思想の種の植え付け
今回も二本立てです。
二度目の更新は16時です。
よろしくお願いします!
我が家の事件が終わり、私は公爵家に戻ってきていた。
「はあ、疲れました…」
「ああ、最近は忙しかったからな」
その日はのんきに二人で紅茶を飲んでいた。
「で、ヴァン様今回の事件…」
「ああ、あいつがかかわっているのだろう?」
「おそらく」
「だが、なぜ、リアリスの実家にちょっかいをかけたのだ?」
ヴァン様はコーヒカップの縁をなぞり考えている。
「おそらく、試されていたのではないでしょうか」
「試す……リアリスをか?」
「はい、おそらく」
彼ならやるだろう。
自分に見合う敵なのか。
それを確認する為、そして思想を確認するために。
「だが、やはり、狙いがわからんな」
「……最終目的は分かりませんが、おそらく今しているのは市民への思想の植え付け」
「思想の植え付け……つまり、市民でも貴族は変えられる。また、対抗できるという話か……」
「ええ、ですので、また何か動きがあるはずですが……」
とにもかくにも私たちは後手に回るしかない。
手がかりが、ない以上そうなってしまう。
「今は、休みましょう」
「ああ、賛成だ」
二人して肩の力を抜く。
そうして心地よく椅子に背を預ける。
「お二人ともお代わりはいりますか?」
「お願い」
「頼む」
こうしたゆっくりした空間はよく考えると初めてかもしれない。
なんだかんだ、公爵家に来てから忙しくしていたから仕方ないのだが。
「なあ、リアリス」
「はい?なんですか?」
ぼーと考えていた私に声をかけるヴァン様。
「王都の城下町にでも行かないか?」
「城下町ですか?」
「ああ、おいしいケーキ屋があるらしくてな。どうだ?」
「え、ええ。私はいいですが…ヴァン様は高級レストランとかでなくてもいいのですか?」
「ふ、城下町はよくビンセントの奴と言っていたからな。問題ない」
ああ、二人は幼い頃からのご友人だった。
そんなやんちゃな時期があったのかと、少しおかしい。
「ふふ、分かりました。行きましょう」
「……これで、デートがやっとできる」
小さな声でヴァン様が何か言っていた。
だが、私には聞こえなかった。
それとも、聞かせたくなかったのか。
そんなこんなで、城下町に来ていた。
「わあ、やはり王都はすごいですね?」
「ああ、そうだな」
子供の笑い声、まちゆく人の話し声。
それらが空気のように流れている。
「で、ヴァン様なぜ、手をお繋ぎに?」
「迷子になっては困るだろ?」
「そんなに子供ではありません」
「まあ、いいではないか。せっかくの夫婦の休日なのだしな」
契約夫婦ですがね。
「まあ、いいです。それよりいきましょうか」
「ああ」
そうして街を一通り回ることにする。
「やはり、活気から違いますね」
「そうだな、さすが中心都市だ」
「あれ見てください!」
「ああ、大道芸か」
そこには火を吐いている男性がいた。
周りには大勢のお客さんがいた。
「あまりこういうのは好みではないのかと思ったよ」
「なぜですか?」
「リアリスは現実的だからな。くだらないトリックだと言うのかと思ったんだよ」
彼はおどけて言う。
「もう、そこまで野暮ではありませんよ?」
私は少しむくれる。
「悪い、悪い」
「私だって夢ぐらい見ますよ」
「そうなのか?」
「ええ、ただ現実はそんな暇与えてくれません。だから必死なだけです」
「そうだな。夢を見るには時間も余裕も必要だからな…」
「はい……夢はただですが、最も高いものでもあります」
「ふ、リアリスらしい言葉だな?」
「……かもしれないですね」
現実はいつだってひどく夢見が悪くて、残酷だ。
だが、夢は心地がいい。しかし、そんな暇は生きている限りない。
夢を見れるのは、よほど追い詰められているときか、余裕があるときか。
とにかく、限定的なのだ。だから、正解のない現実で答えを必死に出すしかないのだ。
「さあ、ケーキ屋に行きましょう」
「そうだな」
