。


「えっと、こういうことでいいんだよね」


―――フェートン号事件を受けて出された異国船打払令の影響で、モリソン号事件が起こる。それを批判した渡辺崋山と高野長英は、蛮社の獄で処罰された。


「そうです。これでこれらの言葉が出された並び替えなどは問題ないでしょう」


「こんなに長くやったのに、まとめるとこれだけなのか…」


疲れたような声で私がつぶやくと、秋津島は苦笑していた。


「ちなみに異国船打払令を取り上げれば、続きの話があるんですよ」


「え?」


「モリソン号事件の後、1840年にイギリスと清の間でアヘン戦争がおこります。そこで当時最強だと思われていた清は敗れ、開国を余儀なくされたのです。日本側はそれを知り、どう思ったと思います?」


「えっと…イギリスの強さに怯えた?」


「はい。このまま外国へ厳しい対応をしていては清のように戦争に負けて、外国の統治下に置かれかねないと思ったはずです。そして異国船打払令を緩和して『薪水給与令(しんすいきゅうよれい)』を出しました」


「薪水給与令って、日本に来た外国船に薪や水を与えること?」


「正解です。そうすることで穏便に事を済まそうとしたのでしょう。ちなみに『薪水』と書いてありますがこれらは燃料・食糧の事を指しますよ」


「薪と水だけじゃなかったのか…」


へぇ…と感心していると、秋津島は教科書を閉じて例の笑顔で私に告げる。


「さて、今日はこのくらいにしましょう。復習をお忘れなく。日本史は覚えることが一番大事ですので」


「が、がんばります」




会話形式、「私」視点で話を進めてまいりました。

え?秋津島はなぜ敬語なのかって?

…ごめんなさい、作者の趣味です(ry


質問、間違いなどの指摘、リクエストなどありましたら喜んで受け付けます。


次回予定、「難波宮から近江大津宮までとその後」

ちなみに話毎の時代に関しては、このように行ったり来たりします。ご了承ください。

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