月の近く
今回は二本立てです。
二本目は16時更新です。
よろしくお願いします!
視察は終わり私たちは、馬車に揺られていた。
「はあ、今回も疲れたな?」
「解決していませんよ、まだ……」
「まあな」
あの後、領主に彼の部下を引き渡した。
その後に発覚したのだが、彼の部屋の書類はすべてなくなっていた。
おそらく、事前に廃棄していたのだろう。
彼なら領主の違和感に気付き、やりそうなことだ。
「そして、月……」
それは、身近にあった。
そう、公爵家の刻印、それは月の刻印だった。
「月は沈み、新たに昇るね……」
ヴァン様が外を眺めながらつぶやく。
「不吉な言葉です…」
これは公爵家のことをさしているのだろうか?
真相は不明だが、事実ならとても不吉な意味になる。
「ヴァン様、身の回りには注意してください」
「ああ、分かっている」
彼の顔には一切の油断はなかった。
そのはずだった……
その翌日。
「奥様!!」
フランが慌てて部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
「旦那様が消えました!!」
「!?」
昨日の今日で!?
「屋敷内は?」
「はい、現在、総動員で捜索しております」
「何か、置手紙などはなかった?」
「いえ、とくには何も……」
彼なのか?
だけど、早すぎる。
準備がいると思ったが、外れた?
とにかく冷静に対処しなければいけない。
だが、私の心臓は決して脈打つスピードを緩めない。
まるで、早鐘のごとく加速する。
「とにかく、何か手掛かりがないか捜索して!」
「はい!」
そうして、捜索すること30分。
「何か分かった?フラン」
「はい、どうも旦那様は料理途中でいなくなった模様です」
「料理?」
「はい、キッチンに材料が残ったままだったそうです」
「普段から旦那様は料理するの?」
「いえ、料理は出来る様ですが、多忙のため、特別な日にしかしないそうです」
「特別な日?」
「はい、何かの記念日などですね」
なら、今日は何かの特別な日で料理をやっていて誘拐と言う事ね。
「屋敷から出た痕跡は?」
「いえ、それが少なくても屋敷内から出た痕跡はありません」
まだ屋敷内にいる。
それを知って少し安心する。
まだ、チャンスはある。
だが、一刻を争う。
「私も現場に行きます」
そうしてキッチンに向かう。
「これはパエリア?」
その食材を見るに私の好物のパエリアだった。
「の、様ですね?」
ただ、少しおかしい、肝心の米がない。
あれがないとパエリアは出来ない。
となると……
「フラン米ってどこにしまってあるの?」
「えっと、たしか、裏庭の倉庫の中ですね」
「倉庫はいつも戸締りの確認を?」
「はい、夜と朝に一回ずつ」
なるほど。
「そう、じゃあ、行きましょう」
「は、はい」
フランと次は中庭に行く。
「ここです」
「鍵は?」
「はい、ここに」
そういって鍵を受け取る。
そうして扉をゆっくり開ける。
「ヴァン様、大丈夫ですか?」
「ああ」
そこには少しやつれたヴァン様がいた。
「米を取りに来たら鍵を閉められてしまってな」
「やはりですか」
「ああ、リアリスならやってくれると思ったよ」
「何をしているのですか」
私はため息を吐く。
「心配したのですよ?」
「す、すまん」
私は腰に手を当て彼に説教を始める。
説教を始めて30分。
「そもそも、こんな朝早くに料理なんて何を考えて……」
「お、奥様。そろそろいいのでは?」
「……そうね」
「や、やっと終わる……」
ヴァン様は地面に突っ伏す。
「そんなにきつかったのですか?」
「初めてだからな、こんなに長い説教……」
「うちは割と多かったですね」
「ああ、ティア殿ならやりそうだな……」
うちの母は1時間以上はやっていたが、言わぬが仏だ。
「で、なにの記念日なのですか?」
「は?」
「え?」
ヴァン様とフランが呆然とした顔になる。
「ここ、まで来ていて気付かなかったのか?」
「はい?」
「お、奥様……」
二人ともかなり残念な物を見る目になっていた。
「今日は何日だ?」
「えっと7月1日ですが……え?」
「気付いたな?」
「……私の誕生日ですか?」
「そうだ」
まさか、ヴァン様が契約相手の誕生日を祝ってくれるつもりだったとは。
「私の誕生日などただの契約相手ですし……」
「まだそんなことを言っているのか?」
ヴァン様は立ち上がりこちらの肩に手を置く。
「もうそんなの関係なく信頼できる仲だろう?」
「ヴァン様……」
まさか、そこまで思っていてくれたなんて……
「つまり、俺とお前は本当の……」
「友と言うわけですね」
「へ?」
実に嬉しいことだ。
まさか、辺境貴族の私が公爵家の旦那様とお友達なんて。
「い、いや、ではなくて……」
「ありがとうございます。とてもうれしいです」
私は自然と笑みが出来る。
「ま、まあいいか……」
ヘタレなヴァンだった。
そうして、誕生日会は開催された。
「おめでとうございます奥様」
「ええ、フランありがとう」
「おめでとう。リアリス」
「はい」
二人に祝ってもらう。
他にも屋敷の使用人が祝ってくれた。
「これ美味しいですよ!」
「うむ。頑張ったかいがあるな」
ヴァン様特製パエリアはとてもおいしくいただいた。
そうして、みんなで盛り上がっていたのだが、少し暑くなりベランダに出る。
「涼しい…」
こうしていると最近のことが嘘みたいだ。
「主役が消えてどうする?」
「少しぐらい気付きません」
二人して笑う。
静かな雰囲気が流れる。
言葉はなくても自然と沈黙が心地いい。
いつの間にそんな心地のいい関係になったのだろう。
「なあ、リアリス」
「はい、なんですか?」
「リアリスは、このままでいいのか?」
「このままとは?」
「契約は続行でもいいのかということだ」
初めてヴァン様からそんな話を聞いた。
少し驚いたが、その少し悲しげな瞳には嘘はつきたくない。そう思った。
「……正直、初めは少し頑張って、さっさと解消してもらう気満々でした」
「す、素直だな?」
「嘘はつきたくありませんから」
「リアリスらしい」
そういって少し微笑む。
「ですが、最近分からなくなっています。確かに契約だったはずでした。ですが、この暮らしを愛おしくなってきています。フランや屋敷の人たちがいて、ヴァン様がいて、忙しくはありますが、とても大切です」
「そうか……今はそれだけ聞けたら十分だ」
ヴァン様はこちらを向き真剣な目で告げる。
「リア」
「え?」
さりげないリア呼びに驚く。
それを無視して続ける旦那様。
「もし君が今後もいたいならここにいつまでもいていい」
「そ、それは迷惑ですし……」
「いや、そんなことはない。俺……フランたちもお前がいない生活なんてもう考えられない」
「そのまは何だったのですか?」
「気にするな!と、とにかくここにいてもいいのだ」
そのままそそっぽ向く旦那様。
なんだかそれが子供みたいで、少し幼く見えた。
自然と口は笑みを浮かべる。
「はい」
私も微笑み返すのであった。
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