瓜二つの顔
あれから数か月が経っていた。
今、私は庭で野菜をめでていた。
ここまでよく育ってくれたものだ。
「リア、ここにいたか」
ヴァン様がこちらに歩いてきていた。
「ヴァン様どうかしましたか?」
「いや、休憩するのにお茶を飲もうと思ってな、リアも一緒にと思って探してたんだ」
「もう、そんな時間ですか」
「ああ、休憩にしよう」
そうして庭で椅子に座りお茶を飲む。
「平和だな」
「ええ、いい日です」
彼との因縁にも片が付き、私たちは平和な毎日を送っていた。
フランも彼の組織がなくなり、自由の身になった。
ただ、周辺国はまだ新兵器の存在を探しているらしい。だが、フラン、そして公爵家に利用価値がないと分かるとフランを手放した。
なんともお粗末な人達だ。
「しかし、ハウゼンが静かなのは気になるな」
「はい、私もそれは感じていました」
西の大国ハウゼン。
彼が手を組んでいた国。
彼らは新兵器が完成まじかだったことも知っている。
普通なら完成図が私たちに渡ってないか探りを入れても不思議ではないが…
「まったく動きはありませんね」
「ああ、あいつの部下が持ってないなら調査の矛先がこちらに来ても不思議ではないのだがな」
そう、それも不思議だ。
彼の部下がどうなったかは知らないが、おそらく調査を入れているはずだ。
そうなるとすぐにそこに完成図がないのは分かるはず。
「ここ数ヶ月用心していましたが無駄でしたね?」
「そうだな。だが、油断はできないな」
「はい」
ハウゼンの王は悪ガキだと有名だった、第二王子だ。
何か、裏でやっていても不思議ではない。
「奥様、いいですか?」
「なにフラン?」
「これがポストに」
フランから手紙を受け取り中身を開ける。
「これは…きましたか」
「どうした?」
「これを」
旦那様に手紙を渡す。
「…また急だな?」
「はい、いきなりですが、予想通りでしたね?」
「そうだな」
それはハウゼンの王からの手紙だった。
「前回の謝罪をしたいため近日中にそちらに伺う」
と言うものだった。
「平和も終わりだな」
最近はこの日々にも慣れてきていたのに残念だ。
そうして数日後、彼は来た。
「奥様、旦那様ハウゼンの王が到着した模様です」
「わかった」
玄関に向かうとそこにはハウゼンの王が一人立っていた。
服からは泥の匂いがしており、乱れていた。
従者も護衛もいない。それに違和感を感じながら旦那様は告げる。
「ようこそ、いらっしゃいました」
「……」
王は旦那様の挨拶に返事をしない。
それを変に思った旦那様困惑する。
「どうかしましたか?」
「助けてくれ!」
いきなり王はヴァン様に縋りつく。
「は!?」
「お、お願いだ!!」
王はかなり焦っている様子だった。
「とりあえず落ち着いてください。中に案内しますのでそこで話しましょう」
旦那様は落ち着かせるように言い聞かせる。
「わ、分かった」
そうして応接間に案内する。
「で、助けてくれとはどういうことですか?」
「あ、ああ。まず自己紹介をさせてくれ」
「あなたはハウゼンの王では?」
「いや、ハウゼンの今の王は第一王子ポルタだ。俺は第二王子ギャレットだ」
「!?」
どういうことだ?
その見た目はまさに前回あったハウゼンの王そのものだった。
まさに瓜二つの顔だ
「どういうことですか?」
「俺はあいつに嵌められたのだ!」
「嵌められた?」
「ああ、俺が王の毒殺をしたとでっち上げられ捕まった」
「つまり今の王は第一王子のポルタ様で嘘の報告をしていると?」
「ああ、そうだ!あいつは俺を嫌っていたからな!」
だが、それならなぜ、第一王子は第二王子と偽っているのだろうか?
