予定された恐怖
私は今、公爵家に来た時のごとく、馬車に揺られていた。
お尻が痛い。
と言うのも、一通の手紙が原因だった。
その手紙には王家の刻印がされており、省略するとこう書かれていた。
「公爵家の新たな妻を見たい。パーティーを開催するので王城に来てくれ」
王家の呼び出しを無視はできないため、こうして私はヴァン様と馬車に乗っているのであった。
「はあ」
「そう落ち込むな。王城なんてめったに行けないぞ?」
「お願いされても、生きたくない場所ですけどね……」
私みたいな貧乏貴族は一生縁のない場所だと思っていた。
そんな王城が今、目の前にあった。
「公爵様のご到着!」
見張りの兵士が大きく告げる。
「おお、あれが公爵家の……」
「噂の男か……」
馬車を降りると周りがこそこそ話していた。
「ヴァン様あれは……」
「ああ、俺の美男ぶりが、ここまで伝わっているのだ」
「なぜ、どや顔なのですか……」
この人は緊張すらしていない様だった。
「ヴァン様、今日呼ばれた理由って……」
「そのことか、まあ、おそらく先日の件だろうな」
そう、先日の事件は王家には報告済み。
何か言われてもおかしくはないが、いったい何を言われるのやら。
「いい予感はせんな」
「……はい」
会場は煌びやかで眩しく着飾られていた。
「これは……壮絶な無駄遣いですね?」
「リアリス、頼む。王の前ではそれを言わないでくれよ?」
「はい……」
周りを見渡すとある地点に列が出来ていた。
先頭は王様がいた。
みんな、招待された者たちは、挨拶をしに行ってるようだ。
「さあ、リアリス。俺達も行こう」
そうしてヴァン様に誘導されて列に並ぶ。
案外、早く私たちの番は来た。
「陛下、今回は素敵な祝宴を開いていただきありがとうございます」
王様はニコッと笑い言う。
「いいのじゃ、いいのじゃ。おぬしほどの男の妻じゃ気になりもするじゃろう」
王は手で顎髭を触りながら私を見てくる。
「して其方が奥方じゃな」
「は、はい。妻のリアリスでございます」
私は慣れぬお辞儀を披露する。
「ふははは」
王は耐えきれぬと言わんばっかりに、手で膝を叩きながら笑いだす。
「其方はやはりティア殿の娘じゃな」
私はまさかの名前に驚き固まる。
「母を、ご存じで?」
「うむ、其方の母君にはいろいろ世話になった」
「そ、そうなのですか…」
母よ、あなたはとんでもない人から相談を受けていたのですね……
「聞いても面白くない」と言ったのも、あながち間違いではなかったわけだ。
「して今日は、其方に一つ頼みごとがある」
「頼み事ですか?」
「そうじゃ、この後、個室に案内させる。そこで話そう」
「かしこまりました」
そうして私たちの挨拶の番は終わった。
「嫌な予感が的中だな?」
「……ですね」
まさか、王直々に頼み事とは……
血筋かな?
少したって私たちは個室に案内される。
そこにはすでに王がいた。
「良い、座るのじゃ」
「はい」
王の許しが出て椅子の座る。
「で、頼み事とは?」
「うむ、実は我妻…王妃のことなのじゃが、最近おかしいのじゃよ」
「おかしい?」
「そうじゃ、前まではお茶会や舞踏会に顔を出して、王妃としての役目を果たしてくれていたのじゃが、最近になってめっきりでなくなっての」
王は紅茶を一口飲み、険しい表情だ。
「このままでは、王妃としての資格を問われる。それは困る。だから原因を調査してほしいのじゃ」
「なるほど……ちなみに王妃様には直接理由はお聞きに?」
「うむ。だが、「大丈夫です」としか言わないのじゃ」
「大丈夫です」か……
「王、なぜそれをリアリスにお頼みに?」
ヴァン様が王に尋ねる。
その手は少しせわしなく動いていた。
「先日の件わしのほうでも調査しておるが、黒じゃよ」
「……それは、隣の領主で確定だと?」
「うむ。その件は密偵から話を聞いておる。見事に奥方が解いてしまったらしいの?」
「……それを聞き、うちのリアリスに頼みたいと?」
ヴァン様の目線は鋭くなっていた。
「そうじゃ」
「それは、いくら公爵家の妻と言え、荷が重いのではないのでしょうか?ひとたび誤ったことがあれば、首も飛びかねないと思いますが?」
「安心するのじゃ、今回の件は内密なこと。首が飛ぶ、また何か罪になることもない」
「証拠は?」
「このわしの言葉じゃぞ?」
二人の間には火花が散っていた。
二人とも気持ちが出ているのか体が前のめりになっていた。
「ヴァン様ご心配ありがとうございます。ですが、大丈夫です」
