二人だけの謎
私たちはベネットの様子を見に兵舎の休憩所に来ていた。
そこは土ぼこりがたち、埃の匂いがした。
「すまない、少しいいか?」
「はい?こ、公爵様!?こんな汚い場所になに用でしょうか?」
「ああ、ここに運ばれてきたベネットと言う男性に話を少し聞きたくてな」
「ああ、彼ですか、彼ならそこの部屋にいます」
「ありがとう」
部屋の前に行きドアをノックする。
「はい?」
「君に少し話が聞きたい、いいか?」
「は、はい」
ドアを開け部屋に入るとやはりまだ隈が黒くなっている彼がベッドに座っていた。
「公爵様!?」
「ああ、気にしないでくれ少し君に聞きたいことがあると俺の妻が言うのでな」
「は、はあ」
彼は驚き異常に焦っていた。
その様子はやはり違和感しかない。
「ねえ、あなた本当にただの寝不足?」
「え、ええ。研究で徹夜が多くて……」
「倒れるほどなのですか?」
「は、はい」
筋は通っているが、それならわざわざ外に行かなくても……いや、外に出たい理由があるのでは?
「そんな状態で外に行ったのですか?」
「食料がなくて仕方なく……」
「そうですか……」
やはり筋は通る。
だが、整い過ぎな気がする。
「あなた何の研究をしているの?」
「薬物の研究をしています。それがなにか?」
「興味があるのだけど、家にお邪魔できないかしら?」
その時彼は明確に肩が大きく上がった。
「いえ!家は荒れているのでご勘弁してください!」
「そ、そう」
「リア無茶を言うのはいけないぞ?」
「すみません」
「い、いえ。気にしないでください。片付けできない自分がいけないのですから」
「すまないな。それでは失礼する」
そうして私たちは部屋を後にする。
少しの沈黙。
太陽が窓から光を差し込む。
「で、どうだった?」
「はい。やはり何かありますね」
「と言うと?」
「整い過ぎてはいませんか?」
「……確かに少し話に筋が通り過ぎている気もしなくはないな……」
ふと視線が窓にいく。
窓から見える外の風景はぼやけており輪郭がはっきりしない。
「やはりまだ何かありますね?彼」
「そのようだな」
「少し聞き込みしましょうか」
「ふふ、探偵みたいで面白そうだな?」
「ええ」
不謹慎ながら私も少し胸が躍っていた。
太陽は一段と光を増していた。
私は街の住宅街に戻って見つけたおばさんにお話を聞くことにした。
「あのー」
「うん?嬢ちゃんなんだい?」
「ベネットさんについて何か知りませんか?最近何かおかしいとか」
「え?ベネット坊についてかい?うーん」
腕を組んで唸っている。
「最近街で倒れているのは知っているのですが、それ以外で何か変わったこととか」
「そうだね。大したことじゃないけど、最近家の近くに住んでいる美人さんと仲良く話しているのをよく見るかね」
「美人さんですか?」
「そうなの、ここらじゃ有名な美人さんで幾多の男が降られているって噂の女性なんだけどどうも最近はベネットにご執心みたいでね」
「二人は恋仲なのですか?」
おばさんは呆気にとられた顔をする。
「ふふ、ありえないよ。ベネット坊は昔から研究以外はからっきし興味がなかったからね」
「なるほど……」
「だけど、そっれが気に入らなかったのか、美人さんから猛アタックでね?ご飯なんか作って持って行ってあげているみたいなんだよ」
それはだいぶ積極的だ。
ふと昼食に食べた定食の匂いを思い出す。
何か、秘密のスパイスでも入っているのではないかと思うくらいのおいしさだった。
「スパイス…」
その言葉に何か引っかかりを覚えた。
美味しい料理には隠し味などが必須だったりする。
まさか……
「それはもしかして彼が倒れるようになったころからでは?」
「うん?たしかにその頃からベネット坊は倒れるようになった気もするかね」
なるほど……
仮定が一つ完成した。
「ありがとうございました!」
「ああ、なんだか知らないけどいいさ」
そうしておばさんのもとを去り私は旦那様と合流する。
「どうだった?何かわかったか?」
「ええ、仮定が出来ました」
「おお!こっちは彼の家の場所しか分からなかったな」
「いえ、それは重要です」
「うん?そうなのか?」
彼に直接確認しなくてはいけない。
太陽は少しずつ沈んで行っていた。
まるで終わりを告げるように。
そうして私たちは彼の家に訪れる。
ドアをノックする。
「はい?」
「私だ」
「公爵様!?す、少しお待ちください!!」
中からはどたばたと音がする。
おそらく証拠を隠滅しているのだろう。
「すまない。入るぞ」
ドアを開けると、ぐちゃぐちゃの部屋の中で鍋を持ったベネットがいた。
「それはそのまま置いてください」
「……分かりました……」
彼は大人しく鍋をコンロに置きなおす。
「あなたは料理に睡眠薬を盛られていた。でしょ?」
薬学研究者の彼ならわかっていたはずだ。
「……」
彼は肯定も否定もない。
ただ、太陽が完全に沈む。
そしてあたりが暗くなり街灯がつき始める。
「なぜ、わかったのですか?」
「整い過ぎですよ。あなたはどうしてかは分かりませんが女性を庇っている。その痕跡が残り過ぎています」
「ですね……」
「おそらく街に無理矢理、買い物に行くのも怪しまれないようにするため」
視線を鍋に向け告げる。
「家で倒れていたりしたら鍋を調べられ、彼女は捕まる。ですよね?」
「はい……」
彼の表情は落ち込んでいると言うより安心していた。
「……私はバカです。私が倒れたと聞くたび彼女はうちに来て看病してくれる。それがいつの間にか心地のいいものに変わっていたのですよ」
彼は少し窓の外を見る。
外には一つの影があった。
そこには街灯に照らされた美しい女性がいた。
「この関係を終わらせます……こんな関係よくない。分かっていたんですよ……」
彼の目に確かな覚悟はなかった。
ただ、罪悪感、そして不安、いろんな感情が織り交ぜられ、言葉を紡いでいた。
「待ってください」
外に行こうとする彼を止める。
「あなたはそれでいいのですか?私にはまだ分からない点があります」
「??……どういう事でしょうか?」
「彼女はなぜ、あなたに薬、を入れていたのでしょうか?」
「それは……分かりません」
彼の手は震えていた。
確かな感情があった。
「怖いのはいいです。ただ彼女の話を聞いてみてあげてください」
「それで何か変わるのですか?」
「分かりません……ですが、私たちは人間と言う動物です。主なコミュニケーションは言葉です。聞かなければ何も分からないままですから」
彼はなにも言わずに振り返らずに外に出ていった。
「彼女は危険じゃないのか?」
「おそらく、彼女は構いたかったのですよ……」
「……看病をしたかったのか?彼女は?」
「はい。彼女は、美人で有名だそうです。そんな彼女になびかなかった男ベネットさんに構いたかったのですよ」
答えは二人だけが知っている。
永久の謎だ。
窓の外では町が美しく街頭に照らされていた。
街灯の下では一組の男女が抱き合っていた。
確かな感情を確認するように。
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