【01】 始まりは追いかけっこから - ③
途中で女生徒にぶつかったが、特に怪我をする事もなく彼は下足室に辿り着いた。
三年生の靴箱が設置されている場所へ行き、急いで上靴を脱ぐ。運動靴に履き替え、脱いだ上靴を乱暴に靴箱へと突っ込んだ。
彼が運動靴を履き終えたのと、追ってきた彼女が下足室にやって来たのは同時だった。
「今日こそは、そのだらしない格好をどうにかしてもらうわ!」
「断る!」
彼女の言葉に一秒の間もなく拒否した彼は、下足室から出て中庭へと走る。
その後を、素早く運動靴に履き替えた彼女が追う。
それは、例えるなら猪と兎。
追いかけるのは女生徒。眉を吊り上げ眉間に皺を寄せ、時折声を上げて止まる事を促しながら怒りの形相で走る。
女であるが男よりも速い彼女。同じ学年だが、男である彼を勇ましく追う姿は、猪に近い。
一方、逃げている生徒の足も速く、迫って来る猪に負けない程の足の速さだった。
脱兎の如く学校の敷地を走り回る彼は、捕まらない様にと全力で逃げている、というより、追ってくる者をからかいながら逃走している。
そんな彼らの追いかけっこは、最低でも週に一度は起こる騒ぎである。
「お、やってるやってる」
「二人とも頑張れー」
校舎の三階にある窓から顔を出し、二人に声を掛けている生徒。
追う方や逃げる方からすれば体力の消費や時間の浪費なのだが、第三者から見ると面白いと告げる者もいる。
現に、こうして面白半分で中庭へと声援を送っている生徒が二人。
「やっぱ見てて面白いね。よくあんなに騒げるよ」
「うん。きょーも凄い速さ」
そんな二人のやり取りなど知る由もない彼と彼女は、相変わらず走り続けていた。