沈む
「それで、逃げられたと?」
「はい、すみません…」
私は領主に事のいきさつを話していた。
「いえ、謝罪はいりません。結果、この城内から奴らを追い出すことに成功したわけですしね」
本当に気にしていないのか、彼は窓の外を見ながら軽く告げる。
さらに恨まれることも覚悟したのだが……
「……あなたは公爵家を恨んでいないのですか?」
領主は少し笑みを浮かべてコーヒーを一口飲んで言う。
「……私の家族は当時の食料で助かった少ない領民の一人です。だから恨むなど、ありませんよ」
彼は裏表のない本当に人懐っこい笑みを浮かべた。
これが彼の本来の姿かもしれない。
ヴァン様の父上の優しさは意味があったのだ。
それが、嬉しかった。
「それであなた達は今後どうするつもりですか?」
「……おそらくですが、彼は何か大きく動くはずです。そのために準備期間に入ったとみていいでしょう。なので、しばらくは何もないはずだと思います」
彼は、「逃げない」と言った。
次で答えを出すつもりだ。
おそらく大きな事態になるだろう。
準備期間は今回のことで攻められた結果得られなかったはずだ。
しばらくは動けない。
「と、なるとしばらくは平和か?」
「ええ、しばらくは平和でしょうね」
「なんとか阻止は出来ないのですか?」
「……それは、彼次第ですね」
今まで彼は何かしらのヒントをくれていた。
そう考えると、またヒントを出してきても不思議ではない。
「なるほど、どちらにしても相手次第だと?」
「はい、今の状態では一切ヒントはありませんから」
「はあ、いつもこれだな?」
そう、いつも彼の掌の上だ。
何か出し抜けるものがあればいいのだが……
「た、大変です!!」
「どうした?」
使用人が慌てて部屋に入ってきた。
その様子は、まさに一刻を争う様子だった。
「城下町で連続で火事が起きています!!」
「!?……急いで消火活動に当たるのです!」
「私たちも向かいます!」
「……彼だと言うのですか?」
「いえ、分かりません……ただ、タイミングが出来過ぎてます」
「わかりました」
私たちは急いで火事も現場に向かった。
複数の建物が燃えており火が上がっている。
「リアリス、どうする!?」
「ヴァン様、これは確実に人為的なものなはず!犯人を捜しましょう!」
「だが、どうやって!?」
今は一刻を争う。
私は思考を加速させて考える。
視界から得られる情報を整理する。
建物はすべて人気のない大きな建物ばかり。
どれも、よく燃える木製。
「ヴァン様これは陽動なのかもしれません」
「どういうことだ?」
「燃えている物は大きく燃えやすい木製。そして人気がないものばかり。これを考えるに燃やすことは重要じゃない」
「騒ぎが重要なのか!?」
「はい!ですので、今回の本当の狙いは……」
私は領主のいる城の方向を見る。
「な!?城か!」
「はい、急ぎましょう!」
私はヴァン様と馬に乗り急いで城に戻る。
城に着くとそこはまだオレンジに包まれていなかった。
「何とか間に合いましたね?」
「ああ、だが、どこから放火する気だ?」
燃えやすく気付かれにくい場所。
「犯人は現場に戻ると言いますから」
「ああ、なるほどな」
私は微笑み、ヴァン様もにやりと笑う。
そうして、私たちは先回りをして待っていた。
ガコン。
秘密の通路が開く音がする。
そこには見たことのある影が一つ。
「やはりあなたでしたか?」
「!?」
ランプの光が彼を照らし出す。
「執事さん」
「ふ、なぜお分かりに?」
「あまりにも目的が不明な火事でしたからね?」
「同じ手は通用しないですか……」
そう、前も同じ手で陽動を食らった。
今度は通じない。
「さあ、大人しくしてもらおうか?」
ヴァン様は剣を抜き告げる。
「ふ、神は隠すものですよ?」
「そうらしいが、お前は神ではないだろ?」
「そう、ですね!」
男が一気に近寄り剣が交わる。
閃光が闇にちり、まるで妖精が飛んでいるようだ。
「ふっ!」
男の突きがヴァン様の喉元に届きそうになるが、間一髪でかわす。
そしてヴァン様は同じく突きでカウンターを入れる。
見事にそれは執事の腕をかすめる。
「くっ!?」
男の手から剣が落ちる。
「ここまでですか……」
「ああ、ここまでだ」
ヴァン様は剣を執事に突きつける。
「ふ、あの方の言う通りですね……」
「彼は分かっていたのですか?この展開を?」
「ええ、あの方は言っておりました「彼女ならすぐに気づく。同じ手は通用しないだろう」と」
「では、なぜこのようなことを?」
「ふ、私はメッセンジャーにすぎませんよ」
「メッセンジャーですか…」
「あの方はこういっておりました。「月は沈み。新たに昇る」と」
「月は沈み。新たに昇る……」
彼らしくない詩的な表現。
だが、それがとても恐ろしくて、私は鼓動が強く脈打つのを感じていた。
まるで、体温は熱く、煮え切っているようだった。
そうして、執事は城の兵士に捕ま得られ、連行されていく。
ただ、一言残して。
「これで月は……ふふ」
その言葉に不穏を覚える。
月は沈み。新たに昇る
だが、窓から見える月は雲に隠れて見えなかった。
だか、月は見えなくても確かにそこにある。
なら、夜は恐くない。
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