怯える物たち
「何を言ってやがる!?」
男の一人が叫ぶ。
「そのままです。あなた達は怯えている」
「……」
肯定も否定もない。
そこにはただ、言いようのない空気だけがある。
「そもそも、おかしいことだらけです。たしかに、名誉の戦争は大きな大義で行動理由です。ですが、勝機が薄い戦いを強制的にするのはおかしい」
私は指を二つ立てる。
「なら理由は二つ。一つ戦争をしなければいけない理由がある。二つ、戦争を強制されている。このどちらかが高い」
「ふん、知った口を……」
男は顔を険しくしながら言う。
「そもそも、俺らが苦しいのはお前らのせいだ!」
男は机をドンと叩く。
「負けたからだと言うのですか?」
「……」
何も言わない男の顔はただ、恐れていた。
分かっているのだろう。
誰も悪くないことなど。
「教えてください。一体なぜ、戦争をしようとしているのですか?」
「知ってどうする?」
男は小馬鹿にしたような笑みで言ってくる。
それに少しかちんと来た。
「バカですか?」
「は!?」
男はまさかこの状況で罵倒されるとは思わず声が出る。
「あのですね」
私は机の上にあったナイフを取る。
「お、おい」
男は私があまりに自然にナイフを取るものだから、反応できずにいた。
「このナイフを見てください」
そう言ってナイフを指差す。
「このナイフは危ない箇所がありますそれはどこですか?」
「は、そんなに刃の部分に決まってる」
男は当たり前だと言わんばかりに言う。
それを見てため息を漏らす。
「はあ、なぜ、それがわかって今回のことがわからないのですか?」
「……どう言うことだ?」
私はナイフの刃の部分の反対側触る。
「この部分はなんだと思いますか?」
「は?」
私はナイフをもう一度テーブルに置く。
「このナイフは片方しか刃がありません。つまり危険と安全が表裏一体なんです」
男たちは、見えない恐怖に脅かされている。
だか、もしかしたら、それこそが安全になる理由になるかもしれない。
「お嬢ちゃんは俺たちを救うと言っているのか?」
「救うかどうかは私では決められません。ただ、一緒に考えることはできます。だから、教えてくださいませんか?」
男たちは顔を見合わせ、頷く。
「それはできない」
「なぜ、ですか?」
「俺たちはそれを言うこと自体が喉に刃を立てるのと同じだからだ」
彼らはそれほどまでに脅かされていると言うことか。
「分かりました。これ以上は何も言いません」
「悪いが、お嬢ちゃんには大人しくしてもらう」
そうして男たちは小屋から出ていく。
おそらく、見張りだろう。
「さて、どうしましょうか……」
賭けは失敗。
懐柔は出来なさそう。
このままだと、よくて、てきとうな場所に売られるか殺される。
「はあ、失敗か……」
もし、これで脅威的な存在がわかれば、私の活躍にヴァン様は喜んでくれて、私は晴れて自由の身かと思ったが、残念だ。
いや、余計に手放さなくなるか。
早計だったかも。
そんなことを、呑気に考えていた。
すると少し外が騒がしい。
しばらくして外は静かになる。
そしてゆっくりドアが開く。
鼓動は早鐘ごとく早まる。
「リアリス無事か?」
そこにはヴァン様が険しい表情で立っていた。
「はあ、ヴァン様は遅いです……」
そこで私は気を失った。
自分が思っていた以上に気を張っていたらしい。
次に目を覚ますとそこは屋敷のベッドの上だった。
「奥様、お目覚めになりましたか?」
「フラン?」
ベッドの横にはフランが立っていた。
それが少しおかしかった。
彼女目は泣き腫らされていた。
きっと心配してくれたのだろう。
「フラン……問題はなかった?」
「問題ですか?それなら、旦那様が……」
「私はフランの味方よ」
「!?」
フランは固まりその顔は苦しそうだった。
「どうして……そこまでされて私の心配なのですか?」
「バカね、あなた以上のメイドなんていないわ」
「奥様……」
フランの声が震える。
その声は縋り付くような声だ。
ただ、その声を静かに聞いていた。
それから数日後。
犯人は全員、ヴァン様によって拘束。
事情聴取が行われた。
だが、誰も口を割らない。
ただ、一言「お嬢ちゃんを読んでこい」と言っているらしい。
そう言うわけで今牢屋に向かっている。
「リアリス無茶はやめてくれよ?」
「ヴァン様大袈裟ですよ?」
ヴァン様はあたふたしていた。
と言うのも、起きて早々ヴァン様は私のことを宝石のごとく箱にしまうように療養させていた。
フランいわく、私が誘拐されたと聞かされて鬼の形相で、探し出したらしい。
そのためか、相当心配症になっていた。
よほど、便利な道具がないことが不安らしい。
「いや、お前が心配なんだ」
「大丈夫ですよ。こんなのでは契約結婚は破棄にはしませんよ」
「いや、そう言うことでは……」
まだ、何かヴァン様が言っていたが、無視をして牢屋に行く。
「お、嬢ちゃんきたか」
「はい、来ました。なので聞かせてもらえるのですよね?」
「……そうだな、嬢ちゃんならいいぜ」
男は座り直して覚悟を決めて話す。
「俺たちはある国に脅されていた」
「やはりですか。で、その国の名前は?」
「ふふ、グリーフ帝国だよ」
「な!?」
ヴァン様が驚くのも無理ない。
その名前はとうの昔に滅びたとされる。
国の名前だ。
「どう言うことですか。その国はもうずいぶん昔に連合軍に滅ぼされてたはずです」
「ああ、だが、奴らは生き残りを集めて再度作っていたんだよ。帝国を」
にわかには信じられない。
「確証はあるのですか?」
「そんなものがあるかよ、ただ上の連中は怯えていってたぜ。「帝国が蘇った」ってな」
帝国の復活。
それは真が嘘か。
だが、人は“それを信じた”だけで、十分に怯える。
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