信念は折れず揺れる。
王子との話し合いから数日が経った。
式典当日となり王都は賑わっていた。
「こっちで狙撃できそうな場所はあらかた見張りを置いたよ」
「はい、ありがとうございます」
私たちは狙撃を阻止するために万全を期していた。
「これで大丈夫だと思いたいがな……」
ヴァン様は不安げにつぶやく。
「そう思いたいですね……」
私たちは彼が有能であることを知っている。
だから、これでも安心はできなかった。
「だが、私が狙いではないと分かっているではないのか?」
「それそうですが、それ以上に何かある気もするのです」
胸の奥の消えない違和感。
これは布石だと訴えている感情。
どれもが歪に映る。
「やれることはやったそれでは、だめなのか?」
「だめではありません。ただ、理解するのと納得が別々なだけです」
「ふ、リアリスらしいな?」
「ああ、実に奥方らしい」
何がらしいのかは分からないが、理解できたようでよかった。
「とにかく警戒しておきましょう」
そうして式典は始まった。
人々の歓声が聞こえる。
まるで、迫る台風のように音は大きくなっていく。
「これは……」
まるで波のようだ。
「ふふ、すごいだろ?」
「はい、辺境では見られない光景です」
不謹慎かもしれないが純粋に感動していた。
「建国記念だから盛大なものだろ?」
「はい、でもなぜ旗を人が持っているのですか?」
「ああ、それはこの国の歴史を人の手で作ったと言う事を疑似的に再現しているんだ」
なるほど。
土台は人間が作った。
それを誇示する為か。
俗物的な理由だったが、それが妙にリアルで納得してしまう。
「現実的でなんともですね?」
「ああ、我が国の王族は変なところが現実的だからな」
笑いながら答えるヴァン様。
「だが、それがこの国の色であり要だと思っている」
「要ですか?」
「ああ、リアリスや王族の人たちのように現実でちゃんと現実的な答えを苦しみながら出す。それはとても難しくて、立派なことだからな」
「そういうものですか?」
「リアリスは実感がないかもしれないが、現実はひどく理不尽で暴虐的なものだ。だから現実をちゃんと見据えて答えを出せることは、まさにリアリスの芯であり核なんだよ」
芯であり核か……
それが私の国の核。
もしそれを失ったら……
「!?」
私はあることに気付き旗をも持っている兵士のもとに走り出す。
「リアリスどうした!?」
「ヴァン様狙いが分かりました!」
「どういうことだ!」
「彼は……」
その瞬間、空気が乾いたような感触とともに聞きなれぬ乾いた破裂音が空を裂いた。
空気を切り裂く鋭い音だった。
それは絶望の音に聞こえた。
私の目の前の兵士は足から血が出ていた。
それは見るからに熱く生暖かそうな赤だった。
「ぐっ!?」
兵士の手から旗が離される。
私は倒れそうな旗を必死に持つ。
「くっ!?」
だが、重くそれは一人では持てない。
だが、ヴァン様が支えてくれる。
それで、旗は倒れずに済む。
次の瞬間民衆はパニックになり逃げまどいだす。
「王子こちらへ!」
「ああ…」
王子は退避させられていた。
そして会場には私と旦那様、そして負傷した兵士だけになった。
「ヴァン様お願いします」
「ああ」
旗をヴァン様に任せて兵士に近づく。
「あなた大丈夫ですか?」
「ああ、何とか…」
私は止血をするために衣服を破り兵士に巻き付ける。
「すまない…」
「いえ、まだあなたの役目は終わっていません。立たせてください。あなたの手で」
「あ、ああ」
「では、お願いします。ヴァン様!」
「ああ!」
私たちは兵士に旗を任せて音のなった方向に急ぐ。
そこからは異様な匂いがしていた。
「確かここから音と光はしていたな」
そこは会場からだいぶ離れた誰も住んでいない空き家だった。
「ヴァン様これは」
そこには筒のようなもので先端が壊れていた。
「これは、なんだ?」
「おそらく、これで狙撃されたのでしょう」
新兵器はなにも一つではなかった。
見たこともない、兵器がそこにはあった。
「おそらくこれは試作品ですね」
「なぜだ?」
「先端が壊れています。ですが、これだけのものが使い捨ての物だとは思いません」
完全に不意を突かれた。
彼らは目的を達成した。
権威の象徴の旗を持っている人、つまりこの国の要を打ち抜いた。
彼らは、訴えているのだろう。いつでも、この国は壊せると。
窓の外からは兵士が持っている旗が風に揺られていた。
旗は折れていない。
だが、揺れている。
まるで、私たちの信念のように。
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