噂のケーキ屋に着くが、そこは行列が出来ていた。
「これは……待つしかありませんね?」
「ああ、慣れているさ」
「ですね」
そうして待つこと十五分。
「お待たせしました。こちらの席にどうぞ」
そうして店員によって、席に案内される。
「わあ、見てください!」
「おお、やけにテンションが高いな?」
「だって見てください!これ!」
メニュー表には大きなパフェが載っている。
「そ、それは食べきれるのか?」
「はい!」
こんなのは甘い物好きからしたら天国でしかない。
「そうか、それではそれを頼んで私はこのチョコケーキを頼もう」
そうして、注文を済ませて待っていると近くの席から話し声が聞こえる。
「ねえ、先日の事件知っているでしょ?」
「ああ、あの謎の狙撃でしょ?」
「うん、王家は隠しているけど、噂になってる。新兵器だって」
「怖いよねー」
「でも、あれがあれば私達でも貴族の理不尽にも立ち向かえるんじゃない?」
「えーそうかなー」
「そうだよー。王家にだって敵うかもよ?」
女は笑いながら話しているが、とても笑えない内容だった。
彼女が言っているのは単純に簡単に人が殺せると言う事に違いない。
「ここまで、浸透していますね?」
「ああ、式典は多くの市民が見ていたからな」
「彼の狙い通りと言うわけですか……」
「ああ」
彼の狙いは無事成功していた。
貴族や上位の者に敵うかもしれない。
そんな、少しの希望が市民に宿っている。
「彼はなにを考えているのでしょうか……」
「さあな、頭のいいあいつだ。想像もつかないことだろうな」
私の背は冷たく冷えていた。
まるで、不穏な事態がすぐそこに迫っているかのように。
もちろん何も起こらない。ただ、それまでに彼の思想は広くがっていた。
「お待たせしました!」
店員さんがパフェとケーキを持ってくる。
「わあ!すごいですね!」
「そうだな……」
「いただきます!」
少しヴァン様は呆れているようだった。
「それを食えるのは特技と言ってもいいな」
「そうですか?」
そう言いながらパクパクと食べ進めている。
「ほらこれもどうだ?」
そういってフォークにケーキを一口分さして差し出してくる。
「はい?」
「……あーん」
へ?ここでそれをやれと?
「……あーん」
それも契約内容なのか?
そう、感じるほどの圧を感じて素直に食べる。
「お、おいしいです」
「それならいい」
数十分後。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
そうして二人とも綺麗に完食した。
「さて、次は俺のとっておきの場所に行かないか?」
「とっておきの場所ですか?」
「ああ」
そういう事で連れてきてもらったのは綺麗な花畑が咲いてる場所だった。
そこからは王都が一望できた。
「すごいですね……」
「そうだろ?」
しばらく私はなにも言えずにいた。
いや、言いたくなかった。
この場所に言葉は不要な気がしたから。
「なあ、リアリス」
「何ですか?」
「お前はあいつとどう、向き合う気だ?」
その言葉には確かな意思がにじみ出ていた。
「それを聞いてどうしますか?」
「……おそらく何も変わらない」
「そうですか…では、なぜ?」
「おそらく確認したかったのだ。もう一度、自分の意思を」
その言葉に私は答える必要があると感じて静かに答える。
「私は彼の思想は理解できません。ただ、間違っているとも思っていません」
「そうか……」
ヴァン様の手は少し強く握られる。
「はい、ですが、私は選びません。だから、私は向き合い続けます。彼のすべてと」
そういってヴァン様の手を握る。
何となくそうするべきだと思った。
「ありがとう。リアリス。私も逃げない。あいつの気持ちから逃げはしない」
「はい」
ここから見える王都は夕日で赤く確かに染まっていた。
不吉なほどの赤で。
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