卓上の盤
王と王子は部屋から出ていき、私たちはその場で待つように厳命される。
その間に、頭に出てくる違和感は、やはりこの出来過ぎた状況だった。
「リアリス、偶然ではないのか?……」
「……まだ何の確証もありませんが、現在の状況は、整い過ぎています。まるで誰かに作られたように」
「作られた状況か……」
ヴァン様は少し考えるように腕を組む。
「何か心当たりが?」
「……少しな」
この感じ、まだ確証はないのだろう。
そうしていると、王と王子が帰ってきた。
「待たせたな」
「陛下、王妃様の容体は?」
「ああ、それなのだがな……」
「ただの疲労ですよ」
王の言葉を遮り王子が言う。
「疲労ですか……」
「うむ、医者が言うには、最近の行き過ぎた警戒のせいで、疲労がたまっていたのだそうだ」
まさに、今回、裏で手を引いている人間が喜びそうなことだが、王妃様を疲労で倒れさせる目的はなに?
「王子、あなたですか?」
「え?」
ヴァン様は王子を見据えて言う。
その手微かに震えている。
それは怒りなのか、恐れなのか。
「ヴァン公爵、なぜ私が、そのようなことを?」
「理由は分かりませんが、あなたが得意そうなことです。盤上の駒を動かし、整理し、合理的に目的を果たす。まさにあなたの手口だ」
「ほう?幼馴染を疑いますか?」
まさか二人が幼馴染とは。
だが、確かに年齢は近そうだし、同じ高位の貴族。
交友があっても不思議ではないのかもしれない。
「幼馴染だからこそですよ?」
「と言うと?」
「あなたはいつも周りのことなどお構いなしで、目的を果たすためには多少の無茶も要求する。そんなあなただ、今回の件も裏で糸を引いていても不思議ではない」
「ふむ。だが、それは単なる憶測だ」
「……」
ヴァン様もそれは分かっていたのだろう。
肯定も否定もしない。
その代わり強く王子を睨んでいた。
「そうですか……」
ただ、そう言ってヴァン様は黙ってしまう。
私はヴァン様の震えている手を軽く握る。
ヴァン様はこちらを向き軽く頷く。
ここからは私の仕事だ。
「まずは、落ち着きましょう。先に首謀者の狙いをはっきりさせれば答えもおのずと出てきます」
「うむ、そうじゃな」
私は一息入れて話し出す。
「疑問なのですが、そもそも今回の狙いは本当に王妃様だったのでしょうか?」
「どういう事じゃ?」
「それはですね、狙いが王妃様なら、もう少しやりようがあったはずですし、何より過労がたたって倒れても、王妃様には結果大きなダメージにはなりません」
「確かにのう……」
「なので、今回、王妃様が倒れたこと自体は、偶然または副産物の可能性があります。そして本命は別にあるのかもしれません」
今回の件は決して直接的ではなかった。
まるで、手加減をしているみたいな調整だ。
すべてがそう思わせる。
「本命か……」
「はい、おそらく王妃様に警戒させることは、あくまで目的達成のために必要だったため。なので、本命は王妃様がかかわる何かと考えるのが自然かと思います」
「……関係すること…」
陛下は手を顎髭に持っていき触る。
「何か心当たりはありませんか?」
「うむ……実は今回の祝宴に、王妃も参加予定だったのじゃが、もし参加していたなら、そこで祝辞を述べてもらう予定だったのじゃ」
「祝辞とは?」
「うむ。今後の公爵家のますますの発展と、今後も王家との良い関係が続けられるようにという、内容の物じゃ」
なるほど……確信一つ。
「狙いが分かりました」
「ほう?」
王子は面白そうな様子だった。
まさに余裕と言った表情だ。
それもそのはずだ。
なにせ、悪意はないのだから。
「首謀者の狙いは……あぶり出しです」
「あぶり出しとな?」
「はい、首謀者は王家と公爵家の勢力が、強まるのを嫌がっている貴族をあぶりだしたかったのです」
「リアリスそれは……」
「はい、王妃様の本来予定されていた祝辞の内容は、王家と公爵家の関係強化に繋がっていたでしょう。それをなくすことで、反応を見る、また油断させることが、目的なのです」
そう、首謀者からしたら、王妃が倒れるのは想定内。もし倒れれば余計に貴族は反応する。それならそれでよし。倒れなくても参加さえしてくれなければいい。
つまりどちらに転んでもよかったのだ。
「だが、其方の言う事が本当なら、王宮に内通者がいることになるな」
「はい、祝辞の内容を知られていることを考えると、内通者がいる可能性は高いです。今回はその内通者の親元をあぶりだすためでもあったわけです」
私は王子様の目を静かに見つめて言う。
「それが、僕の仕業だと?」
「ええ、あなた以外は可能性が極端に低い」
「というと?」
王子様は面白そうにしながら聞いてくる。
まるで面白いおもちゃを見つけたような目だ。
「まず、他の貴族などは利がない。そして危険だ」
「危険?なぜだい?」
「考えればわかりますが、王妃の暗殺の噂など、流そうものなら国家反逆罪に問われてもおかしくない。リスクが高すぎます。そしてこれで得するのは王家か公爵家。なら答えはおのずと出ます」
「王が自演している可能性は?」
「それなら、わざわざ愛する奥様を倒れるやり方はなさりません。それに、わざわざ私に話すこともありません」
「そうか……ふふふ」
よほど面白いのか笑う王子。
その様子は私にはひどく歪んで見えた。
「ビンセント…誠か?」
王は静かにだが強く怒っていた。
「ええ、私です」
「なぜ!?そんなやり方を!!」
「父上、あなたは甘すぎます。あなたのやり方では非効率そして間に合わない」
「間に合わない?」
「ええ、有事の際には後手に回る。それでは遅いのです」
彼の目は真剣そのもの、そして国を思いやるその目も、本物に見えた。
「ビンセント…」
王の目はひどく悲しく見えた。
それは、一父親としての目だ。
「私は、この国を守りたのです」
「そうか……」
誰も否定はしない。
だが、肯定もさせはしない。
「綺麗な舞台ですね………私は嫌いですが」
「ふむ。そうか……」
王子は口元に手をやり少し笑っていた。
「舞台裏は汚く表面上だけは綺麗。まるでご自身を映し出しているかのようですね?」
「な!?」
ここで初めて王子の余裕の表情は消える。
ただ、すぐに驚きの表情は消えた。
そうして、好奇心の旺盛な子供の目が出てきた。
「其方は面白いな?」
「そうですか」
私はここぞとばかりにそっぽ向く。
「ふふ、可愛らしいものだな?」
そういって私の頬を触ろうとしてくる。
その一歩手前でヴァン様が王子の手を止める。
「戯れもいい加減にしろ。ビンセント」
「おーこわい、こわい」
彼の目は本気そのものだった。
王子相手に殺気全開だ。
どうも私に触れられるのはいやらしい。
なんとなくだが、可愛いものだと思った。
「すまぬな。奥方」
「いえ、旦那様が守ってくれましたので」
「ふふん!」
なんというどや顔だ。
はあ、先が思いやられる。
そうして無事に王からの頼み事はすんだのであった。
その夜、王城。
「急がねばな…」
王子は一枚の報告書を見てそうつぶやく。
報告書には隣国の名前が滲んでいた。。
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