託されたもの
ハウゼンでの騒動から一週間がたった。
あの日の出来事は新聞には載らなかった。
彼のことは内々に処理したいはずだ。
その代わり記事にはハウゼンの軍事演習中止の記事が載っていた。
「やはり、こうなりましたか…」
予測はしていた。
表向きは軍事演習に間に合わすために急いで銃を完成させようとしていた。
新王もそう思っていた。
完成した銃は軍事演習でお披露目するつもりだったのだろう。
だが、本当は私にこの完成された設計図を渡すためだった。
「はあ、また厄介な物を渡されたものだ」
「ええ……」
改めてこの銃の機能には驚かされた。
これが世に出れば戦争は変わる。
彼はこれを私たちに渡してどうしてほしかったのだろうか?
いや、こう悩むのすら想定していたのかもしれない。
そっちの方が彼らしい。
「彼は私たちを試しているのでしょうか?」
「そうかもな……」
だが、私たちは一週間たった今でも、答えを出せてはいない。
彼の気持ちが見えない。
いや、それは建前だ。
本当に見えないのは私自身の気持ちだ。
「リア、戦火を広げる可能性のあるこの武器をいったいどうすればいいだろうか?」
「分からないです…ただ、戦火を広げる以上の何かにもなりえるのは確かなものです」
そう、戦火を広げる。
それも十分罪だ。
だが、この武器が増産されたとき、それはそれ以上の悲しみが待っている。
この武器を世に出すと言う事はそれを背負う覚悟があると言う事だ。
だが、そんな覚悟は私にはない。
自分の判断一つで多くの人の命を奪う。
善人も悪人も関係なく。
きっとそれはもはや、善悪だけの話ではない。
「あいつはこの武器で本当は何をしたかったのだろうな?」
「今となっては分かりませんね……」
ただ、彼はそれをやめて、私たちを試すために銃を使うことにした。
なら、私たちはそれに答えたい。
彼は、確かに大きな犠牲を出した。
だけど、決してただの悪人だったわけではない。
この武器で救われる命はたくさんあるのだろう。
だが、その倍、奪われる命がある。
私はその命を見ないふりが出来るのだろうか?
胸に手を置き考える。
悲鳴がして倒れる人々逃げまどい、死んでいく。
悲鳴が実際に聞こえるように、幻聴が聞こえる。
「リア!」
私の青ざめた顔を心配してヴァン様が声をかける。
それに気づきはっとする。
「ヴァン様…」
「一人で考えるな。時間はまだある。ゆっくり考えよう」
「はい……」
そうしてその日は一日上の空だった。
そうして時間は過ぎる。
私はベランダに出て一人星を眺める。
「風が涼しい…」
風は私の頬を優しくなでる。
「リア」
「ヴァン様」
「どうした眠れないのか?」
「はい…」
ヴァン様はそっと隣に来る。
「やはり、銃のことか?」
私は静かに頷く。
「……私は、彼の意思を無駄にしてしまうかもしれません……」
「いいんじゃないか?」
「え?」
私は一瞬呆けていた。
「なんでですか?」
「あいつはリアと俺に託した。なら、俺達の答えがあいつの答えだ。だから無駄にはならない。そう思ったんだ」
私は、彼じゃない。
そんな当たり前のことを忘れていた。
そして、託されたという事実を。
託された以上、あとは託された人の答えがすべてだ。
私は、覚悟が決まった。
「ヴァン様」
「決まったか?」
「はい」
私は気持ちをヴァン様にぶつける。
「分かった」
「いいのですか?」
「それが、答えなのだろう?」
「はい」
「なら、俺は君についていくだけだ」
旦那様の顔は確かな覚悟と信頼だけがあった。
「……ありがとうございます」
そうして夜は静かに明ける。
リアリスとヴァンの覚悟を連れて。
数日後。王城。
個室にて王子と会っていた。
「今日はどうした?ハウゼンでの土産話でもしに来たのかな?」
「いえ、これです」
私は銃の設計図を見せる。
「これは……」
「例の新兵器、銃と言うものの完成図です」
「なぜこれを?」
私たちはハウゼンでの出来事を話す。
「託されたか……」
「おそらくだがな」
「で、なぜこれをここに?君なら私に見せず処理するかと思ったのだが」
私は少し息を吐き告げる。
「相談があります」
「ほう、相談かい?」
彼の目は完全に政権者の目だった。
「はい、この設計図ですが、公開まで時間をくれませんか?」
「時間?」
「はい」
「なぜだい?」
「私は賭けたいのです。未来に」
「未来に?」
そう、確かに今でも未来でも結果は変わらない。
だが、そこまでに人類が進歩できれば、変われればいいのだ。
つまり銃自体を変えるのではない。人間を変えるのだ。
「ほう、道具を扱う者を変えると言う事かい?」
「理解が早くて助かります」
「だが、なぜ王ではなく私に?」
「今の王は完成されています。ですが、それゆえにこれ以上の革命は難しいでしょう。ですが、王子なら未来ならそれも可能かもしれない」
この王子はきっと民を見捨てはしない。なにせ、あの王の息子なのだから。
「だが、先に自然と銃が出来るかもしれないよ?」
「そうですね。腕の見せ所ですよ?」
「僕任せなのかい?」
「私たちも手伝える範囲は手伝いますよ」
「はあ、やれやれだよ」
そういう彼だが、その瞳には決してあきらめはなかった。
こういう彼だからこそ託したいのだ。
「私が託されたものを次はあなたに託します」
「ふ、謹んで受けよう」
彼は膝をついて私の手の甲にキスをする。
「な!?何をするんだ!?ビンセント!」
「なにって近いのキスだよ?」
「それは、俺だけの特権だ!!」
「はは、君はいつも小さなことをきにするね」
二人は言い合っている。
その姿を見て私はこれでよかったとやっと安心できた。
こんな人たちとなら変えられる人を思想を国を。
きっと。
同時刻。某国。
「いらっしゃい!」
「地図をもらえますか?」
「へい、まいど。兄ちゃんは観光かい?」
「いえ、学校と言うものに興味がありましてね」
「おお、学校ね、あの国では有名だものな」
「ええ、実にいいシステムだと思います」
男はリビア王国の方を見てほほ笑む。
「託しましたよ。確かに」
そう一人告げ、遠い道のりを歩きだす。
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