「不思議ですね?なぜわざわざ嘘などついているのでしょうか?」
「そんなのは俺が聞きたい!」
彼はただ必死な様子だった。
その目には嘘など混じりけもなかった。
「で、どうやって逃げてきたのですか?」
「俺の友人の友達が逃がしてくれたのだ」
「友人ですか?」
「ああ、すごいやつだ」
一瞬彼と重なる。
だが、彼は死んだ。
「手紙も、その人たちが?」
「ああ、公爵家ならどうにかしてくれると言っていた」
なぜそこまで言い切れるのだろう?
友人の友達。いったい誰なの?
「友人とは?」
「ジュエルだ」
やはりか。
「……つまり彼の部下の人ですね?」
「ああ」
「彼は死んでいるのに、まだ存在しているのですか?」
「そうらしいな。だが、彼らはまだ彼が生きていると信じている」
「何か根拠でも?」
「いいや、ただ、彼のなら死ぬはずはないとそう言っていたな」
妄信的な話だ。
彼らにはそれを信じるしかないのだろう。
「それで、彼らはどうしたのですか?」
「分からない。俺にもその後は話してくれなかった」
「……そうですか」
結局、まだ脅威は去ったわけではないと言うわけだ。
「で、俺を助けてくれるのか!?」
私は彼を見る。
助ける意味。
いや、価値があるのか。
「第一王子は第二王子のあなたを嫌っていたのですよね?」
「あ、ああ」
「それは、なぜですか?」
「俺が自由にしているのが嫌らしいな」
「自由?」
「ああ、あいつはまじめだからな。悠々自適で優秀な弟は嫌いだとさ」
「……執着ですか?」
「かもな……」
彼はきっと劣等感を持っていたのだろう。自分一人が王子としての責任を持ち頑張っていることに。しかも、弟の方が優秀なことに。
「あなたはどうしてほしいのですか?」
「どうしてほしい?」
「ええ、王にでもなりたいのですか?」
「そ、それは……」
彼は目をそらす。
その態度、考え方とても悪ガキには見えなかった。
「あなたは、ただの庶民になりたかったのですか?」
「なぜそれを!?」
彼は体を前のめりに出す。
「悪ガキなどと言う噂はおかしいと思ったのですよ。ならそう言われる理由などはせいぜい貴族らしい理由しか考えられなかったですから」
「貴族らしい理由?」
彼は少し困惑顔だった。
「ヴァン様も考えたことはありませんか?庶民になってみたいと」
「……ああ、昔は思っていたかもな」
懐かしむように昔を思い出していた。
その顔はどこか、懐かしくいた痛々しい記憶と言う感じだった。
「王子は今も庶民になりたいのですか?」
「ああ、俺は自由になりたい!」
彼の目はまるで子供の目だった。
第一王子からすれば非常に憎たらしい都合のいい駒にしか見えなかっただろう。
「王子、助けてほしいと言う事でしたか、私達では王子を逃がすことはできませんよ?」
「……分かっている。王子の務めを果たせと言うのだろう?」
彼は少しすねたように睨む。
「王に言われましたか?」
「……ああ、よく言われたよ」
その顔には先程までの拗ねた表情ではなく殺された王に対する悲しみが感じられた。
「提案があります」
「提案?」
「はい。ここで、少しの間暮らしませんか?」
「なぜだ?」
「私たちはあなたの濡れ衣を晴らす手段を持っておりません。しばらくはあちらの出方を見ることしかないです。ですのでその間、こちらに滞在なされたらどうでしょうか?」
彼は少し考えていた。
彼なりに迷惑を考えているのかもしれない。
「それはいいな!!」
違った。
ただ、純粋に悩んでいたらしい。
子供のような目だ。
「いいのかリア?」
「正直、危険ではありますが、予想が正しければこれで、ことは動くはずです」
「はあ」
彼は頭を抱える。
「どうしてリアには危険が付いてくるのだ…」
「すみません」
「いや、リアは悪くないだが……」
彼なりに心配してくれているようだった。
だが、ここは負けじとお願いする。
「だめですか?……」
「……はあ、分かった。負けだ」
そうして彼の滞在が決定した。
その頃、ハウゼンは大騒動だった。
大罪人の第二王子がいなくなった。
城内はその話でもちきりだった。
僕は正直、恐ろしかった。
あいつは僕が直接、排除する。
その手は剣を強く握っていた。
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