燻る戦火
「で、ヴァン様その疑惑とは?」
私は改めて覚悟を決め聞く。
「……そもそもだが、誤って殺したと言っても直接手を下したわけじゃない、間接的にという意味だ」
「間接的ですか…」
「そうだ。戦時中、隣の領地ニビアは食糧難だった。ニビアは公爵家に助けを求めた。だが、不幸な事故が起こった。補給隊が移動途中で敵軍に襲われた」
「だから届けられず餓死で領民が大勢死んだと?」
「ああ、補給部隊は何とか生き残ったが、食料はその時点で元の数の十分の一にも満たなかった」
「ここまでの話では疑う点はなかったと思いますが……」
ここまでの話だとむしろ感謝されど恨まれるいわれなどはないはずだ。
「問題は補給部隊だ。俺はそのことが気になって調べた。だが、その当時の補給部隊に関する資料は一切残ってなかった」
「……隠ぺい工作を疑われているのですね?」
「なにも、理由がなく考えているわけじゃない。俺は先代。俺の父に話を聞いた。だが「余計な火種は消すべきだ」としか言わないんだ」
「余計な火種……」
そのワードは強く頭に残った。
「俺は真実が知りたい……」
彼の声は低く、そして、重く響いていた。
「分かりました。さっそく今日から探ってみます」
「頼む。俺は書斎で仕事をしてる。もし何か気になることがあるなら、聞きに来てくれ」
「分かりました」
そうしてさっそく行動を開始する。
「とはいえ何から探せば……」
「リアリス様、いいでしょうか?」
「うん?フランどうしたの?」
「もしお迷いなら、まずは、資料庫に行ってみてはいかがでしょうか?」
「え?でも、資料はなかったんじゃ?」
「その当時の資料はないかもしれませんが、何かヒントになる情報はあるかもしれません」
確かに、早計はいけない。
特に何も今はヒントがないんだ。手あたり次第確認しよう。
「分かった。行きましょう」
そうして資料庫に来たのだが……
「これ全部?」
「はい」
そこには膨大な量の資料があった。
「これは大変ね……」
「はい。私も手伝いますので頑張りましょう」
「ありがとう」
そうして資料を探ること1時間。
「はあ、何もないわね」
確かにヴァン様の言う通り、その当時の戦時資料は何も残ってなかった。
「あったのは帳簿だけね……」
これでは何のヒントにもならない。
だが唯一の資料でもある。
そう思い目を通す。
「すごい……さすが公爵家ね……」
そこにある収益の金額はうちと比べ物にならない金額だった。
そうして当時の帳簿のページを確認していると不思議な項目を発見した。
「何でこの月だけ以上に食料を買っているの?」
「その月はちょうどニビアが食糧難になっている月でございますね」
なるほど。じゃあ、この大量の食料費はニビアへの補給物資と言うわけだ。
「……でも、多すぎじゃない?」
「それだけ食糧難だったと言う事でしょうか?」
「いや、ニビアは小さな領地、これだけの食料は過剰ともいえる量だと思うの」
「自分たちの分も含んでいるのでしょうか?」
「……それも考えたけど、帳簿を見るに、自分たちの分は定期的にちゃんと買ってる。だからわざわざ多く買う理由はいらない」
「……じゃあ、なぜでしょうか?」
そう、それが分からない。
食糧難の為に多く買う。
そこはわかる。
仮に過剰に買ったとしたら、その後の食料の購入は鈍るはずなのに帳簿では定期的に自分たちの分は買っている。
「どういうこと……」
必要だから買うわけだが、実情はそんなにいらなかった。
じゃあ、なぜ?
私は頭をひねるが今ひとつピンとこない。
そうして考えから逃げるように周りを見る。
そこには大量の資料が鎮座している。
「こんなに資料っているのかな?」
「そうですね。でも、必要だから多いのでは?」
「必要だから……」
その言葉に引っかかりを感じる。
「……そうか」
「どうしましたか奥様?」
「フラン、ありがとう」
「は、はい?」
「必要だったんだよ。文字通り」
「ですが、なぜ?」
「まだそれは分からない。ただ、おそらく食料が大量に必要だった目的がある」
だが、これ以上は資料がないため目的は分からない。
「ねえ、フラン当時の補給部隊員いるの?」
「たしか、一人まだ現役で勤務しているものがいます」
「わかった。じゃあ、次はその人のもとに行こう」
「はい」
そうして私は騎士たちが訓練している訓練場に来た。
訓練場は騎士たちの熱気に支配されいる。
まさに灼熱だった。
私は、近くにいた騎士に話しかける。
「あの、少しよろしいですか?」
「はい?お、奥様!?」
騎士は驚き動揺していた。
「な、何か御用でしょうか!?」
「えっと、戦時中に補給部隊にいた方に話を聞きたいのだけど…」
「ああ、あの人ならあそこに」
指さす先には酒を飲んでひくひくしていた老兵士がいた。
「あのー?」
「ひく、なんじゃ?」
「あなた戦時中に補給部隊にいた人ですよね?」
「……無駄じゃよ」
「え?」
「わしは何も話さん」
彼の回答には二度目を感じられた。きっとヴァン様も聞いたに違いない。
「それでは一つだけ」
「……ひく」
老兵はなにも言わない。
肯定も否定も。
「食料は本当にニビアに渡すための物だったのですか?」
「!?」
老兵の肩は微かに上下した。
それで仮定ができた。
「ありがとうございます」
「……ふん」
私はその場を後にする。
「奥様、良かったのですか?」
「ええ、これで仮定は出来た」
「仮定ですか?」
「ええ、だから次は証拠が必要だけど、証拠は消されている。生き証人も黙秘。だからこれは、ここまで」
「では、終わりですか?」
「いいえ、最後に確認したいことがあるわ。ヴァン様に会いましょう」
「分かりました」
私は一直線にヴァン様の書斎に行きノックする。
「ヴァン様。リアリスです」
「おお、入れ」
中に入る懐かしい光景が目に入った。
それは、書類と格闘している姿だった。
「すまないな。少し待ってくれ」
「はい。気にしないでください」
そうして待つこと十分。ヴァン様はペンを置き顔をあげる。
「すまない。待たせたな。ここに来たと言う事は何か聞きたいことがあるんだな?」
「はい」
「どんなことだ?」
「ヴァン様。当時の戦況はどのような状況だったのですか?」
「……当時か」
ヴァン様は苦虫を潰したような顔をしていた。
「当時は戦況が膠着していてな。緊迫していたよ」
「理由は何ですか?」
「どちらもやはり食料困難だ」
「そうですか……」
私は仮定が確信に近づき一層足が重く感じた。
「最後にですが、当時ニビアは攻められたら終わる状況だったのではないですか?」
「あ、ああ。食糧難は兵士にも影響力があってまともに防衛できる状態じゃなかったそうだ」
確信が一つ。できた
「ヴァン様、仮にですよ。仮に先代。ヴァン様の父上がニビアを守るために嘘をついていたらどうしますか?」
「……どういうことだ」
空気は重く張り詰め、されど決して時は止まらない。
真実を知るときは来た。
それが残酷でも。




