【01】 始まりは追いかけっこから - ②
走る彼女は、階段を下りていった彼を追いかけて自分もひとつ、またひとつと段を下っていく。
階段を下り切った所で、彼女の標的である彼の背が見えた。
「待ちなさいっ!」
眉を吊り上げ、彼女は声を張り上げた。
しかし、彼は足を止めず、首だけを彼女へと向けた。
「待てって言われて待つ奴が居るかよ、バーカ」
丁寧に舌まで出し、からかうように彼女を見る。
それが癇に障ったのか、彼女は眉間に皺を寄せて彼を睨む。
彼女の表情を見て面白そうに笑う彼は、やはり彼女をからかっていた様だ。
だが、機嫌の悪い彼女の顔を見ていて、彼は前を見る事を忘れていた。
「うおっ!?」
「きゃっ!」
どん、と誰かにぶつかる。
相手は女生徒。つい先程の女生徒との衝突は免れたが、今回はそうは行かなかった。
彼はふらついたものの、直ぐに身体の均衡を保った為大丈夫だった。
しかし、女生徒は無事ではなく、職員室の戸の前にどさりと尻餅をついた。持っていたプリントが辺りに散らばり、ひらひらと舞う。
彼は尻餅をついた女生徒を見て、げ、と顔を歪ませる。
本当ならプリントの一枚でも拾ってやりたいが、そんな余裕は無い。
「わりぃ! 今急いでるから!」
頭は下げず口だけで謝ると、彼は走り出す。
「あ……」
待って、と言おうとしたものの、彼は既に下足室へと駆け込んでいた。
職員室の前で呆然としている女生徒の前を、彼を追う彼女が通り過ぎる。
中途半端に伸ばされた手は何も掴まず、残ったのは上靴の跡がついたプリントだけだった。