黒い雲
「おはようございます。奥様」
「おはよう…フラン……」
窓からは朝日が差して鳥の鳴き声までセットで聞こえる。
彼女、フランは結局ギャレット様の元にはいかなかった。
なんでも、まだ、終わってないらしい?
何がかは分からないけど。
「今日の予定は?」
「特にありません」
そうあれからまた私は暇になった。
「ヴァン様おはようございます」
椅子に座りながら旦那様に笑いかける。
「ああ、おはようリア」
食器の音が響き朝を実感させる。
旦那様はゆっくり優雅に朝食をとっていた。
「旦那様は今日はお休みですか?」
「ああ、なぜわかった?」
「いえ、何となく余裕がありそうだったので」
「よく見てるな?」
「え、ええ」
言えない。
その綺麗な動作に見惚れていたなど。
「でだ、一緒に街に出かけないか?」
「街ですか?」
「ああ、結婚してから事件やらで忙しくて出かけられてなかっただろう?」
確かに旦那様とのお出かけはプライベートではない。
「いいですね」
「よし、では準備をしよう」
そうして椅子を引き席を立つ旦那様。
椅子の音がやけに大きかった気がする。
「それでは奥様も準備いたしましょう」
「え、このままの格好でもいいんじゃ……」
「だめです、せっかくのデートしっかりした格好で挑みませんと」
「大げさね、ただのお出かけよ?」
一瞬の沈黙。
鳥の鳴く声がダイニングに響く。
「らしいですよ。旦那様」
「リア、これは……」
旦那様の息遣いがやけに荒く聞こえる。
「公爵家のデートだからしっかりな」
「……また、ヘタレましたね」
そうか、公爵家の妻なのだ。
しっかりしなくては舐められてしまう。
「はい!お任せください!」
「あ、ああ」
そうしてフランによって完璧な服、化粧などをしてデートに挑むことになった。
準備を済ませて私は玄関に行く。
「お待たせしました」
高いヒールなので歩きずらい。
そう思っていたら旦那様が手を差し出す。
「……ど、どうぞ」
なぜか少しぶっきらぼうなのがおかしかった。
「ふふ、ありがとうございます」
旦那様の手は暖かくてほんのり熱を持っていた。
「そ、その服に合っているぞ」
少し目線をそらしながら告げる。
「ありがとうございます」
その時少し胸が締め付けられた。
なんだか少し恥ずかしい。
やはり馬子にも衣裳状態だからか?
「さ、さあ行きましょうか?」
「あ、ああ」
なぜかお互いぎこちない状態で街に出かける。
そうして馬車に揺られて三十分。
関所を通過して、窓からは街の光景が見える。
「すごい活気ですね。私の領地の村とは全然違います」
「ああ、ここは貿易の中心地だからな」
そこには人の暮らしの営みがそこら中に見えた。
家の間に干された洗濯もの。
路上で歌っている詩人。
元気のいい商人の声。
「まさに街と言う感じですね?」
「街だからな?」
おかしそうに笑う旦那様は少し幼くて、可愛かった。
そこに少し胸がときめきかけた。
こんな表情もできるのか……イケメンは恐ろしい。
馬車は止まり私は旦那様にエスコートされて馬車を出る。
「さあ、どこに行こうか?」
「そうですね……とりあえずお腹がすきました」
私のお腹は音をあげ訴えていた。
「ふふ、じゃあ、ご飯だな。昔からの行きつけの食堂がある。そこに行こう」
「はい」
そうして二人で並んで食堂に向かう。
「わあ、人がいっぱいですね?」
そこには人の声が圧縮されていた。
そして人自体も、圧縮状態だった。
「ああ、ここは人気なんだ」
そうして旦那様は慣れた動作で店に入る。
「店主空いてるか?」
「おお、公爵様!デートですかい?」
「ああ、ぜひここを紹介したくてな」
「光栄だな。じゃあ腕によりをかけて作らなきゃな」
「ああ、頼む」
そうして席に着きメニュー表を見る。
「この日替わり定食がおすすめだ」
確かに大きくお勧めと書かれている。
その文字は味のある文字で興味をそそられた。
内容は今日はエビフライ定食だった。
「じゃあ、それにします」
「いいのか?」
「はい、ヴァン様の好きな物を食べてみたいですから」
「そ、そうか……心臓に悪いな」
そうして、二人はおいしく食事を楽しんだ。
エビフライのおいしさは保障する。
「満足しました!」
「ああ、よかった」
今二人は街中を食後運動と言う事で歩いていた。
人の声が交差していて賑やかだ。
だが、その中で一人ふらついている男性がいた。
「おい、大丈夫か?」
「……」
男は返事がなく次の瞬間倒れてしまう。
当たりからは悲鳴が聞こえる。
それを聞き兵が駆け寄ってくる。
「公爵様!?どうかしましたか!?」
「ああ、この男性がいきなり倒れてな」
「うん?こいつはベネットか?」
兵は男性を知っているようだった。
「知っているのか?」
「ええ、ここの街では有名な科学者ですよ」
兵は訝しむように彼を見つめる。
「またなのか……」
「また?」
「はい、ここ最近こいつはよく街中で倒れていて病院に行けと言っているのですが……」
「行かないのか?」
「ええ、なんでも寝不足なだけだと」
寝不足にしては酷いありさまだと思うが。
男性の服は乱れていて隈も酷い。
確かに状況だけ見れば寝不足だ。
だが、その隈は異常的でわざとやっているのかと思うほどだ。
それが違和感になっている。
「とにかく兵舎の休憩所に運びます」
「ああ、頼む」
そうして兵によってベネットは運ばれていく。
それで、周りの人も落ち着いていった。
「とんだお騒がせものだな?」
「……」
私は考える。彼はただの寝不足。
状況証拠もある。ただ何か引っかかる気がする。
彼のその異常的な隈は暗く黒に染まっていた。
それが頭から離れない。
「すこし、時間貰えますか?」
「うん?いいが何をするんだ?」
「少し彼とお話がしたいのです」
「……気になるのか?」
私は静かに頷く。
空は青いが私の頭はあの黒い隈で染まっていた。
まるで暗雲が太込めているかのようだった。
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