第二章・空っぽの生活
第二章まで気にして見に来てくれた方!ありがとうございます(^^)
晃彦がいなくなって一人になった私を、母は心配して家に帰ってくるよう言ってきた。私はその頃、実家から遠い大学に通っていたため、家を出て一人暮らしをしていた。
「部屋から出る気力がないの」
そう私が言うと、母は私の部屋に泊まりに来た。私を一人にしたら死ぬんじゃないかと思っていたらしい。
実際・・・もし、あの頃あの家で晃彦と同棲なんてものをしていたら、私は確実に死んでいたと思う。
晃彦の空気を肌で感じながら生きていくなんてきっとできなかった。晃彦のもので溢れた部屋で寝るなんてきっとできなかった。きっと、自殺していた。
その時 私は母のために 生きていた。 私は 死ねなかった。
これ以上母に心配をかけてはいけないと思った。そう考え、動く事はつらかったが、逆に「自分のためではなく誰かのために私は生きている」と思える事は、私を少し楽にさせてくれた。
「夕飯何にする?」
冷蔵庫を覗きながら母が言う。母がここに来て三日目の夜。
「何でもいい。」
私は本当にどうでもいいというように答えた。
「それが一番困るのよ〜?」
眉間にしわを寄せて母が言う。気をきかせてご飯を作ろうとしてるわりには普通な母の態度を見て少しほっとした。
「じゃ・・カルボナーラ。」
と答えて、その日は母が作った“カルボナーラもどき”を食べた。母が作るオシャレな食べ物はみんな“もどき”になる。
夕食を食べ終わって片付けも終わると、いきなり“夜”が来た。
眠るための夜。眠れない夜。
私は晃彦の夢ばかり見た。晃彦が事故にあって死ぬ夢。あの最後の日の夢。私はその場面を実際に見たわけでもないのに、なぜだか夢は日に日に濃く、鮮明なものになっていった。
トラックにはねられる晃彦、その身体がダイヴして地面にたたきつけられる。流れる血、どこかから悲鳴が聞こえる。それが他人の声なのか、自分のものなのか分からないまま、目が覚める。
・・・隣には母が寝ていた。思わず母の腕に自分の腕を絡めて抱きつく。せっけんのにおいがした。そのにおいを大きくすってから私は腕を離した。いつまでも母にたよっていてはいけない。一人で歩かなければ・・一人で逝った晃彦のためにも。
母が来て一週間が経った夜、私は食器を洗っていた母に突然、
「もうダイジョウブだから。」
と言った。テレビを見てるフリをして、おもいっきり平静を装って。
「父さんたちも母さんがいなくて困ってるよ、ご飯とか、家事全般ダメでしょ?あいつら。」
母は手をとめずに
「だからアンタはかわいくないのよ。」
と言った。
「もっと人をたよっていいのよ?家族なんだし・・。強く見せなくたっていいの。そんなに抱え込んでちゃいつか壊れてしまうわ。」
最後のほうは手を止めて、少し悲しそうな顔をして。
―だって、しょうがないじゃない。私は壊れてしまいたいのよ。
そう口にはださなかったが、かわりに「大丈夫、死なないから。」と答えた。
次の日の朝、無理やり母を追い返した。父と弟がいるあの家に。私の家族が待つあの家に。きっと帰って来てほしいんだろうけど私はまだあの人たちと一緒にはなれない。
しばらく 一人にして。
母さんがいなくなった部屋はまた冷たくなった。何すればいいんだろう。大学にも行かず私はここでずっと晃彦をひきずったままで、いつ抜けだせるんだろう。
そんなことを思っていたら、いきなりケータイが鳴った。
着信画面、“ゆか”
大学の友達からだ。鳴り続ける着信音を切ることも出来ず、重い気持ちで電話に出た。
「はい・・」
「麻穂?」
すぐにはね返ってきた、久しぶりに聞く由香の声。
「ねぇ麻穂、今何してるの?大丈夫?ずっと家にこもってるの?」
受話器の向こうにはきっと、苦しく顔をゆがめた由香がいる。優しい由香。
「晃彦君が死んで辛いのは分かるけど、少しでも大学来てみない?そしたらほら、何ていうかその・・こんな時に勉強もアレだけどさ、逆に今の麻穂には打ち込めるものが必要なんじゃないかと、思うんだ・・。みんなだっているし・・。」
かぼそい由香の声。
由香と私は大学で知り合った。同じ学部の友達の一人で、晃彦も一緒に三人で遊びに行ったこともある。そうだ、由香に男を紹介するとか言って晃彦が他の友達を連れてきたこともあった。
―・・ダメだ。今の私はどうしても晃彦が頭から離れない。
「ゴメン、まだそんな気になれないんだ。でも、ありがとう。」
『・・・・・・・・・・・』
しばらく沈黙が続いたあと、急に由香が
「麻穂、今度の日曜ひま?」
と、きりだしてきた。
「買いたい物があってさ、誰か一緒に買い物付き合ってくれる人探してたの。ね、一緒に“どっか”いかない?」
と言ってきたのだ。
「買いたい物がある。」というわりには「“どっか”いかない?」なんて言ってる。
―優しい由香。
私のためにわざと自分が行きたいから、って連れ出す口実を作ってる。そんな由香の気持ちにこたえたくて、私はその誘いにOKをだした。それに、外に出る口実ができたことで少しだけど自分がここから抜け出せるような気がしていた。
今度の日曜・・
久しぶりの外出、友達、買い物。
その時までは、まさか自分があんなものを買うなんて想像もしなかった。
その日、私は闇の中、たったひとつだけそこにあった光を
見つけた。
第三章からようやくこの小説の主体(?)みたいな部分がでてきます。
ので!第三章も見ないと損よ〜♪(笑)
よろしくお願いします。