第07話 ハズレの守護神
逃げられない戦い、家族を守れ!
しばらくの間、三人の貧しくも楽しい生活が続いた。シーリアの傷も完全ではないがマシにはなってきた。
次にチャドが来た時に子供たちの家族の事を頼んでみよう、それまでは俺たち三人は家族だな。
何回目かの町への買い出しを終えて、我が家に戻るといつもとは雰囲気が違う。二人組の男、来客のようだが。
初めての来客にキー助が表で騒いでいる、キー助を傷つけられては大変だ。急いで駆け寄る。
「どうしましたか!?何かコイツが失礼でも!?」
「あぁ!?なんだアンタ、ここに住んでるのか!?」
男が怒鳴る、どちらの男も粗暴な雰囲気。子供たちを怖がらせたくない、穏便に話をしよう。
「はい、先日よりここの常駐警備に当たってますが。何か御用でしょうか」
男たちは顔を見合わせる、面倒な事にならなければいいが。
「この辺にコボルトの子供が来たはずだ!中に居るんじゃねぇのか!?」
言われてすぐ気づく、家族が探しに来たのではない。こいつらが人さらいだ。
「……いやぁ、見てないですね。迷子でしょうか?」
自分でも驚くほど自然に嘘をつく、早く帰ってくれ。
「もう諦めようぜ、あんな死にかけの子供誰も買わねぇよ」
「あぁ!?お前がやったんだろが!勝手に売り物に怪我させやがって」
男たちの下衆な会話に怒りがこみあげる、だが俺一人で追い返せる保証はない。子供たちの安全が最優先だ。
「他を探してみてはどうですか?リヴェンの町なら誰か見ているかも知れません」
「いいや、絶対この辺に居る!あの傷でそんなに歩けるはずがねぇ!」
何が有ったか知らんが怒りに任せて子供を傷つけたのだろう。こいつら、人さらいにしても三流だな。
「中を見せろ、終わったらすぐ帰るからよ」
やはりそう来たか、魔力による身の守りの準備をする。
「困ります!私は警備で来ているんですよ?知らない者を簡単に入れる訳ないじゃないですか!」
「うるせぇな!見たらすぐ帰るっつってんだろ!?やっぱり中に居るんだろ!」
「ここには入らせません!帰ってください!」
大声を出すな、シーリアが怯える。魔力による身の守りを展開し入り口の前に立ちふさがる。
「なんだ!?やるのかぁ?どけよ!」
男たちが武器を構える。一人はナイフ、もう一人はこん棒?だろうか。集中して攻撃を防ぐイメージをする。
「キィー!キィー!!」
キー助が騒ぐ、離れていてくれ。こいつらの意識がキー助に向かないようにしないと。
「そんなもので脅しても無駄です!帰りなさい!」
男がこん棒を振り下ろす、魔力で受け流す。
「つっ立ってるだけか?腰抜けがぁ!」
男たちが次々と俺に攻撃を加える、一度でも当たれば終わりだ。全力で集中する。
魔力はその内尽きるのだろうか?魔力が尽きればどうなるんだ?聞いておけば良かったな。
「キィー!キィーーー!」
「さっきからうるせぇな!!なんだあのゴブリン!」
やめろ、俺を狙うんだ。キー助には手を出させない……そう思った。
「ギャアアアァァァ!!!グワアアアアァァァァ!!!!!」
聞いた事のないキー助の声……咆哮?キー助の思いが伝わる。
(パパ!みんな!助けて!おじちゃんとおねえちゃんを助けて!)
俺の中の倫理が壊れた……。この国の法律など詳しくは知らない、こいつらが合法なのかも。だがもう我慢しない。
「……分かったよ、キー助。お前に情けない姿は見せられないよな」
「なんだ?ゴブリンとしゃべってんのか?頭おかしいぜお前!」
攻撃のスキを見て蹴りを入れる、とっさに近くの小石を拾い投げつける。
「なんだコイツ!!殺してやる!!」
俺の攻撃が更に男たちを激昂させる。知ったことか、俺はお前らよりも激しく怒っている。
「ギャアア!!ギャアアアアアァァ!!」
「さっきからうるせぇんだよ!」
男がキー助に向かう、させるか。俺は魔力を展開したまま体当たりをし倒れ込む。
すぐさま起き上がり小石を拾いながら入り口に戻る。
「もうお前らは帰らなくてもいい……ここで俺が叩きのめす」
今まで学生時代にも喧嘩などしたことが無い、格闘技の経験も無い。俺にあるのは怒りだけだ。
怒りに任せてナイフの男に地面の小石を投げつけ蹴りを入れる、よろける男の顔面を蹴り上げる。
男たちの攻撃も激しさを増す、何度も攻撃を受け続ける内に俺の魔力も次第に厚みを失っていった。
男のこん棒が魔力による身の守りを通り抜け足に当たる、激痛が走るがかまってられない。
「グッ!ダメだ……俺は絶対に……負けられないんだ」
もう魔力は出ない、しかし絶対に倒れない。拳を男の顔面めがけて振りぬく。体力も尽きてきた、手ごたえが無い。
「ギャアアァァ……!!」
キー助の叫び声が小さく弱々しくなってきた、俺が守らなければ。
男のこん棒が何度も俺を打ち付ける、身体を丸め耐える。
「しつこいおっさんだな!いい加減に死にやがれ!」
これだけの騒ぎだ、中でシーリアが怯えているに違いない。
俺は諦めない、最後まで。死んでも倒れるものか。
背後から……いや廃墟の周囲から何か聞こえる、大勢の足音。叫び声。
「……おい、なんだ!?マズいんじゃねえのか?」
無数の小石や木の槍のような物が降り注ぐ、次第にそれらは精度を増し男たちめがけて殺意を高めていく。
「ガアアアァァ!!!!ゴアアアアアアァァァ!!!!!!」
森全体が動いているような、物凄い数の小さな生き物の大群。
「おいっ!ヤバいぞ!ゴブリンだ!ゴブリンの群れだ!!」
廃墟は瞬時にゴブリンに囲まれた。ゴブリンたちの叫び声が男たちから完全に戦意を奪う。
「キィーー!キュイーー!」
キー助が大きなゴブリンに抱えられている。使い込まれた鉄製の兜を被っている、その鋭い眼光は迫力があり威厳を感じるゴブリンだ。
パパ……かな?俺は全力で笑顔を作り、キー助に手を振る。兜のゴブリンは俺を見るとキー助を連れて森へと消えていった。
「おい!早く逃げるぞ!!」「分かってるよ!!」
男たちが逃げていく、ゴブリンの群れは男たちを追いかけその声は遠ざかっていった。
読んでいただいた全ての方に感謝します。
突然の別れに再び空いた心の穴。




