綺麗な世界にするために
今回も二本立てです。
二本目は16時に更新になります。
よろしくお願いします!
ある日の夜。
影が人目を避け移動する。
ゆっくりとじっくり。
闇に溶ける方のごとく。
そうして影はリアリスの部屋に入り込む、ベッドにはふくらみが一つ。
影はそれめがけて矢を放つ。
膨らみにあたる。
命中したのを確認。
死亡したか確認のために布団をゆっくりめくる。
「!?」
布団の中には死体はなく、継ぎはぎのクマのぬいぐるみがあった。
「私お手製のぬいぐるみをよくも串刺しにしましたね?」
「ああ、重罪だな」
影は慌てて、逃げようとするが、兵士が即座に出てきて取り押さえた。
「あなたがスパイだったのね……」
「お前だったか……」
そこにいたのは……
「誰だ?」
「誰ですか?あなた」
まったく見知らぬメイドだった。
「旦那様、彼女は最近入ってきた新人メイドです」
ジュエルが答える。
「な、なるほど」
「まったくもって知らないわけですね」
彼女は強い眼差しでこちらを殺すかのような目線が飛んできていた。
「あなた、帝国のスパイね?」
「……」
女は肯定も否定もしない。
沈黙は肯定だ。
「彼女の武器を取って」
兵士に言い武器を取り上げる。
それは木で出来ており矢がセットされていた。
「これが新兵器と言うわけね?」
「そうみたいだな?」
「触れるな!汚らわしい!」
女はヒステリックに叫ぶ。
「それは神から与えられし、武具。貴様らごとき下賤の物が触れていいものではない!」
彼女は一種の狂信者じみていた。
「あなたたちはなにが目的なの?」
「神が啓示をくださる!!」
全く会話が成り立たない。
そこまで傾倒していると言う事だろう。
彼女から情報は得られないだろう。
「連れていけ」
ヴァン様の言葉で牢屋に連れていかれる。
「ヴァン様、どうしましょうか?」
「ああ、これは思った以上に大きな収穫だが、問題も大きい」
「はい、新兵器がここまでとは……」
私は串刺しになったクマのぬいぐるみを持ち上げる。ぬいぐるみからは糸が解けている。
「この貫通力に速度、しかも狙いも正確。ここまでの兵器が増産しているとなるとやはりまずいですね」
「ああ、戦闘員でなくても脅威になりえる」
今回、私たちはあえて泳がしてこうして罠を張ったわけだが、それで見えたのは恐ろしいほどの敵の技術力だった。
「これは早急に手を打つ必要がありますね」
「だが、どうするつもりだ?あの女の様子ではまともな情報は聞けないぞ?」
「目には目をですよ」
「リアリスまさか……」
ヴァン様は息を呑む。
「はい、これを私たちも真似させてもらいます」
そう、今の状況ではこちらから何かすることは不可能に近い。
なら、この武器を増産し対抗手段を作るまでだ。
「あとは、あの腹黒王子次第ですね」
王子が情報を得てくれなければ何も手の打ちようがない。
私達はそうして得た新兵器と女を王子に引き渡した。
それから一週間後。
「やあ、奥方。きたよ」
「はあ、やっとですね?」
「情報を持ってきたのに酷い言われようだね?」
彼はおどけて言うがこちらもいつ襲われるか分からず警戒して生活しているため疲れているのだ。皮肉の一言も言いたくなる。
「で、収穫はどうだ。ビンセント」
「ああ、まったくもって得られなかったよ」
王子はやれやれと首を振る。
「やはりだめでしたか?」
「ああ、彼女はまさに狂信者の鏡だよ。いかれてるね」
分かってはいたが、渋い話だ。
「だが、わかったことはある」
「なんですか?」
「まず、彼女らは自分たちのことを宝石の名前で呼ぶ」
「ルビーやサファイアといった具合にですか?」
「ああ、そうだ、彼女はホワイトトパーズらしい」
意味は、純粋、浄化、自己成長。
狂信者らしい発想だ。
「で、それがなにかあるのか?」
「どうもだが、彼らは世界を宝石のごとく綺麗にしたいみたいだ。ゴミ掃除を希望だ」
「ゴミ掃除。そのままの意味ではなさそうですね?」
「ああ、愚かな貴族たちの排除らしいよ?」
紅茶の表面が波立つ。
ホワイトトパーズの意味、浄化を思い出す。
「まったく理解できませんね」
「ああ、本当に」
王子はコーヒーを一口飲み笑う。
「あと、これは関係ないかもしれないけど、「ああ、大切な人よ!私に祝福を」と何度も拷問中に言っていたよ」
「狂信者らしい話だ」
「大切な人ですか……」
確かに狂信者らしいが、何か引っかかりを感じる。
なぜ、偉大などの言葉の方が狂信者と言えばそうだが、なぜ大切な人?
私は頭をひねるが、答えは出ない。
「奥様、紅茶です」
「ええ、ありがとう。フラン」
紅茶を一口飲み静かに考える。
「神から与えられし武具、大切な人、宝石…まさか」
そんなことがあっていいのか?
私は自分の疑いが信じられず動揺する。
そして、本当ならそれはとても許し難いことだ。
「何か分かったのか?リアリス」
「いえ、仮定です。しかも跳躍していて、とても現実的な話ではありません。確証も証拠もありません」
「だが、何か気になっているのだな?」
「はい」
私はヴァン様に真剣なまなざしを向ける。
「ヴァン様、ある人物の調査をお願いしたいのですが」
「調査?」
私は小声でヴァン様に伝える。
「はい、〇〇〇〇についてです」
「それは、今回の件と関係があるのか?」
「おそらくとしか今の段階では言えません」
「わかった」
ヴァン様の目は少し苦しそうに言う。
怒りも含まれているのだろう。
私の手は震えていた。
もし本当ならとんでもない話だ。
この世界は彼にはどう見えているのだろう。
そんな考えばかりが頭をよぎるのだった。
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