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第七章・進む

  ロボットって、この世界は何色に見えてんだろ?

             ―・・灰色かな。やっぱ。


 だとしたら、私とハチ、今きっと同じ世界の中にいる。




由香が家を訪ねてきたのは、雨がぽつぽつ降ってる午後のことだった。

私は突然の訪問に慌ててハチを隠した。

このコがいた店で、あの日さんざん

「こんな高いもの誰が買うの!?」

とかわめいていた由香に

「私が買いました。」

なんて言えない。

それに由香の事だからきっと、私のこと「おかしくなっちゃった」とか思って余計心配するに決まってる。


はぁ・・でも、また泣いてしまった。

ロボットなんか買ってなくたって泣いたとこ見せたらだいなしじゃん。

由香には結局心配かけてばっかりだ。



― 晃彦は生き返らない。ある日私のもとに晃彦が帰ってくるなんてことはありえない。そんなこと、期待しても仕方ない。


でも、もしかしたら・・・・・


 なんて未だに思っている私は、やっぱり頭がおかしいのかもしれない。




「ハチ、私どうしたらいいのかな。由香には進まなくちゃって言われたけど・・“進む”ってどうゆうことだろ。」

「・・・・・・・・・」


 やっぱり、ハチにこんなこと言っても答えてくれるはずはない。

・・・・お喋りロボットとか、いないのかなぁ。お悩み相談とかしてくれるやつ。

   なんて考えてたら急にハチが口を開いた


「“ススム”のケンサクガ、シュウリョウイタシマシタ」


  ・・・は?


「“ススム”トハ、1.マエ ノ ホウニ ススム。2.モクヒョウ・シンロ ナドヲサダメテ ソレヲ ハジメル。3.―」


   ・・・・・・・。


「ふっ=3 あははっ」


私はおもわず笑ってしまった。


「何ソレ!“進む”の意味なんて、自分で調べるどころか人に聞いた事もなかったよ。あんがと。」


やっぱ、お喋りロボットとかじゃなくて、ハチでよかった。





   晃彦、私ちゃんと笑えてるよ。

こんなロボットとか買っちゃたりして、変かもしんないけど。

 アナタは今、何処にいますか。私のこと見ててくれてるの?ちゃんと傍にいてくれてるの?

心配とか、してくれてたりするの?

    でも、

でも私にはアナタが見えない。

いくら傍にいたって、心配してくれてたって、ちゃんと、その大きな手で触ってくんなきゃ、感じることもできないのよ?

   ねぇ・・晃彦、会いたいよ。

会って話がしたい。あの世とこの世の境目なんて関係無しに、会いに来てよ。

   でなきゃ、アタシ・・―




「泣かないで。」


   ふいになにかが私の頭にふれた。

    え?

「・・・晃彦?」

そんなことあるはずは・・・でも私は、やっぱりキセキを信じてた。


けれど、振り返るとそこにいたのは     ハチだった。


ハチが私の頭にその動かしにくそうな手をのせている。


「ナカナイデ。」


いつもの機械的な声でそう言った。

ロボットのハチが、私に「泣かないで」って・・・

心なしか、ハチの顔が悲しそうに見えた。

「あ、また泣いてたね。ロボットにまで心配させてどうすんだ、アタシ・・ははっ」


けど、涙があとからあとから流れて止まらない。

 晃彦への思いも止まることはない。

ハチはその後ずっと、黙ったまま私の頭に手をのせていた。

晃彦とは明らかに違う、暖かくもなんともない手なのに、なんか晃彦みたいで、私はそのまま動けずに泣いていた。




 後になって説明書を読み返すと、ハチには学習機能というのがついていて、人間とコミュニケーションをとるうちにだんだんと、人間らしくなるらしかった。

喋り方がきれいな発音になったり、習慣づいた事は言われなくてもやるようになるらしい。


でも、なぐさめてくれるなんて・・?

あれも学習機能のおかげなのかな。

―テレビか何かでそうゆう場面を見たのかもしれない。




  今思うと、あのときの私にとってハチは、既に大切な存在になっていたように思う。

人間でもない、動物でもない、生身じゃない機械、ロボット。

ハチに感情がないからこそ、私は一緒にいて心地よかった。

気をつかわなくてすむ存在。気を使ってもらわなくてすむ安心感。

 ハチは私の話を聞いてくれる。ただ聞いてくれる。見当ハズレの答えは私を和ませる唯一の言葉だった。


  ハチの値段、100万円。高くなんてなかったよ。



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