「リアリス…」
彼なりに心配していたのは伝わった。
だが、王家と事を構えるのはよくない。
「この件リアリスが承りました」
立ち上がり綺麗なお辞儀で答える。
「おお、そうか!」
「はあ」
旦那様は呆れている。
自分から危険につっこむのだ。無理もない。
だが、ここで断れば似たようなものだ。
仕方ない。
「まずは、王妃様の様子をお聞かせいただけますか?」
「うむ、最近王妃は、何か怯えているかのように警戒している。それゆえに護衛もたくさんつけておる」
「大丈夫です」とたくさんの護衛。
仮定が一つ。
「まだ、仮定ですが王妃様は脅されている可能性があります」
「なに!?どいつじゃその不届き物は!」
王は椅子から立ち上がり声を荒げる。
この様子だと、よほど愛妻家らしい。
「落ち着いてください。まだ仮定ですよ。陛下」
「そ、そうじゃな……」
ヴァン様が陛下を落ち着かせる。
「理由ですが、王妃様の言葉「大丈夫」が関係しています。これは相手を安心させたいときにしか出てきません。つまり、王妃様は、何か心配されるような状況にいる可能性があります」
私は視線を王に確かに強く向ける。
「そうか……」
「それを裏付けるように怯えている様子、そして護衛の増加。が理由です。ですが、陛下はこのことに気付いていましたよね?」
「うむ……だが、そんな予兆も危険も周りにはないのじゃ」
王はさぞ困ったのだろう。
頻繁に髭を触っていた。
「そうですか、なら可能性は一つですね」
「可能性?」
「はい。王妃様が存在しない危険に怯えている可能性です」
「どういうことかの?」
「陛下、考えてみてください。陛下ほどの方が調査させて、周りに危険がないのなら、それは少なくても九割は本当です。つまり、存在しないのです」
「リアリス一割はどうなる?」
ヴァン様は心配そうに聞いてくる。
それこそが肝だ。
「一割。それが大切なのですよ、ヴァン様」
「どいう事だ?」
「普通、王妃様ほどの人物に危険が起こりえるのはあり得ません。護衛もいますし、毒見役もいます。多方面的に見ても、普通の人より安全です。だけど完璧じゃない。それが、王妃様を怯えさせているのです」
「つまり、あるかもしれないが怖いと?」
「はい」
二人はただ、その瞳を閉じながら考えている。
おそらく想像しているのだろう。
存在しない恐怖を。
「だが、なぜ急にそんなことに?」
「それは、分かりかねますが、少なくても王妃様が警戒するようなことがあったはずです」
「そうか……」
「何か心当たりはありませんか?」
王は手を口元に持っていき考える。
「一つだけ気になっていることはある」
「それは?」
「噂じゃ」
「噂?」
「そうじゃ」
王は両手を膝の上に置き話し出す。
「最近、市民で流れている噂がある。それは王妃の暗殺じゃ」
おかしい。
普通ならそんな噂流れない。
そんな危なく、根拠のない噂。
違和感一つ。
「陛下、それは当たりかもしれません」
「うむ。そうかやはり……」
「そして、陛下、今回の噂、高位のものから意図的に流された可能性があります」
王は黙っていた。
その顔には驚愕ではなく。
納得した顔だった。
「考えていたのですね?」
「うむ。市民に流れる噂としては大きく、そして根拠のない話。普通なら笑って済まされる。だが、噂になっている。つまり、根拠が多少はあると言うわけじゃ」
「はい、ですので、高位のものからが流された噂である可能性は高いです」
「つまり王妃は、意図的に噂に脅されていると?」
そう、間接的に脅されているのは確かだ。
「はい、誰か高位のものによる脅迫です」
「ふむ、そうか……」
一つの噂が存在しない脅しにもなる。
だが、そこに人が絡めばそれは被害妄想ではない。
間接的脅迫だ。
「父上!!」
ドアから勢いよく美男が入ってくる。
その髪は王と同じ金髪だった。
「ビンセントどうした?」
「母上が倒れられました!」
その言葉に、部屋の空気が凍りつく。
「なんじゃと!?」
陛下が立ち上がる。
だが――
私は、ほんの僅かな違和感を覚えていた。
倒れた?
噂が流れた直後に?
あまりにも、出来すぎている。
偶然にしては、整いすぎている。
「……ヴァン様」
私は小さく呟く。
「これは、本当に“偶然”なのでしょうか」
それとも――
誰かの“予定”なのか。
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