【01】 始まりは追いかけっこから - ⑤
校舎裏を突っ走り、裏庭へとやってきた二人。
彼は学校の敷地と外を区切るフェンスを掴む。緑色のフェンスは、彼の身長のおよそ二倍の高さである。
網目に足を僅かに引っ掛け、フェンスを登って行く。
廊下の走行よりも重い校則違反。それを規則に従順な彼女がする筈が無いと、考えた上での行動だ。
その時、既に、彼女が先生に言いつけたり、叱られて反省文を書かされるという可能性がある事は、頭から消えていた。
「なっ……! 何をしているの!」
「見りゃわかるだろ、登ってんだ」
彼がついと視線を下へ向ければ、そこには自分を見上げる彼女の姿があった。
驚いている彼女に淡々と返せば、彼女は顔を顰める。
「登るのはともかく、フェンスを越えるのは校則いは――」
「でも、越えなかったら追っかけて登ってくんだろ?」
彼女の言葉を遮り、彼は問いかけた。
その言葉に、彼女は嫌な予感を感じ再び口を開く。
「貴方、一体何をする気?」
「わざわざ聞くか?」
答えという答えを出さず、彼はフェンスを登る。
そして遂に頂上まで辿り着くと、彼女に向かって不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあな、風紀委員さん」
「越えてはいけないわ! 待ち……っ」
彼はフェンスを跨ぎ、その向こうへと飛び降りようと手の力を抜いていく。
「――待ちなさいっ、紅牙蓮!」
彼の姿は、フェンスの先にある草の茂みに隠れて見えなくなった。