雨の多い日
その日は、屋根のあるウッドデッキで二人で紅茶を飲んでいた
「気がめいります……」
そう、雨が二週間も降り続いている。
雲は厚く、黒く、空を覆っている。
「そういうな。雨は必要だぞ?」
「わかってはいますが……嫌です」
髪は癖が強くなるし、うねる。
湿気は髪にはきつい。
「リア、知っているか、この世界には雨がほとんど止まない街があるのだぞ?」
「そんな街があるのですか?」
「ああ、海の向こうにある国の街でな、そこは一年中ほとんどが雨だ」
「……それは嫌ですね…」
少しげんなりする。
「でも、素敵な感じもすることないか?」
確かに、雨は神秘的で素敵な面もある。
雨音の響く音。雨独特の匂い。
すべてが幻想的で素敵だと思うが……
「私には大敵です……癖毛が余計に酷くなりますから」
「可愛いと思うがな?」
「それは当事者じゃないから言えるのです」
少しむっとする。
頬はふくらみ怒りをアピールする。
「すまない。本音なのだがな」
「そうですか……」
頬が少し赤くなる。
雨音が少し遠く感じる。
「で、なのだがな。その街は一年中雨でろくに作物が育たないらしい」
「それは大変ですね?」
照れていたのがばれないように平然と答える。
「理由が解明されていないらしくてな、と言うのもそのおかげで観光客が多くて、解明する理由がないらしい」
「合理的な理由ですね」
「ああ、だが、気になりはするな」
「まあ、そうですね?」
旦那様はニヤッと笑う。
「どうだ?この問題を先に当てた方の言う事を一つ聞くと言うのは?」
「え?別に私は言うことを聞かせたいことなど……」
「いいや、ある!」
「え?い、いや……」
「あるもん!」
もん!?
どこまで旦那様はこのゲームをやりたいのだ。
キャラを崩壊させてまでやりたいとは。
「そこまでいいならいいですが…」
「ほ、本当か!?」
肩をもって聞いてくる。
脳が揺れる。
「は、はい」
「約束だからな!」
彼は息を荒くして屋敷の中に入っていく。
「フラン、ヴァン様は本気よね?」
「ええ、本気かと」
何をやらせたいか分かんないけど、あの気合入れ方は恐ろしい。
こちらも頑張らなければ。
そうして始まった対決なのだが……
「結局同じ場所に来るのですね……」
「そうだな……」
私たちは二人とも資料室に来ていた。
仕方ない。遠く離れた国の地域のことだ。せいぜい資料をあさることしかできない。
「とはいえ……なにもいい情報はないですね?」
「そうだな、先程から観光についての情報しかない」
つまりそれだけこの国の人は関心がないと言う事なのだろう。
まあ、マイナス以上にプラスな点が大きいのだそれも当然だ。
「うーん。こまったな。これ以上の情報がない」
軒並み調べたが、めぼしい情報はない。
色んな資料が並べられている中、地図が目に入る。
そこにはその地域の位置が示されていた。
「この領地は領地の境目なのですね?」
「ああ、そこの街は、その特性ゆえにどの領地にも属していない特殊な地域だそうだ」
「二重の意味で特殊ですね」
「ああ、かなり特殊でその国も扱いは独立小国家扱いだ」
私は地図を見直す。
領地の境、半分は山地。半分は海辺。
何か引っかかりを覚える。
雨は屋根にたたきつけられ妙に居心地が悪い。
脳内に直接響いているような感じがした。
そういえば、地形による天候について書かれた本に書いていた気がする。
海沿いの街では海の上で水が蒸発して、空気に大量の水蒸気が含まれる。
その地域は湿った空気が大量に供給される。
そして、雨は必然的に多くなる。
そして、山地。
湿った空気が山にぶつかると、逃げ場がないので上に押し上げられる。すると空気は上にいき、温度が下がり、水蒸気が雲になる。その結果、雨が降る。
これをつなぎ合わせると……
「ヴァン様、この地域は風向き的には海から山ですか?」
「うん?ああ、この資料にはそう書いてあるな。山側に多く風が吹くと」
つまりこれは偶然ではない。
ちゃんとした地形的な理由がある。
「ヴァン様、私に勝ちです」
「なっ!?」
「これは偶然、起きたものではない。地形によって説明できるものです」
そうして私は天候の話をする。
「理解はしたが、それでほぼ一年中雨が降ることは可能なのか?」
「可能です。鍵はもう一つ」
耳で雨風の音が強くなるのを感じる。
そうこれだ。
「風ですよ」
「風……そうか!先程の質問は…」
「はい、風が海から山に向くことで湿気がずっと供給され続ける。それにより雨は異常に多くなると言う事です」
流れで言うと海の上で湿った空気が出来る。
それが山にぶつかる。
空気が上昇。
雨になる。
これがずっと繰り返される。
「これによってその領地は一年中ほぼ雨の日が多かったのです」
雨の匂いが一層強くなり、湿気を感じる。
まるでこの国ではないようだ。
そう、異国のようだ。
「はあ、完敗だ……」
旦那様は肩を落としている。
目は虚ろだ。
まさかここまで落ち込むとは。
「えっと、ヴァン様?」
「……なんだ?」
私は一息置いて言う。
「今回はヴァン様からも情報をいただきました。なので両者勝ちと言う事にしませんか?」
「!?……いいのか?」
「はい、私は特にお願い事はありませんがヴァン様はあるのでしょう?」
「……ある」
少し目線をそらしながら告げる。
それに伴い雨も弱くなる。
「それで、お願い事とは?」
「……名前」
「名前?うん?どういうことですか?」
「名前で……呼んでほしい」
うん?今も呼んでいると思うが?
何かのテストなのかな?
「ヴァン様」
「い、いや、そうではなくて……呼び捨てで呼んでほしい……」
「よ、呼び捨て!?」
そんな!?
もし私のようなものが公爵家の旦那様の名前を呼び捨てにするなんて……
「だめか?………」
上目づかいで聞いてくる旦那様。
く、イケメンで、しかも権力者のお願い断れるはずがない。
どんな意図があるかは不明だが、ここは一肌脱ぐとき!
「ヴァ、ヴァン……」
「……」
旦那様は固まっていた。
その間も雨は降っていた。
雨音が屋敷中に強く鳴り響いていた。
「ヴァ、ヴァン?」
「ぐは!?……」
旦那様は鼻から鼻血を出した。
そして、そのまま後ろに倒れた。
「ヴァ、ヴァン様ーーーーーー!!」
二人のゲームは終わった。
だが、雨はいまだ止むことを知らず。
その匂いはどこまでも香っていた。




