選ぶ。棘を。
西の大国ハウゼン。
前の王のころは平和主義で、温厚な国だった。
だが、新王になり色々きな臭くなった国である。
「こんなことしかわかりませんが、大丈夫でしょうか…」
私は馬車に揺られながら情報を整理する。
「ああ、俺も同じようなものだ。せいぜい前の王が毒殺されて政権交代になったことしか分からないな」
「え?」
今、とんでもないことを言ってなかったか?
「そ、それは部外秘では?」
「ああ、密偵からの情報だな」
私はまたとんでもないことに巻き込まれてる気がする。
だが、今更な気がする。
「で、犯人は捕まったのですか?」
「そうだな、第一王子が捕まった」
「では、今の王は?」
「第二王子が王になった」
何とも、血なまぐさい話だ。
「だが、正直、第二王子は怪しい」
「どういうことですか?」
ヴァン様は手を口元にもっていき話す。
「第一王子は温厚で知られていた。知的で賢く有能。そういう話だった。それに比べて第二王子は悪ガキ、まさにそういう人柄だった」
「つまり、嵌められたと?」
「そういう可能性はあるな。ただそれも気になる。賢く知的な第一王子はなぜ簡単に捕まった。それぐらい彼ならどうにかできたはずだ」
確かに、そんな方ならできそうなものだ。
あの腹黒王子を思い出す。
彼ならそんなことにはならないだろうけど。
「温厚な性格につけ込まれた可能性もありそうですね」
「俺はそう思っているよ」
まあ、妥当なとこだろう。
政治の世界では優しさは弱さにしかならない。
隠し、見られないようにしなければいけない。
「そんなとこになぜ、招待されたのか。嫌な予感しかしませんね?」
「まあ、あいつが絡んでいるのは間違いなさそうだな」
「そうですね……」
そうして馬車の中は静かになる。
二人とも分かっている。
今日はおそらく彼との決着がつく。
準備ができたからこそ呼び出したのだろう。
それが分かっているからヴァン様もいつも以上に緊張している。
「ヴァン様、少なくてもここは敵の本拠地、油断せず行きましょう」
「リアもな」
お互いに確認し合う。
「奥様つきました」
フランから声がかかる。
窓の外を見るとそこは大きな城の前だった。
我が国の王城にも負けない大きさだ。
馬車は城の中に入り馬車の扉が開く。
そこにはたくさんの兵士がいた。
「リビア王国の公爵様ご到着!!」
両側に兵士がいて真ん中が空いている。
派手な歓迎だ。
私たちは真ん中の道を歩き城に入る。
会場は煌びやかな空間で、まさにお金の力ですと言わんばかりの会場だった。
「しゅ、趣味が悪いですね……」
小声で旦那様に言う。
「同感だ」
その声には憎悪すらありそうだった。
先ほどの兵士といい、軍事力、財力といい、見せびらかしたいのがよくわかる。
「どうも王子はかなりの悪ガキのようですね?」
「だろ?」
二人でこそこそ話していると、中央の台に若い青年が経つ。
「皆のもの、今回はよく来てくれた感謝する」
おそらくあれが今の王、元第二王子だろう。
「今回はみんな楽しんでくれ乾杯!」
みんながグラスを上に掲げた。
そして少し落ち着くと、私達のところに彼は来た。
「やあ、公爵様。今回は招待を受けてくれて感謝するよ」
軽いお辞儀をする。
「ええ、お招きいただきありがとうございます」
こちらもお辞儀をする。
「彼から話は聞いてますよ?」
「!?」
彼は臆面もなく告げる。
「……隠さないのですね?」
「ああ、彼からそうしてくれと言われているからね」
「やはりここに来ているのですね?」
「これを」
そういって彼は返事の代わりに鍵を渡してくる。
「これは?」
「ここを右に出て一番奥の部屋だよ。それじゃあね」
そういって去っていく。
「……自分の目で確かめろと言うわけですね」
「ああ、そうらしいな」
私たちは会場を出て部屋に向かう。
ゆっくり鍵穴に鍵を差し込み開ける。
そこには窓にそばで外を見つめて待っている彼がいた。
「待ってましたよ?」
彼は不思議なくらい柔らかい笑みだった。
「こちらは待っていません」
「手厳しいですね」
彼の目を強くにらむ。
「あなたは何をする気なのですか?交渉ですか?それとも脅し?」
「ふ、そこまで考えついていましたか……」
彼は少し嬉しそうに笑う。
「そうですね、それもいいですが……」
彼は近くにあった花瓶の花を握りつぶす。
だが、その花の棘によって彼の手は血が滲んでいた。
「私は別の道を行きます」
彼は目には確かな覚悟があった。
「…私たちに希望は抱けませんでしたか?」
「十分すぎるほど希望ですよ」
「では、なぜ?」
「綺麗すぎるのですよ」
彼は血だらけの手を掲げる。
「傷あってこその未来でもあるのですよ」
「綺麗すぎる希望は見れないと?」
「その解釈は少し違います」
彼は手を下げもう一本の花を持つ。
そして眺める。
「綺麗だけでは信用できない。ただ、私は臆病なのですよ」
「その花のように棘がないと安心できないと言う事ですか?」
「ええ、そういう事でもあります」
私は前に出て優しく花を持つ。だが、棘が刺さり少し血が出る。
「私は棘は重要ではないと思います」
「なぜですか?その痛みが、血が、現実を証明してくれているではないですか」
「ですが、意図的に必要なものではありません。必要ないならそれはいりません」
「それは綺麗ごとでは?」
「確かに、そう言われても不思議ではありません。ですが、思うのです。あくまで私たちが棘ごと触るのはそれを触ってでも触れたい何かがあるからです」
私は優しく花を撫でる。
「ですから、これはあくまで自分が選んだ傷で、他人に強制されたわけでも、意図的に用意されていたわけでもない。自分が選んで傷つき血を流した。それが重要だと思うのです」
彼は少し驚きすぐに笑う。
「あなたは本当に不思議な人だ。とても賢い。なのに愚かだ」
「それでも、私はそれを選びます」
「なら、私はそれを選びません」
静かない沈黙。
部屋を静寂が支配する。
パン!
それを引き裂くように大きな破裂音がする。
その瞬間、私は彼に押されて尻もちをついていた。
「くっ!?」
彼の胸からは血が出ていた。
花のような赤色だ。
「ジュエル!」
旦那様が窓から死角になるように彼を移動させる。
「なぜですか……」
彼は少し笑い言う。
「……勘違いしないでください」
彼は血だらけの手で私の胸ぐらを掴む。
「私は、理想を捨てない……」
私を掴む彼の手は重体の人間とは思えぬほど、力がこもっていた。
だが、さすがにきつかったのか力は弱まり離される。
「……これを持っていきなさい」
「これは!?」
それは例の新兵器、銃と書かれたものの設計図と裏口の場所が記入された紙だった。
「何で……」
彼は静かに目を閉じていた。
「ここにいてはまずい。リアリス……行こう」
「……はい」
私たちは裏口から出て馬車に乗る。
「フラン急いで!」
「はい!」
そうして私たち急いで城を出た。
「あいつは選んだのだな……」
揺れる馬車の中で小さく旦那様は告げる。
「ええ……」
彼は血だらけで選んだ。
この武器を使うも隠すも私次第。
彼は選んだ。
なら、次は私の番だ。
私は血がにじむ手をじっと見ていた。




