第09話 公益と譲れない私情
キー助と別れてしばらくたった。チャドが来るまでもう少しだ。
シーリアの怪我もずいぶんよくなってきたが、耳は医者に診せるべきだろう。
最近は食事の用意や掃除等も手伝ってくれている、あまり無理はさせたくないがただ寝ているだけも身体に悪いか。
俺の怪我はシーリアのおかげですっかり良くなった。そろそろ買い物が必要だ、情報も集めたい。
シーリアに留守番を任せリヴェンの町に行く。
雑貨屋で必要な物を買い揃え、情報収集に酒場に立ち寄る。
「こんにちは、マスター」
「あぁ!あんたか、たまには飲んでってくれよ」
「ははは、いえ仕事がありますので」
ただ話すだけも印象が悪いか、軽食を頼もう。シーリアにも食べさせたいが、ここまで歩かせるのは今は難しいだろうな。
注文の品が出来るまで辺りを見回す、ふと掲示板が目に留まる。なるほど、ここでは掲示板が重要な情報源なんだな。
つい最近貼られたような新しい紙がある、内容を見て息が止まる。
(薬草採取場のゴブリン討伐依頼)
まさかキー助たちだろうか、このままにはしておけない。だが話して分かってくれるとは思えない。
貼り紙を外す、俺が受けよう。誰かが討伐に向かう前にキー助たちを逃がすんだ。
「マスターこの依頼ですが」
「あぁ、ゴブリンのね。まだ怪我人は出てないが、危なくってな。あんたも気を付けなよ」
「いえ、この依頼。私に任せてください」
マスターが驚く。
「ダメだよ!ゴブリンはおっかねえバケモンだよ?」
「大丈夫ですよ、こう見えて腕には自信があります」
よく言う、だが他の誰にも任せられない。
「あんた一人で?いや、ダメだ!無茶だよ、あんたが心配なんだよ」
「いえいえ、私に任せて。みなさんのお役に立ちたいんです」
そんなやり取りを何度も繰り返す。
「分かったよ!ただこっちからも腕の立つのを付けさせてくれ。な!?一人は絶対ダメだ!」
しまった、依頼を受けずにキー助たちを探すべきだったか?断るのも不自然過ぎる。
「え……えぇ、分かりました。そちらの準備が整い次第、討伐に向かいましょう」
まぁ、向かうにしても準備をして後日だろう。その間にキー助たちを逃がす。
そんな事を考えていた時。マスターが入り口の方を指さす。
「あぁ!丁度来たよ、あいつらだ」
二人組の女が店に入る。一人は見た目ウェイトレスだ、ここの店員か。今出勤してきたのだろうか。
もう一人はカーゴパンツにジャケット。どちらも若い娘だ。
女たちが顔を見合わせる。
「ん?何マスター、アタシがどうかしたか?」
「え、アンタまた何かやったの?」
まさか腕の立つとはこの娘たちの事か?いや魔力などある世界、不自然ではない。
「このお客さん、廃墟の警備をしてくれてるケイゴさんだが。薬草採取場のゴブリンも任せてくれって言うんだよ」
「へぇ、強いんだねお客さん」
「助かります、おじさん。気を付けてね」
「いやお前ら一緒に行ってくれ、ケイゴさん一人じゃ心配なんだよ。頼む!礼は弾むからさぁ」
「はぁ?なんでアタシらも行くんだよ、ゴブリンくらい一人で大丈夫だろ」
「いやアンタはね、でもやっぱりおじさん一人だと心配かなぁ」
この自信、マスターの態度。相当実績があるのだろう。作り笑いをしながら祈る、断ってくれ。
「じゃあ今から行くぞ、あまり時間を使いたくないからな」
ウェイトレスが言った。耳を疑う、それは一番最悪のパターンだ。
「え?おじさん準備いいの?」
良い訳が無い、そもそも君らと行くつもりが無い。だがここで別れて彼女たちがどう動くか。
このウェイトレスなら俺を待たずに討伐してしまいそうだ。
「えぇ、大丈夫ですよ。すみません付き合わせてしまって」
道中でどう諦めさせようか、これ以上の無い最悪の方向に向かっている。
読んでいただいた全ての方に感謝します。
善意が彼を苦しめる。




